JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Will Vinson ウィル・ヴィンソン Four Forty One

企画力のウィル

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最近は、あまり気に入った新譜がないので、

そういう時は、

昨年とても気になっていたのに紹介できなかった作品を、

いくつか紹介していきたい。

 

正直、それほど、ウィル・ヴィンソンのアルト・サックスが好きなわけではないが、

彼の精力的な活動、ネットワーク、そして、アルバムの企画力の面白さには、

やはりいつも興味が湧いてしまう。

 

ギラッド・ヘクセルマン、アントニオ・サンチェスと組んだ、

最新作の「トリオ・グランデ」も聴く前から、興奮するようなワクワク感があったが、

この作品の参加アーティストのクレジットを見るだけでも、

聴かずにはおれない。

よくもこれだけの豪華なアーテイストに声をかけ、コーディネートし、

さらに単なるセッションに終わらない、非常にセンシティブな、

質の高い楽曲を創り上げている、ウィルの力量には脱帽だ。

 

このアルバムは、「5人のピアニストとの対峙」がテーマとなっている。

中でも、サリヴァン・フォートナーと、ゴンサロ・ルバルカバとの演奏は、

何か乾いた心に染み渡るような気がして、

いつもは、美しすぎて真っ当すぎてあまり好きでないウィルのアルト音色も

心地よく響いてくる。

サリヴァン・フォートナーのピアノは私好み。

 

豪華なメンバー、5人のピアニストの配置や進行などから想像される、

落ち着かなさは微塵もなく、非常に上質で、気を衒わない、

純粋なインプロビゼーションの面白さを堪能することができる傑作だと思う。

 

Will Vinson(As)
[1,2,11] Sullivan Fortner(P)、Matt Brewer(B)、Obed Calvaire(Ds)
[3,4] Tigran Hamasyan(P)、Matt Penman(B)、Billy Hart(Ds)
[5,6] Gerald Clayton(P)、Matt Brewer(B)、Clarence Penn(Ds)
[7,8] Fred Hersch(P)、Rick Rosato(B)、Jochen Rueckert(Ds)
[9] Gonzalo Rubalcaba(P)
[10] Gonzalo Rubalcaba(P)、Larry Grenadier(B)、Eric Harland(Ds)

 

1. Boogaloo
2. Love Letters
3. Banal Street
4. Oasis
5. I am James Bond
6. Cherry Time
7. Work
8. KW
9. The Way to You
10. That Happened
11. Milestones

 


'Love Letters' from 'four forty one' by Will Vinson

Fratello Joseph Bassi フラテッロ・ジョセフ・バッシ Ciao...Amore

嗚呼、和む。

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リラックスしたいときに、つい手にとってしまう愛聴版のひとつ。

 

テナーサックス、ピアノ、ベースという少し変わった編成のトリオである。

まず、なんと言ってもマックス・イオナータが甘い、甘い、甘い!。

控えめに、しっとり絡むドメニコ・サンナのピアノも渋くて好み。

そして、このトリオの一貫した音楽の確かな基底を刻むバッシのベース。

この三人が織りなす演奏は、

全編通して、ロマンチックで、密やかで、

しかも奥ゆかしく、上品なテイストで貫かれており、

全体として、非常にまとまりのあるアルバムとなっている。

 

つい手にとってしまうアルバムというのは、私の場合、

結構、ヨーロッパのアーティストによる、

どちらかといえば、真面目で地味ではあるが、緻密で上品な作品が多い。

このアルバムはその最たるものである。

いつ聴いても、飽きないし、その度に身を委ねることができる。

 

自分も、こんなトリオ編成で、

スタンダードな曲をあまり気を衒わず、

サラリと軽快に流しながらも、

ウイットの効いた絶妙なインターモデュレーション(相互作用)で、

演奏してみたいと思うのである。

 

Fratello Joseph Bassi (b)
Domenico Sanna (p)
Max Ionata (ts)

1.When I Look in Your Eyes
2.I Can’t Believe That You’re in Love with Me
3.Sno’ Peas
4.Voyage
5.I Know You Know
6.Say No
7.Ciro Chi?
8.Promenade
9.Giochi di Luci

REC October 12, 2015

 


Sno' Peas (feat. Domenico Sanna, Max Ionata)

SHUN ISHIWAKA 石若駿 Songbook3

血の通ったチャレンジ

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日本のジャズシーンを牽引していくだけの才能と人柄と可能性を

併せ持った、石若駿。

このSongbookシリーズを聴くと、心浮き立ち、ニンマリしてしまう。

 

「今後、自分を取り巻く音楽シーンは、どう変わっていくのか」

という質問に、彼自身が次のように答えている。

 

「これまで自分たちが他の国の音楽に憧れてきたように、これからは、(自分たちの音楽が)逆の立場になることが、近い将来ありそうだなって感じる。すごく着目されてくると思う。そしてそのように考えているミュージシャンが増えている気がする」

(https://www.youtube.com/watch?v=ASILsQ7VmYAより)

 

肌感覚で、石若駿の同世代、さらにはその下の世代のアーティストの手応えを

感じ取っているのだと思う。

なんとも頼もしい、羨ましい。

 

彼ほどの音楽の素養と修練尽くしたテクニックを備えたアーティストが、

様々な広がるネットワークと新しいテクノロジーを活用して、

世界に打って出ようとしているのである。

そして、重要なことは、

彼がそのことを為し得る、人格とリーダーシップを備えていることだ。

血の通ったチャレンジに大いに期待したい。

 

彼の多彩、多様な活動を振り返って、その思いを強くした。

 

石若駿(Ds)

角銅真実(Vo:2-5)、ermhoi(Vo:1,6)、Sara Rector(Vo:7)

Niran Dasika(Tp)、西田修大(G)

Marty Holoubek(B:2,5)、渡辺翔太(Syn:2)

Gideon Jukes(Tuba:1)、佐藤采香(Euphonium:1)、佐藤芳恵(Bcl:4)

須川崇志(B:7)、吉本章紘(Ts:7)、中島あきは(As:7)

 

1.OldfriendzII
2.おこのみやき
3.New Waltz
4.つづくよ
5.Song of New year's day
6.Rest
7.SSTC

 


Shun Ishiwaka『Songbook3』試聴動画

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

PAT METHENY GROUP パット・メセニー・グループ Offramp

「住する所なきを、まづ花と知るべし。」

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パット・メセニーを取り上げるのを敢えて避けてきたような気がする。

私の青春時代の大切な心象と重なるな音楽であり、

長い年月にわたって、その圧倒的な編集工学の妙味を、贅沢に、惜しげもなく、

提示し続けてきたパット・メセニー・グループ(以下、PMG)の音楽を、

短い文章の中で固定化してしまうのは、何か怖いような気持ちさえある。

 

当然、「これが最高傑作」などといった野暮な切り口で紹介はしたくないし、

PMGの変遷を滔々と語るのも、面倒だ。

 

最近、とても興味深い書物に出逢ったおかげで、

PMGを取り上げる気持ちを後押ししてくれた。

それは、安田登の「野の古典」(紀伊國屋書店)である。

その中で、世阿弥の芸論「風姿花伝」について触れており、

それがタイトルにある、

「住する所なきを、まづ花と知るべし」

という世阿弥の言葉である。著者は言う、

 

『花とは何かと聞かれれば、まずは「ひとつの状態に止まっていないこと(住する所なき)」といいます。花は散るからこそ花であって、咲き続ける花は花ではない。そう、まさに「初心」なのです。』

そして、

 

『初心の「初」と言う文字は布地に初めて鋏(刀)を入れることが原義。自分が変化をしようと思ったら、まずは過去の自分自身をバッサリと切り捨てなければならない、これが世阿弥の意図した本来の「初心」でした。自分自身を切り捨てるには痛みが伴います。血が流れることもある。特にうまくいっているときには、血を流してまでも現状を変えたいなどとさらさら思わないでしょう。しかし、むしろうまくいっているときこそ、過去の自分を切り捨てること、すなわち「初心」を忘れてはいけない、と世阿弥はいうのです。』

 

前人未到の7作連続、グラミー賞を受賞しているPMGは、

まさに、「初心」を忘れずに、いまの自分の栄光に浸ることなく、

想像を絶する努力を重ね、ひとつの状態に止まらない「花」=「作品」を

送り出してきたのでしょう。

 

今回、PMGの諸作品を改めて、新しいものから順に聴いてみたが、

過去に遡るごとに、どんどんPMGの音楽が純化していく。

ダイヤモンドが原石に戻っていくような感覚。原石もまた美しい。

そして、PMGではないが、その萌芽ともいえる作品、

「ブライト・サイズ・ライフ」や「ウォーター・カラーズ」まで振り返った時、

何か、説明しようのない、嬉しく、恥ずかしくもあるような、幸福感、

懐かしく、心に染み入る、ノスタルジーな感覚が押し寄せる。

けっきょく、過去の私を断ち切れない自分、

いつまでも、過去に執着する凡人の私なのである。

 

パット・メセニーライル・メイズという奇跡の出会いは、

PMGという舟を大海に漕ぎ出し、いくつもの嵐に晒されながらも、

装備を厚くし、補強しながら巨船へと変貌し、荒波に立ち向かって行った。

特に、その大きな変貌を感じさせる大きな転機のアルバムの一つが、

この「オフランプ」である。

冒頭のただ事でない予兆感に溢れた「Barcarole」に始まり、

あまりにも有名で心に残り続ける「Are You Going With Me?」、

そして、この世のものとは思えない非現実感満載の「Au Lait」に至ると、

私の心は完全に崩壊してしまうのです。

 

Steve Rodby(b)
Danny Gottlieb(ds)
Lyle Mays(Piano, Synthesizer, Organ)
Nana Vasconcelos(Voice, Percussion, Berimbau)
Pat Metheny(g)

1981年10月、ニューヨークにて録音

 

1.Barcarole
2.Are You Going With Me?
3.Au Lait
4.Eighteen
5.Offramp
6.James
7.The Bat Part II

 

この漂うような音楽に浸っていた多感なあの頃を思い出す。


www.youtube.com

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

EYOLF DALE  エイヨルフ・ダーレ  Being

北欧クール

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まだ、よく聴き込んだわけではないが、

私のあてにはならぬ直感で、「これは!」と、ひかかったアルバムである。

 

新譜漁りの中で、自分の好みに合い、おや? ハッ!とし、

余韻として何か、自分の中で煌めきを感じるような作品に

巡り会うことはそう多くはない。

 

特に冒頭の「The Lonely Banker 」に心奪われた。

基本3拍子だと思うのだが、1拍目にアクセントを置いたメロディが、

とても斬新で、非常にクール。

よくある、耽美的すぎる北欧ジャズ(あまり好きでない)ではなく、

突き放した冷淡さと、淡白さが、私好みである。

 

全編を通して聴くと、ダーレの作曲能力の高さのみならず、

テクニカルな側面の確かさ、そして、それをひけらかさない節度が好ましい。

良質な北欧クールを担う逸材として、

今後、注目していきたい。

 

Eyolf Dale (p, Celeste)
Audun Kleive (ds)
Per Zanussi (b)

 

1.The Lonely Banker 5.15

2.Northern Brewer 4.55

3.Behind 315 5.05

4.Forward from here 4.33

5.The Pondering 6.20

6.Fast forward, peace of mind 4.48

7.Ace 5.44

8.How could it be? 5.39

 


The Lonely Banker

 

 

Blue Mitchell  ブルー・ミッチェル Step Lightly

若きハンコックの完成度たるや!

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素晴らしいものがあります。

 

この1963年8月録音のブルーミッチェルのリーダー作は、

選曲、メンバー、構成、演奏どれをとっても素晴らしい作品で、

愛聴版の一つなのですが、

何をおいても、23歳の若きハンコックの演奏に、

「素晴らしいものがある!」のです。

既に、この人の将来性を予見する感性と佇まいに溢れています。

 

むしろ、この頃のハンコックが一番理知的であったような、気さえします。

私がハンコックを評して、いつも使う、

「ファンキーに弾きたくてしょうがないけど、なんとか理性で抑えて」

という形容が、如実に現れた演奏となっています。

 

是非、このアルバムのハンコックを分析的に聴いて欲しいものです。

まず、「バッキング」。

この人のバッキングは、つくづく、

フロントのソロを引き立てるセンスの良さに溢れているのです。

次に、「ソロの構成力」。

予め、譜面にしたためたような、ストーリー性のある展開。

短いソロ演奏の中にこそ、ハンコックの構成力の旨さが凝縮されており、

脱帽です。

 

クインシー・ジョーンズがハンコックのソロをコピーして、

オーケストレーションしたことはよく知られていますが、

ハンコックのソロは、レンジが広く(懐が深く)、その魅力に富む語り口で、

多くの人に影響を与えてきたと思うのです。

 

デビュー作の「テイキン・オフ」と共に、

若きハンコックの驚くべき完成度を知ることのできるアルバムです。

是非聴いてみてください。

 

Blue Mitchell (tp)

Joe Henderson (ts)

Leo Wright (as)

Herbie Hancock (p)

Gene Taylor (b)

Roy Brooks (ds)

REC. August 13, 1963

 

01. Mamacita
02. Sweet and Lovely
03. Andrea
04. Step Lightly
05. Cry Me a River
06. Bluesville

 


Blue Mitchell - Step Lightly - Mamacita

 

Marc Copland  マーク・コープランド John

時の過ぎゆくままに

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やっと聴くことができた。

Kudo様Suzuck様のブログで知って、早く聴きたかったのであるが、

なかなか、Itunesでアップされなかったため、

益々気になっていたのである。

 

冒頭のTimelessから、何か、言い知れぬ陶酔感、浮遊感を味わえる予感に、

鳥肌が立った。

ピアノソロでこんな感覚を味わうのは、久しぶりである。

そして、聴き進めて行くと、今度はもっと穏やかな感覚というか、

もっと説明すると、時の流れに、身を沈めて行くような寂寥感が、

痛々しくも、心地よい。

不思議な感覚である。

 

Kudo様が、指摘しておられるように、

ジョン・アバークロンビーは、本当に、内省的な良い曲を作るのである。

そして、その曲想に、コープランドの淡々とした弾き振りが実にマッチしている。

音楽の志向性がこの二人はよく似ているのであろう。

 

美しくも儚げな曲。

ジョン・アバークロンビーのギターが聴きたくなりました。

 

Marc Copland (p)

2019.11 REC

 

1.Timeless
2.Isla
3.Flip Side
4.Sad Song
5.Avenue
6.Sunday School
7.Remember Hymn
8.Love Letter
9.Vertigo

 

大好きなジョン・アバの曲です。


Remember Hymn