JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Chick Corea チック・コリア Now He Sings, Now He Sobs

青春の輝き チック・コリア

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寂しい限りである。

「ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス」、「ARC」、「サークル」、

「ピアノ・インプロビゼーションVol.1&2」、「リターン・トゥ・フォー・エバー」、

「ライト・アズ・ア・フェザー」、「フレンズ」、「スリー・カルテッツ」、

チック・コリア&ゲイリー・バートン・イン・コンサート」、

「マイ・スパニッシュ・ハート」・・・・

振り返ると、意外にも一番よく聴いたアーティストなのかもしれない。

 

稀代のヴィルトゥオーソ、チック・コリアの存在は途方もなく大きく、

その影響力は計り知れない。

明らかに、ジャズの可能性を大きく広げた第一人者である。

特に、60年代後半から70年代にかけてのチックは、際立っている。

 

一時、チックのスパニッシュなアプローチが、嫌いで敬遠していた時期もあったが、

いつかは忘れたが、「ピアノ・インプロビゼーションVol.1&2」を聴き直して、

チックのラテンやクラシックなど、エスニックなエッセンスも含めて、

チック特有のエレメントが、全てこのアルバムに集約されていることを感じた時、

改めて、チックの革新性、オリジナリティを痛感したことを覚えている。

 

チックの訃報を聞き、追悼のために選んだのは、

この「ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス」

いつ聴いても、感情が高ぶる稀有なアルバムである。

恐ろしいほど出来のいい、緊張感のある、ソリッドで、奇跡的な即興の記録であり、

ピアノ弾きにとって、絶対に避けて通れない、ピアノトリオの金字塔である。

この作品を前に、ただただ、畏れおののき、平伏し、心奪われるしかないのである。

 

いつも、ハンコックの方が凄いと言ってきた、ハンコックフリークの私も、

実はチック・コリアが好きで好きでしょうがないのである。

青春に様々な彩りを与えてくれたチック、本当にありがとう。

どうぞ安らかに。

 

Chick Corea(P)

Miroslav Vitous(B)

Roy Haynes(Ds)

Recorded March 14, 19 and 27, 1968. 

 

1. Steps-What Was
2. Matrix
3. Now He Sings, Now He Sobs
4. Now He Beats The Drum, Now He Stops
5. The Law Of Falling And Catching Up
6. Samba Yantra
7. Bossa
8. I Don't Know
9. Fragments
10. Windows
11. Gemini
12. Pannonica
13. My One And Only Love

 


Chick Corea - Matrix

JOE LOVANO ジョー・ロヴァーノ Garden of Expression

大海原に漕ぎだす一艘の小舟のように

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このベースレスという特異な編成のユニット「トリオ・タペストリー」による

演奏は、自分としては、二作目の本作が初体験となる。

 

以前紹介した、Marcin Wasilewskiとの共演アルバム「 Arctic Riff

では、大好きなボシレフスキとロバーノの共演に、

なんて贅沢な組み合わせだろうと、心が浮き立ったのを覚えている。

そして、フリーでアブストラクトなアプローチこそ、

ロバーノの面目躍如たることを、再確認できたのだが、

このアルバムをこのところ繰り返し聴くたびに、

少し大仰なもの言いかもしれないが、

これまで知らなかった、もっともっと深遠で自由で多彩なロバーノの世界に

足を踏み入れた気がする。

 

ロバーノ自身が、このユニットのメンバーとの交流を

「魔法のような」と表現しているように、

カルメン・カスタルディの非常に繊細でスペイシーなドラミングと、

マリリン・クリスペルの思索的で、どこか浮世離れした静かなピアノが

大海原を漕ぎ出だす一艘の小舟のようなロバーノの茫洋としたテナーを

辿り着いたことのない夢のような世界に導いていく。

 

正直、昔から私はロバーノのテナーが大好きである。

だから贔屓目に聴いてしまうのかもしれないが、このアルバムを聴いて、

ロバーノの音楽の美しさ、機知、懐の深さの凄さをますます強く感じた。

そして、ロバーノが本当にやりたかったことを、ECMという環境の中で、

実り得ることができたのではとも思う。

 

このユニットによる今後を注目していきたい。

 

Joe Lovano(ts)
Marilyn Crispell (p)
Carmen Castaldi(ds)

2019年11月録音

 

1. Chapel Song
2. Night Creatures
3. West of The Moon
4. Garden of Expression
6. Treasured Moments
7. Sacred Chant
8. Dream on That
9. Zen Like

 


Chapel Song

 

Harold Danko Trio ハロルド・ダンコ Triple Play

ハロルド・ダンコの凄さについて

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当プログ100回目に紹介するアルバムは、

ハロルド・ダンコのピアノトリオ。

あまり取り上げられないアーティストではあります。

 

正直、ハロルド・ダンコに興味を持つようになって、まだ日は浅いが、

日に日に、ある意味つかみどころのない、彼の深淵なマジックにハマりつつある。

「嗚呼、なんじゃ、これは!」というのが正直な感じである。

 

こんなピアノ、聴いたことがあるようで、実は聴いたことがない。

平板でまともな印象なようで、実は変態かつ大胆な作為。

静と動、寡黙と饒舌、滑らかさと無骨、深遠と軽薄、内省と社交、

相反するエレメントのバランスの取り方がなんとも絶妙なのである。

繰り返して言う、

こんなピアノトリオは聴いたことがあるようで、聴いたことがないのである。

 

通り一遍に聴いてしまえば、実は、抑揚がなく平板で退屈かもしれない。

しかし、あえて少し聴き方を意識して、一種一瞬を聴き分け、没入してみると、

豊富なアイデアと秘めたセンスの片鱗が玉手箱のように顔を出してくる。

実に渋い。実に深い。実にクセになる。

 

チェット・ベイカーをはじめ、リー・コニッツジェリー・マリガンなど、

長年サイドミュージシャンとして巨匠を支えてきたハロルドだからこそ知り得る

滋味のあるフレーズ、絶妙な間の取り方、省略の旨さ、弾き切らない美学、

いろいろ言葉にして、その魅力を表現しようと試みるが、言い尽くせず、

徒労に終わってしまう。

 

ぜひ実際に聴いて、チャレンジして、堪能して欲しいアーティスト。

ティープル・チェイスに多くの軌跡を残しています。どれも素晴らしい。

ハロルド・ダンコの深遠な世界が待ち受けていますよ。

 

Harold Danko(p)
Jay Anderson(b)
Jeff Hirshfield(ds)

 

1. Total Obsession
2. Sky Blues
3. Mademoisselle Dreamy
4. A Quiet Dawn
5. Triple Play
6. Shadow Waters
7. Classified Attachment
8. Ancient And Distant
9. Stream of Tears
2017年作品

 


Total Obsesson

 

Franco Ambrosetti フランコ・アンブロゼッティ Lost Within You

枯淡の境地

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フランコ・アンブロゼッティも79歳。

長いキャリアにおける数々の軌跡を振り返るように、

ありのままの「今」の自分を受け入れて、

演奏する幸せがそのまま伝わってくるような、

フランコの淡々とした語り口がなんとも素敵。

 

特に、私の大好きな2曲目の「 I'm Gonna Laugh You Right Outta My Life 」を聴くと、

老将軍フランコをリスペクトする豪華なメンバーによるサポートを受けて、

一つ一つ、思い出し、確かめ、噛みしめながら奏でる、

木訥としたフランコのフレーズが心に沁みてくる。

 

ジョン・スコ、リニー・ロスネス、ディジョネット、スコット・コリーと、

脇を固めるミュージシャンも私好みで、

非常にリラックした気持ちで、極上のスタンダードを満喫できる

素晴らしいアルバムだと思います。

 

Franco Ambrosetti - Trumpet, Flugelhorn
John Scofield - Guitar
Renee Rosnes - Piano on 2, 3, 4, 8, 9
Uri Caine - Piano on 5, 6, 7
Scott Colley - Bass
Jack DeJohnette - Drums / Piano on 1

 

1. Peace (Horace Silver) 10:36
2. I'm Gonna Laugh You Right Outta My Life (Cy Coleman, Joseph McCarthy) 7:13
3. Silli in the Sky (Franco Ambrosetti) 6:52
4. Love Like Ours (Alan Bergman, Marilyn Bergman, Dave Grusin) 7:35
5. Dreams of a Butterfly (Franco Ambrosetti) 6:56
6. Body and Soul (Johnny Green, Edward Heyman, Robert Sour, Frank Eyton) 11:26
7. People Time (Benny Carter) 7:20
8. Flamenco Sketches (Miles Davis, Bill Evans) 7:43
9. You Taught My Heart to Sing (McCoy Tyner) 7:07

 

 


I'm Gonna Laugh You Right Outta My Life

 

 

Jon Balke ヨン・バルケ&Oslo 13 Nonsentration

これぞ、ニューウェーブ

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30年も前の作品であるが、

今聴いても、新鮮で、そのカッコよさに痺れてしまう。

鬼才、ヨン・バルケの大傑作であり、

私の最愛聴盤の一つである。

 

この不思議なオーケストレーションの魅力を、

言葉で表現することは難しい。

断片的に特徴や雰囲気を箇条書きして、分析してみる。

 

・全体に染み渡り、溶け込むようなパーカッションの鼓動、ベースのうねり

・その鼓動の合間を、すり抜ける神秘的で深淵なピアノ

・それぞれが違った表情を持つシーケンスの物語的展開

・時に土着的、時に都会的、時に宇宙的、でも全体を貫く硬質なトーン

・印象的なリフのバリエーションの積み重ねによる新しいオーケストレーション手法

・スペイシーだなぁー、染みるなぁー、これこれ!この感覚!

 (聴いてもらわないと、分からない解説ですみません(笑))

 

ヨン・バルケは、

アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(AEC)のような民族性と

ギル・エバンスのオーケストラ・アレンジのセンスを併せ持ち、

新たに、サウンド・スケープ的なコラージュの手法を取り入れた、

新しいオーケストレーションの有り様を提示した、

傑出したアーティストであると思う。

 

PER JORGENSEN(tp)
NILS PETTER MOLVAER(tp)
TORBJORN SUNDE(tb)
MORTEN HALLE(as)
TORE BRUNBORG(ts)
ARNE FRANG(ts)
AUDUN KLEIVE(ds)
JON CHRISTENSEN(ds)
FINN SLETTEN(per)
MIKI N'DOYE(per)
JON BALKE(key)

Recorded September 1990. 

 

1. Stealing Space 1

2. Stealing Space 2

3. Stop

4. Blic

5. Constructing Stop

6. The Laws Of Freedom

7. Disappear Here

8. Nord

9. Circling The Square

10. The Art Of Being

 

紹介アルバムとは関係のない動画ですが、参考までに


The Art Ensemble of Chicago + Jon Balke Batagraf @ SJF 2019

 

 

Paul Bley ポール・ブレイ Alone,Again  

ボール・ブレイのもう一つのソロ

 

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ポール・ブレイの代表作と言えば、

「オープン・トゥ・ラブ」であり、私もそう思う。

ブレイの魅力を伝えるに相応しい完成度の高い傑作である。

しかし、今回は、あまり取り上げられることのない、

ブレイ自身が立ち上げた、IAIレーベルのソロ作品、

「アーロン・アゲイン」を紹介したいと思う。

 

「オープン・トゥ・ラブ」という作品は、

 

その、只ならぬ緊張感と、張り詰めた空気感の中で、

ある意味、偶発的とも言える美の瞬間が、奇跡的に記録された、

まさに即興の面白さといった観点において、不動の貫禄がある。

数多のピアノソロ作品の中においても、群を抜いている。

 

一方、「オープン・トゥ・ラブ」から2年後に録音されたこの作品の魅力は、

「確かな」「落ち着いた」「冷静な」「端整な」意図された輝きがある。

この作品にかけたブレイの意気込みと緊張は、

傑作「オープン・トゥ・ラブ」を創り上げたブレイ自身しか

理解できないものかもしれないが、

長年ブレイの音楽に親しんできた私の自負からも、感慨深く共感できる。

この「アーロン、アゲイン」というタイトルにも表れているように、

ブレイが、自分自身の孤独に再び向き合い、前作とは異なるアプローチで、

より思索的であらかじめ計算されたソロワークを成し遂げたのであり、

ブレイにとって重要な作品であると断言したい。

 

いかにもアーネット・ピーコックの曲らしい、

6曲目「Dreams」が特に素晴らしい。

淡々としていて、抑制が効いていて、一つ一つ確かめるような進行は、

却って、曲の持つ妖艶さを際立たせるのに成功している。

まさに、余分なものを削ぎ落とし辿り着いた、意図的な美しさがある。

 

参考までに、この作品の3年後に「アクシス」というソロ作品を、

同じIAIレーベルから出しているが、

一転、饒舌で飄々とした、ブレイらしい演奏になっており、

ホッとしたのを覚えている。

「アーロン・アゲイン」の時の重圧から解き放たれ、

ブレイの奔放さが清々しい仕上がりになっているのがおもしろい。

 

1  "Olhos de Gato" (Carla Bley) - 4:29

2  "Ballade" - 5:54

3  "And Now the Queen" (Carla Bley) - 3:06

4  "Glad" - 5:08

5  "Lovers" - 5:34

6  "Dreams" (Annette Peacock) - 5:57

7  "Explanations" - 6:48

 

recorded in Norway in 1974

 


Dreams

 

Jacob Collier ジェイコブ・コリアー Djesse Vol. 2

ジェイコブ・コリアーについて

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新譜ではない、旧作の紹介。

ジェイコブ・コリアーの音楽を遡りつつ、紹介したいと思う。

昨年、遅まきながら(というかむしろ敬遠していたきらいがあるが)、

ジェイコブの音楽を少しずつ、聴き慣れていくうちに、

日に日に、彼が創り出す音楽が気になっていくことを感ずる。

 

ジェシー4部作のVol.2となる本作は、

ITUNESでは、「オルタナティブ・フォーク」というジャンルに位置付けられている。

以前紹介した、vol.3は「R&B/ソウル」に、vol.1は「ジャズ」に、

それぞれカテゴライズされているといったことからも窺われるように、

ジェイコブの音楽は、様々な音楽ジャンルの垣根を超えて、

まさに、「これまで聴いたことがあるようで、聴いたことのない」、

また、 「実験的でありながら、伝統の心地よさに溢れ」、

そして、「好き勝手し放題に見えて、計算された説得力がある」、

何か次元の違う、新しい音楽を提示している。

 

伝統に対するリスペクトと確かなテクニックに裏付けられた音楽は、

聴くものを瞬時に、ジェイコブ独自の世界に引き込んでしまう魔力を持つ。

私は、残念ながら、生のジェイコブの演奏に接したことはないが、

彼のライブを観た人は、度肝を抜かれたのではないかと思う。

 

自信満々のライブパフォーマンスに少し嫌悪感を抱く人はいるかもしれないが、

丁寧に造り込まれたスタジオ録音の諸作を聴いたり、

タイニー・デスクでの映像や、Snarky Puppyでの客演の映像を見たりすると、

彼の才能の凄さ、緻密さを思い知らされる。

圧倒的な才能である。

こんなミケランジェロのような天才は、なかなか現れない。

 

一見、一聴した印象や、安易なキャッチフレーズなどの露出イメージで、

一旦、敬遠してしまうと、

この世の宝を見逃してしまうという経験のなんと多いことか。

最近つくづく思う。

もっと、謙虚に謙虚に、いろいろなものに関心を持って触れていきたい。

 

1. Intro
2. Sky Above
3. Bakumbe
4. Make Me Cry
5. Moon River
6. Feel
7. A Noite
8. Lua
9. I Heard You Singing
10. It Don’t Matter
11. Here Comes The Sun
12. Dun Dun Ba Ba
13. Nebaluyo
14. Do You Feel Love
15. Outro
16. Time To Rest Your Weary Head

 


Feel (feat. Lianne La Havas) - Jacob Collier [OFFICIAL AUDIO]