JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

PAT METHENY GROUP パット・メセニー・グループ Offramp

「住する所なきを、まづ花と知るべし。」

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パット・メセニーを取り上げるのを敢えて避けてきたような気がする。

私の青春時代の大切な心象と重なるな音楽であり、

長い年月にわたって、その圧倒的な編集工学の妙味を、贅沢に、惜しげもなく、

提示し続けてきたパット・メセニー・グループ(以下、PMG)の音楽を、

短い文章の中で固定化してしまうのは、何か怖いような気持ちさえある。

 

当然、「これが最高傑作」などといった野暮な切り口で紹介はしたくないし、

PMGの変遷を滔々と語るのも、面倒だ。

 

最近、とても興味深い書物に出逢ったおかげで、

PMGを取り上げる気持ちを後押ししてくれた。

それは、安田登の「野の古典」(紀伊國屋書店)である。

その中で、世阿弥の芸論「風姿花伝」について触れており、

それがタイトルにある、

「住する所なきを、まづ花と知るべし」

という世阿弥の言葉である。著者は言う、

 

『花とは何かと聞かれれば、まずは「ひとつの状態に止まっていないこと(住する所なき)」といいます。花は散るからこそ花であって、咲き続ける花は花ではない。そう、まさに「初心」なのです。』

そして、

 

『初心の「初」と言う文字は布地に初めて鋏(刀)を入れることが原義。自分が変化をしようと思ったら、まずは過去の自分自身をバッサリと切り捨てなければならない、これが世阿弥の意図した本来の「初心」でした。自分自身を切り捨てるには痛みが伴います。血が流れることもある。特にうまくいっているときには、血を流してまでも現状を変えたいなどとさらさら思わないでしょう。しかし、むしろうまくいっているときこそ、過去の自分を切り捨てること、すなわち「初心」を忘れてはいけない、と世阿弥はいうのです。』

 

前人未到の7作連続、グラミー賞を受賞しているPMGは、

まさに、「初心」を忘れずに、いまの自分の栄光に浸ることなく、

想像を絶する努力を重ね、ひとつの状態に止まらない「花」=「作品」を

送り出してきたのでしょう。

 

今回、PMGの諸作品を改めて、新しいものから順に聴いてみたが、

過去に遡るごとに、どんどんPMGの音楽が純化していく。

ダイヤモンドが原石に戻っていくような感覚。原石もまた美しい。

そして、PMGではないが、その萌芽ともいえる作品、

「ブライト・サイズ・ライフ」や「ウォーター・カラーズ」まで振り返った時、

何か、説明しようのない、嬉しく、恥ずかしくもあるような、幸福感、

懐かしく、心に染み入る、ノスタルジーな感覚が押し寄せる。

けっきょく、過去の私を断ち切れない自分、

いつまでも、過去に執着する凡人の私なのである。

 

パット・メセニーライル・メイズという奇跡の出会いは、

PMGという舟を大海に漕ぎ出し、いくつもの嵐に晒されながらも、

装備を厚くし、補強しながら巨船へと変貌し、荒波に立ち向かって行った。

特に、その大きな変貌を感じさせる大きな転機のアルバムの一つが、

この「オフランプ」である。

冒頭のただ事でない予兆感に溢れた「Barcarole」に始まり、

あまりにも有名で心に残り続ける「Are You Going With Me?」、

そして、この世のものとは思えない非現実感満載の「Au Lait」に至ると、

私の心は完全に崩壊してしまうのです。

 

Steve Rodby(b)
Danny Gottlieb(ds)
Lyle Mays(Piano, Synthesizer, Organ)
Nana Vasconcelos(Voice, Percussion, Berimbau)
Pat Metheny(g)

1981年10月、ニューヨークにて録音

 

1.Barcarole
2.Are You Going With Me?
3.Au Lait
4.Eighteen
5.Offramp
6.James
7.The Bat Part II

 

この漂うような音楽に浸っていた多感なあの頃を思い出す。


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