「過ち」と「過剰」
ボボ・ステンソンの新作である。
孤高のピアノトリオ。
いつも襟を正して聴かなくてはと思わせる。
聴くには気構えが求められるが、新作が出るたびに、
どんな音か聴いてみたくなる。
今回のアルバムは、かなり実験的で思索的なアプローチが際立つ。
ポポ特有のいつものサラリとした、枯れた感覚とは違って、
クラシカルであるだけでなく、
かなり求心的と言おうか、コンセプチャルな匂いが強い。
力まない、時の流れに身を任せるようなボボのピアノトリオの世界が
好きな私にとって、この少し過剰というべき、説明臭さは、
最初、鼻についたが、聴き進めていくうちに、特に後半は、
やはりボボマジックにかけられている自分に気づく。
人間は「過ち」を犯すものである。
「過ち」とは、言葉の通り、度が過ぎてしまうことを言う。
即ち「過剰」になってしまうこと。
プラスに行き過ぎてしまう過剰もあれば、
負の方向に引きこもりすぎてしまう過剰もある。
「過ち」を繰り返しながらも、それでもバランスを取ろうとする所作の奥ゆかしさを、
ポポ・ステンソンのトリオは、いつも、変わらずに教えてくれる。
アバンギャルドな音楽を聴く時、
直截的に訴えてくる、「過剰」=「過ち」の魅力は勿論のこと、
その反対の成分である「抑制」と「反省」が、しっかり効いているかを
吟味するのも楽しみな視点である。
ボボ・ステンソンの音楽は、いつも、そうした楽しみを裏切らない。
アンビエントとは違うのである。
人間的な過剰を含んでいない音楽は、やはり無機質で好きになれない。
抑制と反省が感じられない音楽というのは一本調子でつまらないのである。
Bobo Stenson(p)
Anders Jormin(b)
Jon Fält(ds)
1. You shall plant a tree
2. Unquestioned answer - Charles Ives in memoriam
3. Spring
4. Kingdom of coldness
5. Communion psalm
6. The red flower
7. Ky and beautiful madame Ky
8. Valsette op. 40-1
9. You shall plant a tree (var.)