JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Sonny Stitt  ソニー・スティット  Sits in with the Oscar Peterson Trio

サイドマンとしてのピーターソンの凄み

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それにしても地味なジャケット。

なんちゅう安易なデザイン!

それに反して、演奏はとてもエキサイティングで、思わず聴き惚れてしまう。

 

スティットが、アルト、テナーを使い分け、

本気度の高いブローが、絶好調なのは言うまでもないが、

私の関心は、サイドマンの時にこそ、ピアニストとしての真価がよくわかる、

ピーターソンのピアノにある。

何度聴いても、惚れ惚れしてしまう。

イントロの繰出し方、伴奏時のコンピング、合いの手、

コンパクトに詰まった粋なわかりやすいソロ、そして華麗なエンディング。

ピアノと言う楽器の持つ、オールマイティさ、魅力を十分に知り尽くし、

発揮させることのできる、稀有なアーティストの一人である。

 

ノリノリの2曲目「Au Privave」を聴くと、

これでもかと、グルーブ感をどんどん加速していく、ピーターソンの妙技は、

サイドマンという立ち位置で、尺が限られた制限があるからこそ、

引き立つと思われるのである。

「もっと弾きまくりたいんだけど、この辺にしといてやろうか」

というような感じ。

「もっと聴いていたいんだけど、名残惜しい」

というような感じ。

 

基本に立ち返って、こう言う演奏を、よく吟味したり、分析したりしてみるのも、

ジャズ音楽の楽しみのひとつである。

 

SONNY STITTE (as,ts)
OSCAR PETERSON (p)
RAY BROWN (b)
ED THIGPEN (ds)

Recorded May,18,1959 in Paris

 

1 I Can't Give You Anything But Love

2 Au Privave

3 The Gypsy

4 I'll Remember April

5 Scrapple From The Apple

6 Moten Swing

7 Blues For Pres,Sweets,Ben And All The Other Funky Ones

8 Easy Does It


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Manuel Linhares マヌエル・リニャレス Suspenso

ラージ・アンサンブルの魅力

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また、素晴らしいミナス・サウンドに出会った。

アントニオ・ロウレイロのプロデュースだけあって、期待が高まったが、

期待以上の素晴らしいアルバムに仕上がっている。

冒頭曲のMarcha Lenta を聴いただけでも、背筋に戦慄が走る。

 

この数年、ミナス・サウンドの持つ奥行きの深さに、

心惹かれる機会が増えてきたような気がする。

昔から、ミルトン・ナシメントトニーニョ・オルタなどはもとより、

ウェイン・ショーターパット・メセニーやギル・ゴールドスタインなど、

ミナス・サウンドから少なからず影響を受けてきたジャズ・アーティストを

通じて、聴き親しんできたのではあるが、

きっかけは、マリア・シュナイダーの音楽か。

マリア・シュナイダーの「The Thompson Fields」などを聴くと、

彼女の考えるラージ・アンサンブルの源泉は、このミナス・サウンド

あるのではないかと思うほど、感性的に近いものを感じる。

 

ラージ・アンサンブルの手法を取り入れることで、

ミナス・サウンドが本来持っている深淵な多血のクロスオーバー的な本質に、

広がりと緻密さを与え、輝きを増しているような気がする。

なんと表現したら良いのだろうか、

土着の匂いがプンプンしながらも、とても室内楽的で洗練されているというか・・・

 

不思議、謎、トリック、神話がいっぱい詰まった宝箱を、そっと開けて、

ジャズ・テイストのラージ・アンサンブルで程よくエッジを利かせ、

風に乗って、空高く解き放つような音楽性・・・・とでも言おうか。

いささか詩的に過ぎるかもしれないけど、

このなんとも言えない開放感あふれる音楽の魅力をなんとかしてお伝えしたい。

 


1. Marcha Lenta (05:35)

2.Intempérie (04:48)

3. Isolation 4 (06:23)

4. Oxigénio (04:40)

5. Lamento (07:19)

6. Jogo de Sombras (05:33)

7. Sentimental Illness (05:20)

8. Dan?a Macabra (06:02)

9. Suspended (05:35)

 

Manuel Linhares – vocals, compositon, lyrics
António Loureiro – arrangement, music production, synthesizers, electric bass (1),   composition (4), drums
Guillermo Klein – arrangement (6)
Paulo Barros – piano
José Carlos Barbosa – bass
David Binney – alto saxophone
Frederico Heliodoro – electric bass (2)
Rubinho Antunes – trumpet, flughelhorn
Alexandre Andrés – flute
Hugo Raro – Fender Rhodes
João Pedro Brandão – alto saxophone
Rui Teixeira – baritone saxophone
José Pedro Coelho – tenor saxophone
Hugo Ciríaco – tenor saxophone
Andreia Santos – trombone
Daniel Dias – trombone

Coreto Porta Jazz :
Hugo Raro – piano
AP – guitar
José Carlos Barbosa – bass
José Marrucho – drums
João Pedro Brandão – alto saxophone
José Pedro Coelho – tenor saxophone
Hugo Ciríaco – tenor saxophone
Rui Teixeira – baritone saxophone
Susana Santos Silva – trumpet
Ricardo Formoso – flugelhorn
Andreia Santos – trombone
Daniel Dias – trombone

 


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Kit Downes キット・ダウナーズ Vermillion

美しいピアノトリオが、またひとつ

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  • 初物である。

  •  

  • キット・ダウンズというイギリスのピアニスト。

  • 北欧やイタリアなど、本当に多くの耽美的なアプローチが売り物の

  • ピアニストが数多いて、少々、辟易としている状況の中、

  • 三者インタープレイが構造的で、奥ゆかしく、硬質で、

  • 抑制の効いた、素晴らしいピアノトリオが登場した。

  •  

  • 全体的な印象として、まさしくECMの音にはなっているのだが、

  • なんというか、独りよがりのマスターベーションではなく、

  • 非常に建築的というか、構成的な見取り図の制限の上に、

  • 伸びやかに室内楽的に対話する構図がなんとも深淵で、魅力的。

  • キット・ダウンズのピアノ自体も、これまで聴いたことのない、

  • 新鮮なフレージングやハーモニーを利かせ、

  • 新しいピアノトリオの匂いを感じさせてくれる。

  • そしてまた、キット・ダウンズというピアニストには、

  • 様々なジャンルの音楽のエレメントを深く愛し、学んだ軌跡が伺われる。

  • また、これから活躍が楽しみなユニットが誕生した。

     

  • Kit Downes(p)
    Petter Eldh(double-b)
    James Maddren(ds) 


  • 1.
    Minus Monks
  • 2.Sister, Sister
  • 3.Seceda
  • 4.Plus Puls
  • 5.Rolling Thunder
  • 6.Sandilands
  • 7.Waders
  • 8.Class Fails
  • 9.Bobbl’s Song
  • 10.Math Amager
  • 11.Castles Made of Sand  
  •  

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SCOTT HAMILTON  スコット・ハミルトン  LIVE IN BERN

「歌う」ことの難しさ

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スコット・ハミルトンを聴くと、いつも感じるのは、
「よく歌ってるなあ」ということ。
これから、ボーカルを志す人は、
この人のソロをこそ、勉強すればいいのにと思う。

スコット・ハミルトンの、ほぼ予定調和で、流麗なソロが流れてくると、
思わず、サウナの後の水風呂みたいに、
体中に心地良さが沁みわたってくるような気分になる。
その語り口は、大らかで伸びやか、
わかりやすくて、なじみやすい。

思わず、彼がソロに入ると、ニンマリしてしまう。
その奇を衒わないアプローチは、ストレートで明快。
スリルやドキドキ感は薄いかもしれない。
でも、何か、心にさざ波が打ち寄せるような不思議な魅力を備えている。

言うまでもないことだが、スタンダートをよく解釈して、
歌い上げるということは、簡単なようで簡単ではない。
なかなかできる芸当ではない。
生まれ持ってのセンスもさることながら、
厳しい鍛錬、探求といった向上心がなければ培われるものではない

偉大なインプロバイザーに共通する2つの特徴として、
・タイム感覚が際立って優れている(リズム感に優れ、「共振力=リズム伝振性」が高い)
・曲全体の構成、展開を深く理解、追求している(「物語性」が高い)
ことが挙げられると思う。
どんなにテクニカルに上手くても、
このタイム感覚と物語性が劣っていると、説得力に欠けるものになってしまう。

「歌う」ことの大切さ、と簡単に言ってしまうけれど、
「歌える」ようになるためには、天性の素質もあると思うが、
相当な覚悟をもって練習し、探求を続け、常に想像力を豊かに働かせなければ、
本当に「歌う」ことなど、できないのかもしれない。
スコット・ハミルトンのブローを聴くたびに、そう思ってしまう。

繰り返しになるが、
「思わずニンマリ」して聴き惚れてしまうアーティストというのは
私もそれほど多くはないのであるが、
スコット・ハミルトンを聴くと、いつも余計にニンマリしてしまうのである。

 

Scott Hamilton(tenor saxophone)
Tamir Hendelman(piano)
Christoph Luty(bass)
Jeff Hamilton(drums)

 

1. September In The Rain
2. All Through The Night
3. Watch What Happens
4. Soul Eyes
5. This Can't Be Love
6. There'll Be Some Changes Made
7. Sybille's Day
8. Key Largo
9. Woody'n You
10. The Champ
11. Ballad For Very Tired And Very Sad Lotus Eaters
12. You And The Night And The Music
13. Centerpiece

 


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Brad Mehldau  ブラッド・メルドー The Art Of The Trio Vol.1

ただ事でないピアノ

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このThe Art Of The TrioシリーズはVol.1〜5の5部作になっているが、

エバンスのリバーサイド4部作のように、

メルドーを語る上で外せない初期メルドーの傑作アルバム群である。

発売当時、度肝を抜かれたものである。

 

今更ではあるが、ただ事ではないピアノなのである。

ピアノという楽器のダイナミクスとジャズイディオムの伝統を知り尽くし、

クラシカルな技法も消化して、ジャズピアノの新たな地平を

果敢に切り開いていくような斬新さに溢れている。

テーマの取り方や物語性、正確無比なフィンガリングとリズム、左手の多用、

反復性の魅力など、どれもこれまでに聴いたことのないアプローチで、

選曲のセンスも素晴らしい。

 

ハンコック、コリア、ジャレットのジャズピアノ三巨匠が長らく君臨するジャズ界に、

新たな息吹をもたらす、新鋭アーテイストがやっと誕生したという感動があった。

もうあれから20年以上も経ったのだなあ、と感慨深くなるとともに、

今聴いても、やはり気持ちが昂る。

 

端的にいうと、圧倒的な「説得力」なのかも知れない。

語法、語彙が半端ないレベルで、

有無を言わせず聴かせてしまう力を持つ、稀有なアーティストの一人である。

 

個人的には、ライブ盤のVol.2が一番興奮する。

 

Brad Mehldau (p)
Larry Grenadier (b)
Jorge Rossy (ds) 

 

[1] Blame It On Youth
[2] I Didn't Know What Time It Was
[3] Ron's Place
[4] Blackbird
[5] Lament For Linus
[6] Mignon's Song
[7] I Fall In Love Too Easily
[8] Lucid
[9] Nobody Else But Me

 


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Scott Kinsey and Mer Sal スコット・キンゼイ&メル・サル Adjustments  

ザビヌル遺伝子

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2022年の最初に紹介するのは、

スコット・キンゼイの新作。

それもシンガーソング・ライターのメル・サルとの共演作ということで、

果たして、どんなテイストのザビヌルミュージックが聴けるか、

年初めからワクワクして聴いた。

 

私同様、ジョー・ザビヌルを愛してやまないというか、

フリークな人の代表格といえば、

このスコット・キンゼイ。

日本では、東京ザビヌルバッハの坪口昌恭

スコット・キンゼイらしからぬ、歌物のアルバムなど予想していなかったが、

比較的、食し易く軽い感じのザビヌルテイストを上手く盛り込みながら、

メル・サルの気を衒わないストレートなボーカルが小気味良い。

冒頭の曲で、大好きなスコット・ヘンダーソンのギターにも思わずニンマリ。

 

スティーリー・ダンの「Time Out of Mind」や

ビーチ・ボーイズの「Feel Flows」なども取り上げているところも懐が深い。

こういうポビュラリティの獲得こそ、

実はザビヌルが追求したものではとも思う。

 

ザビヌルはジャズというフレームを大切にしながらも、

その枠を拡大、超えていくための様々アイデアを持ち、果敢に挑戦し続けた

稀有なミュージシャンである。

その精神を受け継いだ、愛弟子のスコット・キンゼイの冒険心と誠実さには、

改めて敬意を表したい。

 

Scott Kinsey – keyboards, Trilian bass (7,10), background vocals (10), vocals (11)
Mer Sal – vocals, electric bass (1,3), synth pedal bass (9)

Scott Henderson – guitar (1)
Pedro Martins – guitar (2)
Oz Noy – guitar (5)
Josh Smith – guitar (6)
Nir Felder – guitar (8)
Alex Machacek – guitar (12)
Tim Lefebvre – bass (2,4,9)
Hadrien Feraud – bass (5,12)
Jimmy Haslip – bass (6), background vocals (10)
Junior Braguinha – bass (8)
Michael Janisch – bass (11)
Gergo Borlai – drums (1,5,9)
Danny Carey – drums (2), tabla (10), background vocals (10)
Gary Novak – drums (3,4,6,7,8,10,11,12), background vocals (10)
Brad Dutz – percussion (4,6,7,8)
Steve Tavaglione – saxophone (6), EWI (7)
Walt Fowler – trumpet (6)
Sharanam Anandama – dulcimer, vocals (10)
Julio Salimbeni – background vocals (10)
Liza Salimbeni – background vocals (10)
Vivian Chen – background vocals (10)
Tim Dawson – background vocals (10)
Sumitra Nanjundan – background vocals (12)

 

  1. Tiny Circles
  2. Seroquel
  3. Bleeding Tears
  4. Innocent Victim
  5. This Shell
  6. Time Out of Mind
  7. Crying Smile
  8. Feel Flows
  9. Heart of Glass
  10. Fifty Circles Around the Sun
  11. Down to You/Jungle Book
  12. Don’t Let Go


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2021のBEST3

今年のベストは、ルバルカバ、ロイド、ロバーノ

 

 

Jon Secada & Gonzalo Rubalcaba ジョン・セダカ&ゴンサロ・ルバルカバ Solos

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Charles Lloyd & the Marvels チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルス Tone Poem

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順位付けはしない。

今年は、あまり新譜を積極的に聴かなかったせいで、

サイトへの取上げ枚数も少ない中で、

衝撃感もあり、心から心酔できるものを厳選した。

 

まず、ジョン・セダカとゴンサロ・ルバルカバのデュオ作品。

一番衝撃を受けたアルバムとして、

また、ルバルカバの力量を再認識した一枚として、選んだ。

この二人のライブ映像があるのだが、

譜面もなしに、このクオリティ。

この音楽を仕上げるのにどのくらいの時間をかけたのであろうか。

これが、基本、即興だとしたら、両者とも恐るべき才能である。

 

次に、チャールス・ロイド。

久々に、愉快な気持ちで、音楽を楽しむ素晴らしさに浸れた一枚。

ロイドって、こういうメンフィス系の音楽風土や、

オーネット・コールマンの自由さを、根底に持っているように思うのである。

こんなに楽しげなロイドは他にないかも知れない。

恐るべし83歳の仙人!

 

最後に、ジョー・ロバーノ。

ロバーノとECMは相性がいいのか悪いのかは、

よくわからないが、

このマリリン・クリスペルのトリオとの相性は、素晴らしい。

ロバーノのテナーの深淵さを十二分に引き出すことに成功していると思うのである。

 

動画は、

冒頭のジョン・セダカとゴンサロ・ルバルカバのライブ映像。

ライブで、このクオリティ。背筋が凍る。

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