JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Igor Pimenta イゴール・ピメンタ Sumidouro

ブラジリアン・ジャズの懐の深さ

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2曲目の「Semillas Al Viento」を聴いた時、

ライル・メイズの音づくりの素晴らしさを、懐かしく思い出してしまった。

全盛期のPMG(パット・メセニー・グルーブ)の雰囲気を持った曲である。

 

このアルバムは、他にも実に多彩な世界の音楽を取り込んでおり、

ジャズ、フォークロア、クラシックなど、様々なジャンルの音楽を

ブラジル音楽という実に懐の深い通底する環境の中に、見事に取り入れ、

本当ならば、散漫になりがちなアプローチを、

一つの魅力的な絵巻物として結実している。

 

このアルバムは、ブラジルのベーシスト兼作曲家である、

イゴール・ビメンタという人の初リーダー作であるようだが、

曲ごとに、楽器の編成を変え、丁寧なアンサンブルを創り上げており、

満を辞して、完成させた作品なのであろう。

 

gor Pimenta – acoustic bass, fretless electric bass
Edu Nali – drums
Neymar Dias – viola caipira, guitar
Vinícius Gomes – guitar
Salomão Soares – piano
André Mehmari – piano, synthesizers
André Juarez – vibraphone
Jussan Cluxnei – clarinet
Alexandre Silvério – fagotto
Ricardo Braga – percussion
Vana Bock – cello
Daniel Grajew – accordion
Toninho Ferragutti – accordion
Rafa Castro – accordion, vocal
Rafael Altério – vocal
Tatiana Parra – vocal
Antonio Loureiro – vocal

 

01. Lamentos de Mãe d’Água
02. Semillas Al Viento
03. Brasilina, Chico e Zeize
04. A Sede do Peixe
05. Insieme
06. Procissão das Velas
07. Quarteto para Tempos Bicudos
08. …queima, Fere, Deixa Sangrar
09. Three Friends
10. O Sonho de Lara

 


2- Semillas al Viento - Igor Pimenta

 

Thelonious Monk セロニアス・モンク Palo Alto

モンク 1968年 高校で吠える

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ステキなジャケットである。

1968年のモンクである。

キング牧師が暗殺された年に、カリフォルニアの一人の高校生が奮起して、

「ジャズを通して結束を」との思いに応え、モンクが出演したのだそうだ。

その学内コンサートを収録したもの。

 

モンクの数多のライブ音源のうちの一つであり、全てを聴いた訳ではないが、

高校で人種差別に抗議して行われたという背景を無視しても、

臨場感、選曲、尺の長さ、モンクやチャリ〜・ラウズのソロの出来など、

どれを取ってもモンク音楽のエッセンスが凝縮されており、

とても聴きやすく、ストレートに胸に響いてくるようなライブ盤となっている。

 

1968年のモンクのピアノを聴くと、

流石に、長年のレパートリーの演奏で、少しこなれた感じは否めないが、

余裕があるせいだろうか、曲の合間合間に、これまで聴いたことのないような、

モンクの遊び心を楽しむことができる。

たとえば、「Blue Monk」の解釈などは、とても斬新。

1967年と68年に録音された、「アンダーグラウンド」という

ステキなアルバムもあるが、この頃のモンクは、

結構、調子が良かったのではないかと思うのである。

 

数多の未発掘音源が発表される度に、先入観で聴かないことが多い中、

本作は、久しぶりに、興奮して楽しむ事が出来ました。

 

Thelonious Monk (piano)

Charlie Rouse (tenor sax),

Larry Gales (bass),

Ben Riley (drums)

 

01. Ruby, My Dear
02. Well, You Needn’t
03. Don’t Blame Me
04. Blue Monk
05. Epistrophy
06. I Love You Sweetheart of All My Dreams

 


Thelonious Monk – Palo Alto (Mini Documentary)

 

 

 

 

 

Wether Report ウェザー・リポート Wether Report

 ザビヌルとビトウスの関係性について

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言わずと知れた、ウェザー・リポートのファーストアルバムである。

改めて、曲のクレジットを見て、

ウェザー・リポート創世記のメンバーの立ち位置というものに想いを馳せてみた。

 

まず、1曲目の「Milky Way」が、ショーターとザビヌルの共作。

このまるで、キューブリックの「2001年宇宙の旅」の映画音楽のような

スターティングは、このユニットの可能性、メッセージ性を象徴している。

まさに、ザビヌルらしいコスモロジーな卓越した感覚が端的に現れた曲である。

 

2曲目の「Umbrellas」は、ショーター、ザビヌル、ビトウスの

共作となっているが、この曲の解釈は難しい。

ビトウスの非常にリズミックなエレベが際立つ展開となっていること。

ザビヌルの影は薄いように見えるが、

実は、ザビヌルがビトウスにこのリズミックさを出すよう、かなり強引に

ディレクションした実験的な作品で、緊張感のあるテイストを生んでいる。

 

3曲目の「Seventh Arrow」は、ビトウスのクレジットで、

一転、ビトウス自身ががやりたいようにやった曲である。

まさにビトウス主導のビトウスらしいサウンド作りである。

 

4曲目の「Orange Lady」は、ザビヌルのクレジット。

僕はやはり、ザビヌルの初期WRの方向性はこの曲に集約している気がする。

敬虔で宇宙的な広がりを感じる神秘性とともに、牧歌的な安らぎが備わった曲想。

この牧歌的と言うキーワードは、実はビトウスの一面にもあり、

両者が意気投合した接点であろうと思う。

ビトウスの初リーター作「インフィニット・サーチ」の表題曲などは

同じ感性を感じる。

 

5曲目の「Morning Lake」もまた、ビトウスのクレジット。

4曲目同様、ビトウスとザビヌルの方向性が一致していた頃の秀作。

牧歌的で、理想郷のイメージとか輪廻感のある曲想。

マイルス時代にはなかった曲想であり、新鮮である。

 

6曲目の「Waterfall」は、ザビヌルのクレジット。

個人的に、とても好きな曲で、繰り返されるフェンダーローズのリフに、

気持ちよさそうに、乗っかってくるビトウスのベース。

そしてショーターが悠々と駆け巡る。

初期WRのまだ、即興的な傾向が強く感じられる作品。

 

7曲目と8曲目は、ショーターのクレジット。

やはりショーターの曲はメロディアスでわかりやすいし、ドラマチック。

少しほっとしてしまう。

 

この、記念すぺきファーストアルバムは、この1970・80年代を

代表するジャズユニットの将来のポテンシャルを仄めかすのに、

十分な魅力と神秘性を備えているが、

このアルバムからスイート・ナイターあたりまでは、特にビトウスという、

秀でたプレイヤーの存在が大きくグループサウンドに影響を与えているといえる。

つまり、初期WRのリーダーはザビヌルとビトウスの二人がいたと言っても良い。

 

最終的には、ザビヌルは、ビトウスの描く音楽像とは乖離していくわけであるが、

まだ、二人の関係が蜜月だった頃の、初々しく刺激的なサウンドを堪能できる。

結局、ザビヌルはグループのオーガナイザーとして常に進化していくタイプ、

一方、ビトウスは、プレイヤーとしての即興性を突き詰め、重視していくタイプ。

 

ザビヌルは、ビトウスと別れて以降、

本当の意味でザビヌル主導のWRサウンドを繰り広げていくのである。

その軌跡の素晴らしさは、20世紀の奇跡である。

 

Wayne Shorter(Ss),

Joe Zawinul(Key),

Miroslav Vitous(B),

Alphonze Mouzon(Ds, Voice),

Airto Moreira(Per),

Burbara Burton(Per) 

 

1. Milky Way

2. Umbrellas

3. Seventh Arrow

4. Orange Lady

5. Morning Lake

6. Waterfall

7. Tears

8. Eurydice

 


Milky Way - Weather Report

Jacob Collier ジェイコブ・コリアー Djesse Vol. 3

テクニカルを超えた境地に

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ジェイコブ・コリアー。

すごいものは凄いと素直に認めたい。

 

タイラー・ザ・クリエーターと同様、

「NPR Music Tiny Desk Concerts」(タイニー・デスク・コンサート)の動画視聴で、

いたく感心して、惹き込まれてしまった彼が創りだすクリエィティブな音楽。

音楽も進化しているのだなぁと。

 

テクニカルな面における驚きは勿論だが、

それを超えた、懐の深さ、自由さ、編集力の卓越さをビジビシ感じる。

 

よく「音楽の魔術師」とかいう形容詞が使われることがよくあるが、

プレイヤーとしての力量よりも、

リズム、音、メロディを思いのままに操り、圧倒的なストーリーとして

提示できる能力を持ったアーティストこそが、

真の意味でのトータルクリエーターであると信じている。

ジャズで言えば、

デューク・エリントン、マイルス・デービス、ジョー・ザヴィヌル

まさに、ジェイコブ・コリアーは、新しい音楽の地平を切り開くことができる、

数少ないアーティストのひとりである。

 

紹介しているアルバムの曲ではないが(Djesse Vol. 2からの曲)、

次の、タイニー・デスク・コンサートでの、

彼が統率する音楽の出来と、彼の立ち振る舞いをみてください。

奇才ならではの奇矯さをなんとなく感じるとともに、

楽器の扱いの上手さと、アンサンブルのコントロールの絶妙さと、

ストーリーテラーとしての力量に圧倒されてしまう。

本当にすばらしい。

 

1 CLARITY
2 Count The People (feat. Jessie Reyez & T-Pain)
3 In My Bones (feat. Kimbra & Tank and The Bangas)
4 Time Alone With You (feat. Daniel Caesar)
5 All I Need (with Mahalia & Ty Dolla $ign)
6 In Too Deep (feat. Kiana Ledé)
7 Butterflies
8 Sleeping On My Dreams
9 Running Outta Love (feat. Tori Kelly)
10 Light It Up On Me
11 He Won't Hold You (feat. Rapsody)
12 To Sleep

 


Jacob Collier: NPR Music Tiny Desk Concert

Aaron Parks アーロン・パークス Find The Way

流麗

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アーロン・パークスを知ったのは、

テレンス・ブランチャードの日本公演で参加していた時に、

若き、パークスの奏でる、瑞々しさが迸るような美しいピアノを

BSテレビで初めて視聴した時。

 

自信に溢れ、既にただならぬオーラが全身に漲って、

楽しそうにプレイする姿に、まず一目惚れしてしまった。

体全体を使って、しなるようにリズムを取る独特な弾き方。

特に頭部の上下運動が顕著でありながら、奏でられるピアノの音の

なんと柔らかく優雅でリズミックに美しいこと。

 

 それ以降、パークスのリーダー作品や参加作品をチェックするようになったが、

その活動範囲は、とても広く、伝統的なジャズのイディオムに則ったものから、

ニューエイジ的でミニマルなアプローチが斬新な挑戦的なものまで、

その才能ぶりを遺憾なく発揮した活動は、彼が進化し続けるタイプの

アーティストであることを物語っている。

 

ただ、このアルバムのように、

アノトリオというある意味制約された、基本的なフォーマットにおいて、

溢れる想いを、抑制を効かせながら淡々と、一音一音丁寧に紡ぎ出していく営みに、

パークスの本質的な魅力が垣間見れるような気がする。

 

端的にいえば、あまりにも美しく、流麗。

上質で、硬質、儚くも、確かな。

そんな素晴らしいピアノトリオが聞けます。

 

Aaron Parks (p)
Ben Street (b)
Billy Hart (ds)

 

1. Adrift
2. Song For Sashou
3. Unravel
4. Hold Music
5. The Storyteller
6. Alice
7. First Glance
8. Melquiades
9. Find The Way

 


AARON PARKS TRIO plays 'Find The Way' live at Jimmy Glass Jazz Bar 2017

 

 

Tyler, the Creator タイラー・ザ・クリエイター Scum Fuck Flower Boy

なんてクリエイティブな音楽!

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2017年と、少し前の作品になるし、

ジャズの範疇に分類できないが、どうしても取り上げたいアルバム。

 

きっかけは、

「NPR Music Tiny Desk Concerts」(タイニー・デスク・コンサート)の動画視聴。

アメリカの公共ラジオ放送NPR(National Public Radio)の音楽部門の事務所で

開催されている。

タイニー・デスク・コンサートは、文字どおり、小さなオフィス内の一角で行われる

ライブ。観客もいるが、スタッフ中心で、とても密な空間で繰り広げられる現場に、

若手の注目株から著名な大御所まで、さまざまなミュージシャンが登場していて、

リラックスした雰囲気の中で、とても贅沢で魅力あるパフォーマンスが、

繰り広げられており、久しぶりに食い入るように見てしまった。

 

その中でも、一番、琴線にふれたのが、このタイラー・ザ・クリエイター。

この稀代のクリエーターは、アルバム「IGOR」で第62回グラミー賞を受賞したが、

式後のインタビューで語ったグラミーへの不満の言葉、

「俺たちはジャンルレスな音楽を作っているのにポップにはなれないのか」

という彼の発言は、ヒップホップという枠から逸脱したポップスそのものであると

世間に知らしめることとなったと言われる。

 

私も彼の詳細を知るわけではないが、

彼の創り出す、自由でキュートで内省的で、儚げで、甘美、スペーシーな

音作りに心底、感動してしまいました。

是非、聴いたことのない人は、次の動画を一度みてください。

 

01. Foreword
02. Where This Flower Blooms
03. Sometimes…
04. See You Again
05. Who Dat Boy?
06. Pothole
07. Garden Shred
08. Boredom
09. I Ain’t Got Time!
10. 911/Mr. Lonely
11. Dropping Seeds
12. November
13. Glitter
14. Enjoy Right Now Today

 


Tyler, The Creator: NPR Music Tiny Desk Concert

Set List

"Boredom" "See You Again" "Glitter"

 

MUSICIANS

Tyler Okonma (vocals, keys),

Jaret Landon (MD/Keys)

Dré Pinckney (Bass),

Dalton Hodo (Drums),

Kaye Fox (background vocals),

Kiandra Richardson (background vocals)

Paul Bley with Gary Peacock ポール・ブレイ・ウィズ・ゲーリー・ピーコック With Gary Peacock

ゲーリー・ピーコックという存在

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ゲーリー・ピーコックが逝去したと聞いた。

1935年生まれであるから、85歳で天寿を全うしたということになる。

キース・ジャレットより10歳年上。

ポール・ブレイより3歳年下。

同年代のベーシストでは、

ポール・チェンバース(1935年生)、スコット・ラファロ(1936年生)、

チャーリー・ヘイデン1937年生)がいる。

 

ゲーリーのベースをしっかり聴きたい時は、

何故か、キースのトリオではなく、ブレイのこのアルバムを探すことになる。

以前に紹介した、「BALLADS」とともに、

30代の若かりしエネルギー迸るゲーリーの演奏が好きだ。

より自由で、スポンティニアスなゲーリーのベースの真骨頂を堪能することができる。

 

キースの「スタンダーズ」におけるゲーリーが好きではない、

ということでは、もちろん無い。

あのトリオの疾走感や三人のコンビネーションは、

アノトリオのフォーマットにおけるジャズ史上、

最高のクオリティを持つものであるし、ゲーリーの存在があってこその境地である。

だから、スタンダーズを聴くと、いつも心底、圧倒され、

打ちのめされてしまうのである。隙がなく完璧なのである。

 

でも60年代のポール・ブレイとのインター・プレイを聴くと、

心が解き放たれるような開放感と恍惚感があるのである。

そして、キースとの相性との違いをつくづく感じるのである。

うまく表現できないが、ゲーリーもブレイも出自が同じというか、

やはりオーネット・コールマンの影響があまりに大きく、

まさに対等で、自由な同志という感覚がするのである。

一方、スタンダーズ以前の、ゲーリーのリーダー作で代表作てある

「Tales Of Another」を聴くと、明らかに、リーダー作でありながら、

キースの音楽に合わせに行っているというか、無理しているというか、

そんな感覚がするのである(勿論、すばらしい演奏なのであるが)。

 

ブレイとの共演による諸作の、物哀しい、少し乾いた感じの、

いかにも60年代の雰囲気を纏ったこのアルバムの演奏を聴きながら、

偉大なベーシスト、ゲーリー・ピーコックを偲びたい。

 

track1-5 Recorded April 13, 1963
Paul Bley (p), Gary Peacock (b), Paul Motian (ds)
track6-8 Recorded May 11, 1968
Paul Bley (p), Gary Peacock (b), Billy Elgart (ds)


1. Blues
2. Getting Started
3. When Will the Blues Leave?
4. Long Ago (And Far Away)
5. Moor
6. Gary
7. Big Foot
8. Albert's Love Theme