JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Bill Charlap ビル・チャーラップ  Street of Dreams

「斯くあるべし」

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ビル・チャーラップ・トリオの新譜である。

「大好きなんです!」という訳ではないが、

やはり聴かずにはおられない。

ブルーノート復帰作ということらしい。

 

まず、ジャケットが渋い。

一番左側が、ビルだが、ビルに見えない。

ウォールストリートの敏腕サラリーマンのようだ。

 

そして、これまで以上に選び抜かれた音使いであること。

どんどん余分なものを削ぎ落としていっている感じがする。

ビル・チャーラップ・イズムといおうか、イディオムというか、

少し音を間引いて弾き切らないビル特有のコロコロ奏法は、

いつも真似したいと思っているのだが、

いよいよ洗練されて、研ぎ澄まされた感じがする。

長年連れ添った、ピーター・ワシントンとケニー・ワシントンという

ビルイディオムを知り尽くしたサポートのなか、

必要な音だけ置いていく、紡いでいく、

「斯くあるべし」というように弾くビルの音楽の頑固さ。

美しさ。

 

構成、展開、ダイナミズム、グルーブ感、

どれをとっても非の打ち所がないピアノトリオアルバムである。

しかしあまりにも完璧で、面白味がないとも言える。

アノトリオの教科書のような演奏である。

でも、スタンダードを解釈する喜びも感じる。複雑な気持ち。

 

それにしても、相変わらず、ビル・チャーラは最高にピアノが上手い!

 

 

 

 

Mulgrew Miller  マルグリュー・ミラー Solo

マルグリュー・ミラーの打鍵

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ジャズピアノの個性として、

一聴して、わかりやすいのはピアノタッチである。

 

勿論、ピアノの種類や調律の仕方によっても、

タッチレスポンスがかなり違い、奏でられる音質も変わってくる。

私の好みの音は、比較的、軽い打弦で、硬質でありながら、

まろやかな深みのある音が紡ぎ出されるような感じの、

タッチレスポンスを軽めに調整したスタインウェイである。

(とはいうものの、生涯に数度しか弾いたことがないが・・・)

余談だが、キース・ジャレットの調律は、

超軽めのタッチレスポンスであると聞いている。

 

ピアノタッチと聞いて、いつも頭に浮かぶのが、

コツン、カツンとハンマーが弦を叩く音さえもイメージできるような、

強い打鍵の持ち主、マルグリュー・ミラーである。

ミラーのピアノは、一音一音の粒立ちがクリアーで、

正確無比なフィンガリングと相まって、ピアノを最大限に鳴らすことのできる、

まさに、ピアノのヴァーチュオーゾである。

 

大好きなバラード曲「Dreamsville」を聴いて見てください。

一音一音がキラキラ煌めいていて、コロコロ転がっていくような感覚。

こんな風に、ソロを弾いて見たいものだ。

 

このアルバムは2000年に録音されたライブ盤である。

成熟したミラーの堂々たるソロパフォーマンスであり、淡々と奏でられるのであるが、

ミラーの熱き内なるパッションが伝わってくるような、傑作である。

それにしても、ミラーのピアノは凄い。

正統であり、ダイナミックであり、惜しみない表現力で、

弾ききるミラーのプロ根性には、頭が下がるのである。

 

1  Jordu
2  Con Alma
3  Carousel
4  My Old Flame
5  Dreamsville
6  Yardbird Suite
7  Body & Soul
8  Giant Steps 

 


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Brad Mehldau & Orpheus Chamber Orchestra ブラッド・メルドー&オルフェウス室内管弦楽団 Variations On A Melancholy Theme

底知れぬメルドー

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メルドー自身が、この作品の音楽性について、

ブラームスがある日起きたらブルースになっていたようなイメージだ」

と書いてるようです。

 

ブラームスと言われて、思い出したのが、

若きグレーン・グールドが録音した、

ブラームス晩年の作品から間奏曲ばかりを集めた曲集「 10 Intermezzi 」!。

なんだか、少し恥ずかしそうに、躊躇しながら、

ブラームスを弾き込むグールドの静かな語り口が思い浮かぶ。

 

メルドーのブラームスに対する憧憬と、

オルフェウス室内楽団に対する敬意にあふれた眼差しを感じるとともに、

壮麗かつ端正なアンサンブルに、なんとも控えめでありながら、

ジャズのテイストをサラリと注入する、

メルドーのセンスと底知れぬ才能に、改めて、惚れ直した。

 

こういう、気を衒わない、素直で遠慮がちさえあるアプローチにこそ、

メルドーの本質の一面が、垣間見れて非常に興味深い。

 

聴く度に、印象が変化し、深まっていく感じがする。

この音楽はやはり、メルドーの音楽なのである。

そして、メルドーは今や本当に孤高である。

 

 

BRAD MEHLDAU (p)

ORPHEUS CHAMBER ORCHESTRA : 

 

1.Theme
2.Variation 1
3.Variation 2
4.Variation 3
5.Variation 4
6.Variation 5
7.Variation 6
8.Variation 7
9.Variation 8
10.Variation 9
11.Variation 10
12.Variation 11
13.Cadenza
14.Postlude
15.Encore: Variations "X" & "Y"

 


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Sonny Rollins ソニー・ロリンズ on Impulse!

ロリンズの焦燥と奔放さ

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自分の演奏に行き詰まりを感じたり、後ろ向きな気持ちになったときは、

ロリンズを聴く。

 

私の即興の心の師、ソニー・ロリンズ

ロリンズを聴くと、心が解放されていくと同時に、

熱き想いが、心に沸き起こってくる。

 

特にインパルス時代のロリンズは、以前紹介したアルバム、 

「アルフィー」でも述べたが、

「寂しさ」「焦燥感」「切なさ」「もどかしさ」が

色濃く出ているような気がしてならない。

そして、そこが堪らなく、魅力的なのである。

 

このアルバムは1965年の録音。

コルトレーン は、同じレーベルのこのインパルスで、

既に「至上の愛」をリリースしていた。

ロリンズは自身の音楽の方向性が定まらぬまま、

ブローし続けるしか、仕様がなかったのであろうか。

 

ロリンズは、即興の人なのである。オーガナイザーではない。

そこに、ロリンズという人のジレンマがあったと思う。

特に60年代、やはり、評価されるのは、

グルーフエキスプレッションとしての新しい方向性であり、

マイルスとコルトレーンは聴衆の予想を遥かに上回る圧倒的な創造力で、

ジャズ界を牽引していった。

ロリンズほどのインプロバイザーでも、焦燥の毎日であったと思う。

(70年代に入って、やっと吹っ切れたのかもしれないが、

 演奏自体の魅力はやはり薄れてしまった)

 

そうした「寂しさ」「焦燥感」「切なさ」「もどかしさ」の表出として、

表現された、ロリンズの演奏は、気持ちと裏腹に、

却って、説得力があり、奔放で、豪快で、ドラマチック、

そして何より、即興=アドリブの凄みを極限まで押し進めている。

最後の曲、「Three Little Words」を是非聴いて欲しい。

このスピード感、間の取り方、完璧なアーティキュレーション

そして、息の詰まるような畳み掛けがあると思えば、

放心したようなリラックスが同居する、

非常にスリリングな演奏。

インパルスの諸作は、もっともっと評価されていいと思うのである。

 

Sonny Rollins – tenor saxophone
Ray Bryant – piano
Walter Booker – bass
Mickey Roker – drums

Recorded at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ, on July 8, 1965

 

1. On Green Dolphin Street
2. Everything Happens to Me
3. Hold 'Em Joe
4. The Blue Room
5. Three Little Words

 


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Norah Jones ノラ・ジョーンズ I Dream Of Christmas

シンプル クリスマス!

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ノラ・ジョーンズ初のクリスマス・アルバム。

ジャケットといい、選曲といい、

クリスマスという言葉の持つなんともいえない雰囲気を

ストレートに、シンプルに伝えてくれるアルバムに仕上がっている。

 

とある紹介記事によると、ノラは新型コロナによるロックダウンの間に聴いた、

エルヴィス・プレスリーなど、往年の大スターのクリスマスチューンを聴いて、

心地よさを感じ、自身のこのアルバムを制作することを思い立ったそうである。

プレスリーの曲「Blue Christmas」も取り上げており、

ルーズに歌うノラのフィーリングにピッタリ。

 

ノラ・ジョーンズの声質自体は、

実は、それほど好きなタイプではないが、

ここ数年、ある種、貫禄さえ感じる、枯れた落ち着きを帯びた歌唱は、

疲れた心を癒すに足る包容力をいっそう湛えてきている気がする。

その途上のクリスマスソング集。

身も心も蕩けさせてくれる。

そして、ドラムが嗚呼、ブライアン・ブレイド

ノラに感謝!

 

Norah Jones – piano, vocals
Brian Blade – drums
Tony Scherr – bass
Nick Movshon – bass
Russ Pahl – pedal steel guitar
Marika Hughes – cello
Dave Guy – trumpet
Raymond Mason – trombone
Leon Michels – saxophone, flute, percussion

 

1. Christmas Calling (Jolly Jones)
2. Christmas Don't Be Late
3. Christmas Glow
4. White Christmas
5. Christmastime
6. Blue Christmas
7. It's Only Christmas Once A Year
8. You're Not Alone
9. Winter Wonderland
10. A Holiday With You
11. Run Rudolph Run
12. Christmas Time Is Here
13. What Are You Doing New Year's Eve?

 


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Antonio Sanchez アントニオ・サンチェス Three Times Three

Matt BrewerとJoe Lovanoの魅力

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このアルバムは発売当時、

メンバーの人選、構成力、選曲のセンス、

どれをとっても、聴く前から興奮していたのを、思い出す。

 

フロントの個性をいかに、引き出すかということにポイントをおいて、

聴いてみると、これまで気づかなかった、リズムサポートの妙のようなものに

改めて気づかされる面白さがあった。

 

このアルバムには、アントニオ・サンチェスの嗜好や方向性、こだわりが、

ストレートに表現されていて、その意気込みを感じるのは当たり前なのだが、

フロントのサポートとして、ベースを誰にするかという人選において、

サンチェスの慧眼に敬服するのである。

 

メルドーには、マット・ブリューワー

ジョンスコには、クリスチャン・マクブライド

ジョー・ロバーノには、ジョン・パティトゥッチ

 

合わせる前からでもなんとなく、想像できたかもしれないけれど、

実は、一緒に演ってみないことには、分からない未知の領分が、

サンチェスにとっても、ワクワクする人選であったと思う。

組み合わせの妙。一つひとつが魅力ある素材の編集工学。

 

中でも、今回聴き返してみて、新たな発見であったのは、

・マット・ブリューワーのベースの魅力

・ジョー・ロバーノとジョン・パティトゥッチとの相性の良さ

の2点である。

 

まず、マット・ブリューワー。

メルドーといえば、ラリー・グレナディアがまず思い起こされるが、

マットの何か、無骨で太く、奥まったような定位のベースが、

メルドーの茫洋で捉え所のないメロディをガチッと掴み込んでいるような感覚は、

ラリー・グレナディアの時のドライブ感とは異なるものを生み出している。

簡単にいうと、非常に「より嵌っている」という感覚、気持ちの良さである。

ぜひ、このトリオでの、作品のリリースを願うばかりである。

 

次に、ジョー・ロバーノ。

ジョン・パティトゥッチのリーダー作「Remembrance」(2009年)でも

トリオ形式での、ロバーノとの相性の良さは、経験済みであったが、

その時のドラムは、ブライアン・ブレイド

今回のこのトリオにおけるジョン・パティトゥッチは、

実にはじけていて、ドライブ感のあるベースで、ロバーノを煽っている。

相性ぴったり。素晴らしい。

「ジョー・ロヴァーノはあなたにとってどんな存在なのでしょう」

というサンチェスに対してのインタビュー記事で、

 

 「ジョーとは数回しか共演したことがなかったけど、彼の音やアプローチに心酔してきた。ずっと好きだったんだ。よりオープンで自発的な音楽をこのトリオに求めていたから…本当に素晴らしい結果だね」

と答えている。

 

うんうんとうなづきながら、至高の三者三様の饗宴に酔いしれる一夜でありました。

 

■CD1

Brad Mehldau(p), Matt Brewer(b), Antonio Sanchez(ds),
Recorded in New York on 27 October 2013

1. Nar-this (Nardis - Miles Davis)
2. Constellations (A. Sanchez)
3. Big Dream (A. Sanchez)

 

■CD 2
T-1 - 3
John Scofield(g), Christian McBride(b), Antonio Sanchez(ds)
Recorded in New York on 4 December 2013

1. Fall (Wayne Shorter)
2. Nooks And Crannies (A. Sanchez)
3. Rooney And Vinski (A. Sanchez)

 

T-4 - 6
Joe Lovano(ts), John Patitucci(b), Antonio Sanchez(ds)
Recorded in New York on 16 December 2013

4. Leviathan (A. Sanchez)
5. Firenze (A. Sanchez)
6. I Mean You (Thelonious Monk)

 

メンバーは、サンチェスとマット・ブリューワー以外は異なるが、

冒頭曲Nar-this(ナーディス)の再演。

カクンカクンとキレの良い、マットのベース!


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kenny garrett  ケニー・ギャレット sounds from the ancestors

先祖からの音群

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アルバムタイトルを直訳すると、

「先祖からの音群」になる。

アルバムジャケットを観察しても、

音楽のミューズが、ケニーに息を吹き込んだものが、

彼のサックスを通じて、溢れ出してくると言ったイメージ。

 

いよいよ、ケニー・ギャレットというアーティストは、

単なるアルトサックス奏者としての枠を超えて、

オーガナイザーとしての歩みを着実に進めている気がする。

あらゆるビート音楽に敬意を表して、

極めて多彩なサウンドをオーガナイズしようとする彼の心意気に感服。

聴き終わって、何か爽快感のようなものさえ感じる。筋が通っているというか。

真っ当で、ハッピーで、創造力に溢れた作品です。

 

また、ロイ・ハーグローブに捧げた2曲目の「Hargrove」、

さらに、アート・ブレイキとトニー・アレンに捧げた4曲目の「For Art’s Sake」は、

彼の嗜好、ルーツを知る上でも興味深い。

特に、「Hargrove」の軽快なリズムに乗って執拗に奏でられるリフレインは、

いかにロイ・ハーグローブが、同時代のミュージシャンにとって、

象徴的で、影響力のあった存在であったかを、教えてくれるような気がします。

 

特に、素晴らしいと思ったのは、「It’s Time to Come Home」。

これこそ、ケニー・ギャレットという人の奥深さを感じるテイストのサウンドを、

冒頭とエンディングに持ってきたセンスがなんとも、素晴らしい。

 

そして、タイトル曲「Sounds from the Ancestors」。

ケニー自身の気を衒わないピアノソロから始まりながら、

少し懐かしささえ感じる、アフロな豊穣の世界に聞き手を誘(いざな)い、

また、ケニーのピアノソロで幕を閉じるという、素直なケニーの世界。

 

変にいじっていない、だけど多彩で深淵といった感覚。

ケニー・ギャレットの魅力を再認識した一枚です。

 

Kenny Garrett – alto saxophone (all tracks),

                            vocals (2), electric piano (2, 3, 4, 6), piano intro/outro (7)

Vernell Brown, Jr. – piano (all tracks except 3)

Corcoran Holt – bass (all tracks)

Ronald Bruner – drums (all tracks)

Rudy Bird – percussion (all tracks), snare (6)

1. It’s Time to Come Home
2. Hargrove
3. When the Days Were Different
4. For Art’s Sake
5. What Was That?
6. Soldiers of the Fields / Soldats des Champs
7. Sounds from the Ancestors
8. It’s Time to Come Home

 

冒頭とエンディングを飾る曲「It’s Time to Come Home」


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