JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Paul Bley ポール・ブレイ Alone,Again  

ボール・ブレイのもう一つのソロ

 

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ポール・ブレイの代表作と言えば、

「オープン・トゥ・ラブ」であり、私もそう思う。

ブレイの魅力を伝えるに相応しい完成度の高い傑作である。

しかし、今回は、あまり取り上げられることのない、

ブレイ自身が立ち上げた、IAIレーベルのソロ作品、

「アーロン・アゲイン」を紹介したいと思う。

 

「オープン・トゥ・ラブ」という作品は、

 

その、只ならぬ緊張感と、張り詰めた空気感の中で、

ある意味、偶発的とも言える美の瞬間が、奇跡的に記録された、

まさに即興の面白さといった観点において、不動の貫禄がある。

数多のピアノソロ作品の中においても、群を抜いている。

 

一方、「オープン・トゥ・ラブ」から2年後に録音されたこの作品の魅力は、

「確かな」「落ち着いた」「冷静な」「端整な」意図された輝きがある。

この作品にかけたブレイの意気込みと緊張は、

傑作「オープン・トゥ・ラブ」を創り上げたブレイ自身しか

理解できないものかもしれないが、

長年ブレイの音楽に親しんできた私の自負からも、感慨深く共感できる。

この「アーロン、アゲイン」というタイトルにも表れているように、

ブレイが、自分自身の孤独に再び向き合い、前作とは異なるアプローチで、

より思索的であらかじめ計算されたソロワークを成し遂げたのであり、

ブレイにとって重要な作品であると断言したい。

 

いかにもアーネット・ピーコックの曲らしい、

6曲目「Dreams」が特に素晴らしい。

淡々としていて、抑制が効いていて、一つ一つ確かめるような進行は、

却って、曲の持つ妖艶さを際立たせるのに成功している。

まさに、余分なものを削ぎ落とし辿り着いた、意図的な美しさがある。

 

参考までに、この作品の3年後に「アクシス」というソロ作品を、

同じIAIレーベルから出しているが、

一転、饒舌で飄々とした、ブレイらしい演奏になっており、

ホッとしたのを覚えている。

「アーロン・アゲイン」の時の重圧から解き放たれ、

ブレイの奔放さが清々しい仕上がりになっているのがおもしろい。

 

1  "Olhos de Gato" (Carla Bley) - 4:29

2  "Ballade" - 5:54

3  "And Now the Queen" (Carla Bley) - 3:06

4  "Glad" - 5:08

5  "Lovers" - 5:34

6  "Dreams" (Annette Peacock) - 5:57

7  "Explanations" - 6:48

 

recorded in Norway in 1974

 


Dreams

 

Jacob Collier ジェイコブ・コリアー Djesse Vol. 2

ジェイコブ・コリアーについて

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新譜ではない、旧作の紹介。

ジェイコブ・コリアーの音楽を遡りつつ、紹介したいと思う。

昨年、遅まきながら(というかむしろ敬遠していたきらいがあるが)、

ジェイコブの音楽を少しずつ、聴き慣れていくうちに、

日に日に、彼が創り出す音楽が気になっていくことを感ずる。

 

ジェシー4部作のVol.2となる本作は、

ITUNESでは、「オルタナティブ・フォーク」というジャンルに位置付けられている。

以前紹介した、vol.3は「R&B/ソウル」に、vol.1は「ジャズ」に、

それぞれカテゴライズされているといったことからも窺われるように、

ジェイコブの音楽は、様々な音楽ジャンルの垣根を超えて、

まさに、「これまで聴いたことがあるようで、聴いたことのない」、

また、 「実験的でありながら、伝統の心地よさに溢れ」、

そして、「好き勝手し放題に見えて、計算された説得力がある」、

何か次元の違う、新しい音楽を提示している。

 

伝統に対するリスペクトと確かなテクニックに裏付けられた音楽は、

聴くものを瞬時に、ジェイコブ独自の世界に引き込んでしまう魔力を持つ。

私は、残念ながら、生のジェイコブの演奏に接したことはないが、

彼のライブを観た人は、度肝を抜かれたのではないかと思う。

 

自信満々のライブパフォーマンスに少し嫌悪感を抱く人はいるかもしれないが、

丁寧に造り込まれたスタジオ録音の諸作を聴いたり、

タイニー・デスクでの映像や、Snarky Puppyでの客演の映像を見たりすると、

彼の才能の凄さ、緻密さを思い知らされる。

圧倒的な才能である。

こんなミケランジェロのような天才は、なかなか現れない。

 

一見、一聴した印象や、安易なキャッチフレーズなどの露出イメージで、

一旦、敬遠してしまうと、

この世の宝を見逃してしまうという経験のなんと多いことか。

最近つくづく思う。

もっと、謙虚に謙虚に、いろいろなものに関心を持って触れていきたい。

 

1. Intro
2. Sky Above
3. Bakumbe
4. Make Me Cry
5. Moon River
6. Feel
7. A Noite
8. Lua
9. I Heard You Singing
10. It Don’t Matter
11. Here Comes The Sun
12. Dun Dun Ba Ba
13. Nebaluyo
14. Do You Feel Love
15. Outro
16. Time To Rest Your Weary Head

 


Feel (feat. Lianne La Havas) - Jacob Collier [OFFICIAL AUDIO]

 

 

Carla Bley カーラ・ブレイ Heavy Heart

こんなメロウなカーラも好い!

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このアルバムも、自分にとって、極めて懐かしい一枚であり、

本当によく聴いた一枚である。

 

カーラにしては、非常に珍しくポップでメロウな聴きやすい曲が多く

親しみやすい作品に仕上がっている。

しかし、よく聴き込むと、

実によく考えられた構成とオーケストレーションが秀逸である。

 

そして何より、ソリストの演奏が素晴らしい。

まずは、ケニー・カークランド。

こういうオーケストラに乗っかってソロを取るケニーを聴けるのも珍しく、

溌剌とした疾走感溢れる即興が痺れてしまう。

 

そして、4曲目の「Ending it」における、

ゲーイリー・ヴァレンティのトロンボーンの鬼気迫る力強いソロ!

 

また、5曲目の「Starting again」のハイラム・ブロックの気合の入ったソロ。

 

さらには、タイトル曲「Heavy heart」における、

ティーブ・スレイグルの泣ける泣けるソロ!

エンディングに向かう、スレイグルのソロがメチャクチャに格好いい。

 

1977年の「ディナー・ミュージック」同様、

時代の音を捉えた、良質なポビュラリティが、さりげなく際だっていて、

こういう、カーラの一面も大好きだ。

 

Carla Bley organ, synthesizer
Steve Slagle flute, alto and baritone saxophones
Hiram Bullock guitar
Gary Valente trombone
Kenny Kirkland piano
Steve Swallow bass
Victor Lewis drums
Manolo Badrena percussion
Additional Horns:
Michael Mantler trumpet
Earl McIntyre tuba
Recorded September and October 1983

 

1.Light or dark

2.Talking hearts

3.Joyful noise

4.Ending it

5.Starting again

6.Heavy heart

 

こちらはライブ演奏「ヘビー・ハート」のスレイグルの熱い演奏


Carla Bley - Heavy Heart

 

 

Derrick Hodge デリック・ホッジ Color of Noise

フランクな色気

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昨年のリリースであるが、

新しい年の一発目に紹介すると決めていた一枚、

デリック・ホッジ、三枚目のリーダー・アルバム「Color of Noise」。

タイトルそして、モノクロのジャケットも秀逸。

 

素晴らしい出来である。

これからのミュージックシーンを牽引していく、オーガナイザーとして

稀有な可能性をもった一人であることは間違いない。

 

多彩で、ルーズで、自由で、フランクで、

何より、アルバム全体を通して、言い尽くせない色気がある。

正直、こういった先鋭的な音楽は途中で断念してしまう傾向が多いのだが、

このアルバムは、聴き進むごとに惹き込まれ、どんどん音楽に浸っていくのを感じた。

 

これからも、

ジェイコブ・コリアー や、ジャズではないけれども、タイラー・ザ・クリエイター

など、時代の感覚を鋭敏に捉え、新しい音楽を創り出しているアーティストの音楽に、

耳を傾ける謙虚さは備えていきたいと思う。

 

講釈はあまり加えたくない。

ひたすら、ホリッジの溢れるアイデアを、

まずは、聴き浸ってほしい。

 

Derrick Hodge(b,key,g,vo)
Jahari Stampley(org, p)
Justin Tyson(ds)
Michael Aaberg (key, synth)
Michael Mitchell (ds)
DJ Jahi Sundance(turntable)

 

1. The Cost 4:41
2. Not Right Now 6:27
3. Little Tone Poem 1:17
4. You Could Have Stayed 4:44
5. Color of Noize 7:03
6. 19 5:00
7. Fall 6:26
8. Looking at You 5:14
9. Heartbeats 3:33
10. New Day 5:33
11. You Could Have Stayed (feat. Jahari Stampley) 2:58

 

全曲紹介したいのですが、とりわけ思索的な雰囲気の一曲、


Derrick Hodge - Looking At You

 

そして、オフィシャルビデオをどうぞ


Derrick Hodge - Heartbeats (Official Video)

 

Miles Davis マイルス・デイビス My Funny Valentine

マイ・フェイバリット・アルバム

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・このジャケットを見るだけで、特別な気持ちになる。

・「いま、ジャズを聴いているなぁ」という気持ちに浸らせてくれる。

・自由自在にタイムキープが変わる空間に突き刺さるマイルスのペットの素晴らしさ。

・「星影のステラ」演奏中に聞こえる一人の観客の叫び声の気持ちがよく分かる。

・ステージ直後は意気消沈、でも録音聴いてその出来の良さに感嘆という逸話がある。

・ジョージ・コールマンが珠玉のパフォーマンスをしている。

・このライブでのハンコックのソロにはいつも鳥肌が立つ。

・改めて、ハンコックがマイルスに寄り添うバッキングの素晴らしさにも脱帽。

 ・聴き入る客席、演奏に集中する個々のパフォーマー、張り詰めたホールの臨場感。

 

どれをとっても、語り尽くせない魅力を備えた、マイルスの最高のライブ音源であり、

私の音楽人生にとって、欠くことのできない大切な作品です。

 

このアルバムの紹介を持って、今年の締めくくりとしたいと思います。

ご覧いただいた方、ありがとうございます。

良いお年をお迎え下さい。

 

Miles Davis:trumpet

George Coleman:tenor sax

Herbie Hancock:piano

Ron Carter:bass

Tony Williams:drums

1964年2月12日、リンカーンセンター、フィルハーモニック・ホール、ニューヨーク

  1. MY FUNNY VALENTINE(L-Hart-R.Rodgers) 15:06
  2. ALL OF YOU(C.Porter)14:55
  3. STELLA BY STARLIGHT(N.Washington-V.Young) 13:01
  4. ALL BLUES(M.Davis) 8:56
  5. I THOUGHT ABOUT YOU(M.Davis)11:14


Miles Davis Quintet at Philharmonic Hall - Stella by Starlight

 

 

Carlos Aguirre & Yotam Silberstein カルロス・アギーレ&ヨタム・シルバースタイン En el jardín

この至福の心地よさはなんだろう

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カルロス・アギーレの前作「La Música del Agua」も素晴らしかったが、

今回は、イスラエルのギタリスト、ヨタム・シルバースタインが加わったデュオ作品。

デュオと言いながら、アギーレがピアノだけでなく、ベースやパーッカッション、

管楽器など、多彩な楽器を駆使して、心地よいアンサンブルを創り出している。

 

そして、今回の収穫は、何と言っても、ヨタムのギター。

初めて聴くギタリストであったが、ギターの音色や佇まいに、

透明感と浮遊感があり、アギーレが創り出す、

南米の自然を想起させるナチュラルでそよ風のように心地よいサウンドに、

実にうまくマッチしている。

 

全編、夢こごちのような曲想が繰り広げられ、なんとも心地よい。

この心地よさは、いったい、なんであろう。

タンゴの国、アルゼンチンには行ったことがないけれど、

季節も反対の日本の真裏に位置しているこの国の、

壮大で、多様な自然が生み出す風土から生まれる包容力なのか、

土着性とヨーロッパ文化との融合から生まれた独自性なのか、

よくわからないが、ブラジル音楽ではなく、やはりアルゼンチンの音楽という

ことは強く感じる。

アルゼンチンには、都市部の洗練された白人系のヨーロッパ文化と、

牛とともに放浪する地方のガウチョの文化の両面があり、

土着と洗練の融合が独特な魅力を生み出しているのではないかと思うのである。

 

アギーレの音楽は、そうしたアルゼンチンの自然と文化に育まれた、

素直で郷土愛に満ちたものであるが、やはりそこに、

非常に、現代的な第三の媒介項として、ジャズ音楽の高度に洗練されたセンスを

うまく取り入れていると思うのである。

 

いつまでも聴いていたい爽やかさと、

聴く度に増す味わいの深さを兼ね添えた

素晴らしいアルバムです。

 

Carlos Aguirre –

 piano, Rhodes, accordion, synthesizer, guitarrón, fretless bass,  electric bass,         

 bass flute, percussion, voice

Yotam Silberstein –

 electric guitar, classical guitar, voice

1 Fairytale (Silberstein)

2 Nuevos viejos amigos (Aguirre)

3 João (Silberstein)

4 En el jardín (Aguirre)

5 Ga'aguim (Silberstein)

6 Paisaje imaginario (Aguirre)

7 Madrugada (Silberstein)

8 Tanto para agradecer (a Ivan Lins) (Aguirre)

 


08 Tanto para agradecer (Carlos Aguirre)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2020のBEST3

今年のベストは、メルドー、マイルス、ムースピール

Brad Mehldau ブラッド・メルドー Suite:April 2020 - JAZZ遊戯三昧

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Ron Miles ロン・マイルス Rainbow Sign - JAZZ遊戯三昧

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WOLFGANG MUTHSPIEL ウォルフガング・ムースピール ANGULAR BLUES

- JAZZ遊戯三昧

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順位付けはしない。

今年、コロナ渦の中、よく聴いた3枚である。

 

いずれもの作品にも、

日常の生活における「時間のながれ」という感覚を

いつもより、澄んだ気持ちで、静かに、落ち着いて

確かめることのできる、確かな「説得力」がある。

 

過剰で無駄な心の動きを止め、妄想に気づき

自らを見つめ直し、削ぎ落とし、心を整えて

自分という存在の輪郭、役割、貢献を理解する

 

凄まじくも静謐な、そして研ぎ澄まされた、

彼らの音楽の醍醐味をご堪能ください。

 

おまけ動画として、

ブラッド・メルドーがオランダ・アムステルダムのコンサートホール、

コンセルトヘボウでの無観客ライブ映像

Empty Concertgebouw Sessions」を紹介します。

 


Brad Mehldau - Empty Concertgebouw Sessions