JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

小曽根真 Trinfinity

小曽根真について考える

小曽根真は、
既に、かなり前から、
今や日本のジャズミュージシャンの
精神的な支柱となっている感がある。
彼のプレイの卓越さだけでなく、
いろんな面で配慮ができ、
そのポジティブで開かれた印象の人間性からも
絶大な信頼を得ているのであろう。

私自身、
小曽根真の実際の演奏に接したことは2度ほどしかないが、
まず、一番印象的なのは、
楽しそう、嬉しそうに弾いている姿である。
弾いている最中の視線も、
エバンスのように内省的な下向きではなく、
一緒に演奏するプレイヤーに時には微笑み、
時には挑戦的な視線が向けられている。
こうした印象は、非の打ちどころのない
緩急がついた、良く歌う正確なプレイと
相まって、観客にとっても、
何かほのぼのとした一体感を
与えるような効果がある気がする。
この前、壺阪健斗という素晴らしい若手の
ピアニストの演奏を聴いたが、
その舞台での仕草、様子は、
まるで小曽根真を見ているようだった。

私は「オリジナリティ」
という言葉を過度に信用はしていない。
池田満寿夫が指摘している様に、
芸術なんてものは、
ある意味、「模倣」に始まり、
「模倣」に終わるものだと思うからである。
模倣こそが芸術の本質というのは真理である。

だから誰かから、何かしら影響を受けていない
アーティストなんか、あり得ないし、
そんな人が仮にいたとしても、
極めて独創的だと手放しで
評価されるべきのものでない気がする。
一人の優れたアーティストの根底には、
必ずルーツとなる何かしら、
先人のスタイルの影響があるのである。

人間の思考や表現といったものは、
何かしら外部からの刺激を受け、
それを自分というフィルターを通じて、
表出されるものであるが、
音楽の場合、先人のプレイに刺激を受けて、
模倣したくなり、自分自身の表出の仕方を
試みていくわけである。
その表出の仕方に、
その人固有の「癖」と「表情」というものが
立ち現れてくるのが普通である。
そして、その「癖」や「表情」の
あり様そのものが、
その人の味として、個性として魅力を感じたり、
感情移入できるものなのではなかろうか。

そのように考えたとき、
小曽根真の「癖」や「表情」のあり様とは
どの様なものなのか、
少し思いを巡らしてみたくなった。

ところが、小曽根というフィルターを通すと
その性能が凄すぎて
過去の偉大なパーチュオーゾの音楽が、
そのまま高精細に、いやむしろさらに
磨き上げられて美しく再構成されて、

見事に表出されてしまっている気がするのである。

だから、小曽根の「癖」とか「表情」は何かと
問われると、非常に難しい質問になってしまうのである。

 

すでに、小曽根真も私同様、還暦を超えた。
実は、最近、若手を従えた、この
「Trinfinity」というアルバムを聴いて、
これまでの印象が、少し変わったのである。
言い表しにくいが、
音の表情がすこし、変容している。
相変わらず、正確無比な演奏で、
やっぱり変わらないなぁと思う曲もあるが、
冒頭の「ザ・パス」のアプローチ、
曲構成が実に素晴らしいし、
もどかしささえ感じるピアノの弾きっぷりが
新鮮である。
8曲目のバラード「インフィニティ」
なんかは、還暦を過ぎた者しか
出せないような凄みと共に、
枯淡さといおうか、諦観といおうか、
フラジャイルな面も感じられた。

こうした小曽根真のある意味「弱み」を帯びた表情が
格別に心に染み入ってくるようなタームに
なってきたような予感がして、
こんな振り返りをしてみたくなったのである。

 

1. ザ・パス
2. スナップショット
3. ザ・パーク・ホッパー
4. デヴィエーション
5. エチュダージ
6. モメンタリー・モーメント 1/10先行配信
7. ミスター・モンスター
8. インフィニティ
9. オリジン・オブ・ザ・スターズ

小曽根真:piano
小川晋平:bass
きたいくにと:drums
with
パキート・デリベラ:clarinet on 5
ダニー・マッキャスリン:tenor saxophone on 3, 4
佐々木梨子:alto saxophone on 3
二階堂貴文:percussion on 5

2023年8月25日&26日 

ニューヨーク、パワーステーション・バークリーNYCにて録音

 


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