JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Robert Glasper ロバート・グラスパー Let Go

ノックアウトしました。

なんといいますか、素晴らしいです。

 

最初の一曲目を聴いて、
「このまま、こんな感じで、最後までいってくれたらなあ」
と思いつつ、聴き進めていくと、
なんと、ちゃんと、私の心持ちに沿って、
静かに、揺蕩うように、優しく、
癒してくれた。

 

オーガスト・グリーンのアルバムでも聴いた
タイトル曲「Let Go」を聴くに至っては、
グラスパーのある本性の一部を垣間見たような気もした。

先入観というものは誰しにもあるものである。
もし、これが、グラスパーの作品と知らずに、
知らない新人アーティストの作品として紹介されたら、
ふうーん、で終わっていたかもしれない。

 

あのグラスパーが、こんな内省的な音像に徹した作品を
プロデュースしたことに感動しているだけなのかもしれない。
それにしてもだ、
いつまでもいつまでも浴びていたい音像である。

 

こういう音楽を創る心境になった
グラスパーの内因を知りたい気もするが、
どうでも良い気もする。
音楽へのアプローチの仕方として、
基調となるリフレインを繰り返す事を好むアーティストの
当然の帰結なのかもしれない。

 

あと、「アンビエント」なという
形容詞では片付けたくない、
もう少し新奇なディレクションを感じる。
ひとまず、
何かしら含みのある軽さと重さを備えた、
素敵なアルバムに仕上がっているとでも、
言っておこうか。

 

とにかく今の私の心象にピタリと嵌ってくるのが、
なんとも嬉しい限りである。

 

Robert Glasper(key),
Bernis Travis(b),
Kendrick Scott(ds),
Chris Scholar(g),
Meshell Ndegeocello(vo)

 

1 “Breathing Underwater” (feat. Meshell Ndegeocello)
2 “Your Eyes”
3 “Let Go”
4 “Inner Voice”
5 “Round ‘bout Sunlight”
6 “Going Home”
7 “That One Morning”
8 “Awakening Dawn”
9 “Luna’s Lullaby” (feat. Burniss Travis)
10 “Deep Down”
11 “Enoch’s Meditation”
12 “I Am”
13 “Truth Journey”

 

若井優也 YUYA WAKAI  Will II

続・続 気になる日本のジャズピアニスト、若井優也

 
気になる日本のジャスピアニストシリーズ、

三人目は、若井優也。

 

かなり前から、気になる人ではあったが、
新作「Will II」を聴いて、
今、絶好調なのではあるまいか。この人。

 

まず、選曲がいい。
前作の「Will」で、デューク・ピアソンの「Is That So」を
取り入れた時もそう思ったが、
今回は、私の大好きな「For Heaven’s Sake」で、
始まっている所からして、心浮き立つものがあった。
切ない、バラード曲であるが、
甘くなりすぎず、むしろ硬質にトリッキーに
まとめているところが、面白い。

 

全般的に、やはりどうしても、メルドー感は否めないが、
メルドーイディオムのスリルと斬新さを、
上手く翻訳してくれるような、わかりやすさがある。

 

そして、何より、フレキシブル極致の鉄壁勇者二人のサポートを受けて、
まさに、トリオミュージックならではの
緊密でスポンティニアスな対話を聴かせてくれる。

 

若井優也は、基本ロマンティストだと思う。
メルドーのような、徹底的な冷徹さはない。
だから、もともとロマンティストなんだから、
もっともっとストイックな、彼が得意な数学的なアプローチの、
ファンを突き放すぐらいの、冒険をやっても良いと思う。

 

今回の新作の中で、白眉と思ったのは、
「Waltz #14」。
この曲のように、単調とさえ思われる全体のトーンの中で、
仄めくロマンティシズムが立ち現れてくるような、
朦朦たる演奏を期待できるのは、
今のところ、若井優也しかいない。
それにしても石若のドラムはやはりすごいですね。

 

今やバンクシアトリオとともに、
もっとも刺激的な、トリオミュージックを堪能させてくれる
素晴らしいユニットである。
今後、大いに期待したい。

若井優也 / Yuya Wakai (Piano)
楠井五月 / Satsuki Kusui (Bass)
石若駿 / Shun Ishiwaka (Drums)

1. For Heaven’s Sake (Sherman Edwards, Donald Meyer, Elise Bretton)
2. Skippy (Thelonious Monk)
3. Waltz #14 (若井優也)
4. Hedera (石若駿)
5. Immortal Jellyfish (石若駿)
6. Will: Part 1 (若井優也)
7. Waltz #13 (若井優也)
8. Turn Out The Stars (Bill Evans)
9. Old Friends II (石若駿)
10. M.O.B. (若井優也)

 


www.youtube.com

BILL FRISELL  ビル・フリゼール  ORCHESTRAS

フリーゼル・ミュージックのオーケストレーション

 

ビル・フリーゼルとマイケル・ギブスが組んだ、最新作。
クラシカルなオーケストラの共演、そして
ビックバンドオーケストラとの共演という二つのディスクで
構成される意欲作である。

フリーゼルの音楽こそ、
オーケストレーションにふさわしいと痛感。
緻密に譜面化されたオーケストレーション自体が、
マイケル・ギブスの力量で、
フリーゼルの感性を体現しており、
その中で、自由に彷徨するフリーゼルのギターが
光彩を放っている。

いつも思うことなのだが、
ビル・フリーゼルの面白いところは、
ギターのプレイスタイルは頑固なほど変わらないが、
アルバム制作のアプローチの仕方がいつも冒険的で
チャレンジングであるところ。
いつも変わらず、安心して、
フリーゼル節を堪能できるとともに、
彼と一緒に、いろんな世界への旅に
連れ出されていくような気分にさせられる。

そして、何より、
トーマス・モルガン、ルディ・ロイストンによる
鉄壁サポートが、この壮大なチャレンジの
土台を支えているところが評価できる。

つまり、
今最もフリーゼルの音楽を自由かつしなやかに
繰り広げ、昇華できる、
このレギラーユニットを基礎に据えているところが、
このアルバムの成功の要となっている気がする。

これが、フリーゼルのギター一本と
オーケストラとの共演という構成であれば、
このなんとも言えない、落ち着いたしっくりする雰囲気を
創り出せなかったような気さえする。

久々に、ゆったりした気持ちで、
揺蕩う音楽の贅沢さに身を委ねることができる
作品に出会った気がする

 

Disc1:
Bill Frisell(g) Thomas Morgan(b) Rudy Royston(ds) Brussels Philharmonic(orch) Alexander Hanson(cond)

Disc2:
Bill Frisell(g) Thomas Morgan(b) Rudy Royston(ds) Umbria Jazz Orchestra(orch) Manuele Morbidini(direction)

 

【Disc 1】
1. Nocturne Vulgaire
2. Lush Life
3. Doom
4. Rag
5. Throughout
6. Electricity
7. Sweet Rain
8. Richter 858, No.7
9. Beautiful Dreamer

【Disc 2】
1. Lookout for Hope
2. Levees
3. Strange Meeting
4. Doom
5. Electricity
6. Monica Jane
7. We Shall Overcome

 


www.youtube.com

 

Chris Potter  クリス・ポッター Eagles Point

ジャケットが意味深! クリス・ポーターの新作を聴く

ポッター、メルドー、パティトゥッチ、ブレイドの名が記された

アルバムアートワークがまず意味深。

 

赤の下地の中央付近に、

細やかな無数の鳥の羽ばたくカラフルなシルエットに刻まれた

四人の赤字のクレジット。

地味なデザインでありながら、訴求力を感じる。

背景の赤地に赤字のクレジットは普通は、目立たないので、

あまり使わない組み合わせだが、

なんだか、このユニットの特徴を

端的に示しているような気がするのである。

 

全編、只管、「即興」が淡々と繰り広げられている。

楽曲の構成とか、極端な演出や盛り上がりなど、

奇を衒ったところが無く、

むしろ一聴して、平板にさえ感じるのだが、

そこがたまらなくいい!

 

ただ、四人がお互いの音を確かめながらインプロしている。

そんな印象がある。

何せこのメンバーである。

集まって、何を創造するのかは、どのように決まっていくのであろう。

そのプロセスこそ知りたいが、

聴いて感ずるところでは、

ポッターによる簡単なテーマ、構成提示だけで、

あとはも個々人の技量に任せた、

スポンティニアスな展開に任せたのではと予想するものである。

 

昨今、本当に良く練られ、考え抜かれた構成と

ジャズの新たな地平を突き走るような野心作も本当に多く出てきて、

ワクワクしているが、

このアルバムのように、

四人の円熟したインプロバイザーのインタープレイの成り行きに

身を任せるのも、なんともスリリングで嬉しい!

 

Chris Potter (ts, ss, b-cl)
Brad Mehldau (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)

 

1. Dream of Home
2. Cloud Message
3. Indigo Ildikó
4. Eagle's Point
5. Aria for Anna
6. Other Plans
7. Málaga Moon
8. Horizon Dance

9. All the things you are

 

Chris Potter (ts, ss, b-cl)
Brad Mehldau (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)

 


www.youtube.com

 

 

 

 

 

小曽根真 Trinfinity

小曽根真について考える

小曽根真は、
既に、かなり前から、
今や日本のジャズミュージシャンの
精神的な支柱となっている感がある。
彼のプレイの卓越さだけでなく、
いろんな面で配慮ができ、
そのポジティブで開かれた印象の人間性からも
絶大な信頼を得ているのであろう。

私自身、
小曽根真の実際の演奏に接したことは2度ほどしかないが、
まず、一番印象的なのは、
楽しそう、嬉しそうに弾いている姿である。
弾いている最中の視線も、
エバンスのように内省的な下向きではなく、
一緒に演奏するプレイヤーに時には微笑み、
時には挑戦的な視線が向けられている。
こうした印象は、非の打ちどころのない
緩急がついた、良く歌う正確なプレイと
相まって、観客にとっても、
何かほのぼのとした一体感を
与えるような効果がある気がする。
この前、壺阪健斗という素晴らしい若手の
ピアニストの演奏を聴いたが、
その舞台での仕草、様子は、
まるで小曽根真を見ているようだった。

私は「オリジナリティ」
という言葉を過度に信用はしていない。
池田満寿夫が指摘している様に、
芸術なんてものは、
ある意味、「模倣」に始まり、
「模倣」に終わるものだと思うからである。
模倣こそが芸術の本質というのは真理である。

だから誰かから、何かしら影響を受けていない
アーティストなんか、あり得ないし、
そんな人が仮にいたとしても、
極めて独創的だと手放しで
評価されるべきのものでない気がする。
一人の優れたアーティストの根底には、
必ずルーツとなる何かしら、
先人のスタイルの影響があるのである。

人間の思考や表現といったものは、
何かしら外部からの刺激を受け、
それを自分というフィルターを通じて、
表出されるものであるが、
音楽の場合、先人のプレイに刺激を受けて、
模倣したくなり、自分自身の表出の仕方を
試みていくわけである。
その表出の仕方に、
その人固有の「癖」と「表情」というものが
立ち現れてくるのが普通である。
そして、その「癖」や「表情」の
あり様そのものが、
その人の味として、個性として魅力を感じたり、
感情移入できるものなのではなかろうか。

そのように考えたとき、
小曽根真の「癖」や「表情」のあり様とは
どの様なものなのか、
少し思いを巡らしてみたくなった。

ところが、小曽根というフィルターを通すと
その性能が凄すぎて
過去の偉大なパーチュオーゾの音楽が、
そのまま高精細に、いやむしろさらに
磨き上げられて美しく再構成されて、

見事に表出されてしまっている気がするのである。

だから、小曽根の「癖」とか「表情」は何かと
問われると、非常に難しい質問になってしまうのである。

 

すでに、小曽根真も私同様、還暦を超えた。
実は、最近、若手を従えた、この
「Trinfinity」というアルバムを聴いて、
これまでの印象が、少し変わったのである。
言い表しにくいが、
音の表情がすこし、変容している。
相変わらず、正確無比な演奏で、
やっぱり変わらないなぁと思う曲もあるが、
冒頭の「ザ・パス」のアプローチ、
曲構成が実に素晴らしいし、
もどかしささえ感じるピアノの弾きっぷりが
新鮮である。
8曲目のバラード「インフィニティ」
なんかは、還暦を過ぎた者しか
出せないような凄みと共に、
枯淡さといおうか、諦観といおうか、
フラジャイルな面も感じられた。

こうした小曽根真のある意味「弱み」を帯びた表情が
格別に心に染み入ってくるようなタームに
なってきたような予感がして、
こんな振り返りをしてみたくなったのである。

 

1. ザ・パス
2. スナップショット
3. ザ・パーク・ホッパー
4. デヴィエーション
5. エチュダージ
6. モメンタリー・モーメント 1/10先行配信
7. ミスター・モンスター
8. インフィニティ
9. オリジン・オブ・ザ・スターズ

小曽根真:piano
小川晋平:bass
きたいくにと:drums
with
パキート・デリベラ:clarinet on 5
ダニー・マッキャスリン:tenor saxophone on 3, 4
佐々木梨子:alto saxophone on 3
二階堂貴文:percussion on 5

2023年8月25日&26日 

ニューヨーク、パワーステーション・バークリーNYCにて録音

 


www.youtube.com

Jacob Collier ジェイコブ・コリアー Djesse Vol. 4

ジェイコブ・コリアーの「わかりすく、難しことをやる」

 

このジェイコブ・コリアーの

Djesseシリーズ最後の集大成的アルバムを聴いて、

久しぶりに若かりし頃の音楽的戦慄の感覚が蘇ってきた。

 

「戦慄」を辞書で引くと、「怖くて震えること。おののくこと」とある。

怖くはないので、少しニュアンスは違うが、

「身体が震える」とか「血がたぎる」とか「おののく」といった表現は

しっくりくる。

 

私にとっても洋楽の初体験であった、クイーンの第5作までの初期作品群や、

EL&Pの「恐怖の頭脳改革」、ツェッペリンの映画「永遠の詩」など、

十代の頃の音楽体験はあまりにも強烈で、まさに戦慄して聴いていた。

 

ジャズでは、そこまで十代のころ感じたような戦慄を与えてくれた

アルバムはないのかもしれない。

強いて挙げれば、

マイルスのライブ盤「マイ・ファニー・バレンタイン」

キースの「スタンダーズVOL.1」、ハンコックの「バタフライ」あたりか。

 

ジェイコブ・コリアーとの出会いは、最初から衝撃的で、

一時、かなりハマっていた時期があったが、

最近、少し鼻につくような感じで、飽きてきたとも言えるのだが、

このジェイコブ・コリアーの新作を聴いて、まずは、

「ああ、素直になったなぁ」

「ポップでわかりやすくていい感じ!」

という第一印象が、まずあり、とても好感が持て、聴き進むことができた。

しかし、聴き進むうちに、不思議なことに、

前述の若かりし頃の戦慄に近い感覚が蘇ってきたのである。

勿論、若かりし頃の戦慄の程度の強さには及ばないのだが、

もし、このアルバムを、若い頃に熟聴していたら

強烈に戦慄していたのではなかろうかと、想像してしまったのである。

 

それだけ、このアルバムは、広がりのある音楽の仕掛けが充満して、

玉手箱のような魅力に溢れ、わかりやすく、かつ完成度も高い。

わかりやすく、難しことをやる、ジェイコブは偉いと思うのである。

 

今更ながら、やはり、ジェイコブ・コリアーは凄いアーティストだと思う。

凄すぎて、リスナーは、滅多なことでは

驚かなくなってしまうのかもしれない。

これだけの創作物を、隅々まで浸りながら聴いてみれば、

その恐ろしいほどの沼に、溺れる事だろうと思うのである。

 

1. 100,000 Voices
2. She Put Sunshine
3. Little Blue (feat. Brandi Carlile)
4. WELLLL
5. Cinnamon Crush (feat. Lindsey Lomis)
6. Wherever I Go (feat. Lawrence & Michael McDonald)
7. Summer Rain (feat. Maddison Cunningham & Chris Thile)
8. A Rock Somewhere (feat. Anoushka Shankar & Varijashree Venugopal)
9. Mi Corazón (feat. Camilo)
10. Witness Me (feat. Shawn Mendes, Stormzy & Kirk Franklin)
11. Never Gonna Be Alone (feat. Lizzy McAlpine & John Mayer)
12. Bridge Over Troubled Water (feat. John Legend & Tori Kelly)
13. Over You (feat. aespa & Chris Marin)
14. Box Of Stars Pt. 1 (feat. Kirk Franklin, CHIKA, D Smoke, Sho Madjo, Yelle & Kanyi)
15. Box Of Stars Pt. 2 (feat. Metropole Orkest, Suzie Collier, Steve Vai & VOCES8)
16. World O World

 


www.youtube.com

TOM OLLENDORFF  トム・オレンドルフ  A SONG FOR YOU

初体験!Tom Ollendorff 

 

遅ればせながら、

最近知ったギタリスト。

いやー最初の一曲目から、私好みの音色と、牧歌感の強い曲調に、

一瞬で心を捉えられた。

きっちり伝統を踏まえた上でのモダンなアプローチが、聴き易くて、

自然に、トリオでの対話に没入することができる。

 

また、このベースのチャップリンという人が、

とてもふくよかなベース音で素晴らしい。

このトリオに通底するグルーブをしっかり支えている。

 

英国の若きギタリストということらしい。

英国出身のアーティストって、そんなに頭に浮かんでこない。

コートニー・パイン、ジョン・マクラフリンエヴァン・パーカー

ジョン・テイラーとか・・・・、

どこか一癖も二癖もある面々であるが、

このトム・オレンドルフの音楽は、とても穏やかで、心地よい。

 

今後注目していきたいギタリストである。

 

Tom Ollendorff (g)
Conor Chaplin (b)
Marc Michel (ds)

1 A Song for You
2 Spring
3 Etude 1
4 Not in These Days
5 XY
6 Autumn in New York
7 Aare
8 Etude 3
9 These Days

RECORDED at Giant Wafer Studios, Wales,

December 2 & 3, 2019

 


www.youtube.com