JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

KEITH JARRETT キース・ジャレット STANDARDS VOL.1

アノトリオの可能性を広げた歴史的名盤

 

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キース・ジャレット

面白い人である。というか、変態である。

私もピアノを弾くので、演奏するための作法や姿勢、メンタルな面での心構えなど、

良いパフォーマンスになるよう、自分なりに工夫している点はある。

けれど、キースの弾き方は参考にならないばかりか、いつも驚いてしまうのは、

鍵盤上の手(指)のぎこちなさ、コチコチの硬直感である。

あそこまで指に力を入れて(いるような気がするだけか?)、弾いているのに、

どうしてあんなに美しい音色とパッセージが紡ぎ出されてくるのか。

信じられないのだ。笑ってしまうほど、不思議なのである。

ピアノの調律(鍵盤のタッチレスポンスを軽めに設定)の効果も大きいとは思うが、

キースの紡ぎ出す音の一音一音の美しさは、他に比を見ない。

 

この「スタンダーズ」というトリオは、元を辿れば、

ゲーリー・ピーコックのリーダー作品「テイルズ・オブ・アナザー」に端を

発しているかもしれないが、「スタンダード」を題材にしたピアノトリオ

としてのフォーマットの可能性を、極限までに広げた画期的な歴史的名盤は、

このアルバムであると思う。

正直、最初にこのアルバムの「オール・ザ・シングズ・ユー・アー」を聴いた時、

その畳み掛けてくるようなスリリング感、テーマ解釈の自由度、

三者インタープレイの複雑さ、どれを取っても、これまで聴いたことのない

圧倒的なパフォーマンスに、驚きと興奮に包まれた記憶が蘇ってくる。

 

ブラッド・メルドーも変な姿勢でピアノを弾くし、

キースと同じような、得体の知れない凄さが感じられる。

ただ、個人的な思いではあるが、

ことトリオ演奏によるスタンダートの演奏に関しては、

その解釈の面白さやフレーズの色彩感とバリエーション、音色の美しさ、

そして、三者の絶妙な一体感など、キースの方が一枚上と言わざるを得ない。

 

STANDARDS VOL.1

  Keith Jarrett(p)

  Gary Peacock(b)

  Jack DeJohnette(ds)

 

1   Meaning Of The Blues    09:22

2   All The Things You Are   07:45

3   It Never Entered My Mind   06:42

4   The Masquerade Is Over   05:57

5   God Bless The Child   15:30

 


Keith Jarrett Trio - All The Things You Are

 

 

 

 

Chrystelle Alour クリステル・アルール Traversee

とてもふっくらした優しい声に、癒されます

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まったく予備知識なしで聴いて、

その優しく、ふっくらとした透明感のある声に魅了されました。

何と言っても、一曲目の「Dans L'eau Vive」 が秀逸。

憂いのある曲調ながら、とても幸せな気分と広がりを感じさせるのは、

彼女の持ち味なのだろう。

ピアノも彼女が弾いている。

サイドを固めるアーティストのサポートも素晴らしい。

フランスのアーティストで、まだ、日本では殆ど知られていないと思うが、

今後の活躍を期待したい。

 

Traversée – Chrystelle Alour

1 Dans L'eau Vive  4:37
2 Florabaila   3:59
3 O Leaozinho   2:30
4 Un Dernier Rêve    3:26
5 Nord Magnétique   6:18
6 Traversée   3:14
7  Neiges D'avril  3:14
8  A Rota Individuo (Ferrugem)  2:53
9  Vestiges  6:04

 

Auteur, compositeur, arrangeur : Chrystelle Alour

Chrystelle Alour : piano, Fender Rhodes, chant
Sandro Zerafa : guitare
David Prez : saxophone ténor
Simon Tailleu : contrebasse
Manu Franchi : batterie

Invités :
Sophie Alour : flûte traversière
Julien Alour : trompette

 


Teaser "Dans l'eau vive" par Chrystelle Alour

 


Chrystelle Alour-Album Traversée (Jazz Family)

 

MIROSLAV VITOUS ミロスラフ・ビトウス  Infinite Search

なんとも不思議な魅力を持つ、ビトウスの初リーダー作

 

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このアルバム、正直、大好きなんです。

「Bitches Brew」の録音から2ヶ月後くらいに制作された作品なんですけど、

「Bitches Brew」を生み出した時代の勢い、興奮が、後押しして、

奇跡的に創り上げてしまった、ビトウスの初リーター作品にして、最高傑作。

 

何が凄いかといって、まず、メンバー人選の素晴らしさ。

まず、マクラフリンの起用。このマクラフリン異常にカッコいい。

このアルバムを聴いてマクラフリンがいかに偉大かを知ったのでした。

そして、ジョー・ヘンの起用。ウェイン・ショーターじゃないところがミソ。

ジョー・ヘンを起用することで、「Bitches Brew」より、ジャズ感のテイストが強い。

そして、ここでもハンコックの存在は大きい。

ハンコックのフェンダー・ローズが作品全体の気持ちのいい浮遊感を

非常に効果的に演出している。

 

次に、選曲。どの曲も素晴らしい。

1曲目の「Freedom Jazz Dance」でガツンと頭を殴られ、

2曲目の「Mountain In The Clouds」や3曲目の「When Face Gets Pale」で、

ビトウスのコントラバス奏者としてのセンスと力量が存分に発揮されており、

どちらかという牧歌的な雰囲気さえ感じる曲調に、トリップし、

そして、何と言っても、4曲目の表題曲では、

初期のウェザーリポートの輪廻的なニュアンスに心奪われるのです。

 

そして、ジャケットのアートワーク。私は当時LPで所有していたが、

少しエナメル調に輝く白地のジャケットの真ん中が、切り取られていて、

その中にビトウスのモノクロの肖像が覗いているという斬新なデザインが、

とても刺激的で、素敵であった。

 

あと、面白いのがプロデュースが、ハービー・マンだということ。

当時のビトウスのボスだったからと思うが、

ハービー・マンが演奏者として加わっていないところも、何か面白い。

傑作というものは、得てして、製作者が意図しないところで、結実する場合があるが、

この作品は、その最たるものでないか。

1969年という時代の雰囲気と新たな1970年代に向かう不思議な昂揚感を、

これほど奇跡的に、体現し得たケースは珍しい。

 

1: Freedom Jazz Dance 10:54

2: 7:38

4: Infinite Search 6:49

5: I Will Tell Him On You 11:00

6: Epilogue 6:57

 

1969,10,8

Miroslav Vitous (ba)
Joe Henderson (ts) #1,5
Herbie Hancock (ep) #1,3,4,5,6
John McLaughlin (gt) #1,3,4,5,6
Jack DeJohnette (ds) #1,2,3,4,5
Joe Chambers (ds) #6

 


Miroslav Vitous Freedom Jazz Dance

HERBIE HANCOCK ハービー・ハンコック THRUST

なんてったってアイドル

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ロリンズに続いて、なんてったってアイドルの二人目、ハービー・ハンコック

ハンコックの何から紹介しようと、随分と悩んだのですが、

この「スラスト(突撃)」に決めました。

 

1973年の「HEAD HUNTERS」、そして1974年の本作、

1975年の「MAN CHILDS」いずれも傑作であり、甲乙付け難く、

一時、「MAN CHILDS」にしようと決めましたが、思い直して、「THRUST」に。

このアルバムは、4曲全てが素晴らしく、

アルバム全体の展開、構成も良く、バランスが取れている。

「HEAD HUNTERS」のハービー・メイソンのヘビーで機械のようなドラミングも

大好きだけど、本作のマイク・クラークの叩き出す変則的・複雑なビートは、

ヘッドハンターズというグループの新たな魅力を生み出している。

非常にセンシティブというか、複雑だけど体の奥底から響いてくるグルーブ感が

より強烈になった感じがあり、それが半端なく格好良い。

 

思うに、マイルスが60年代後半から提示した4ビートからの解放の路線を

ハンコック、ザビヌル、チック・コリアがそれぞれ、ヘッド・ハンターズ、WR、

RTFというグループによって、素晴らしい成果に結実させていったわけだが、

特に、ハンコックのこの一連のファンク路線は、非常にエキセントリックで

ある意味、「わかりやすさ」を備えていたため、三つのグループの中でも、

これまでジャズに興味を持たない層にも広くアピールできたという意味も含め、

ジャズのポテンシャルを実質的に高め、広げることができた

一番の成功例ではなかったか、と思うのです。

マイルスが夢見ていたことが結実したと言う感じ・・・。

復帰後のマイルスもいいが、この三つのグループエキスプレッションには、

到底かなわないというのが、私の思いなのです。

 

ハンコックという人は、ザビヌルやチックコリアと並んで、真のイノベーターであり、

卓越した感性を持ったパフォーマーでもある稀有なアーティストである。

ボコーダーディスコサウンド、はたまた、ヒップ・ホップを取り入れたり、

そんなハンコックを毛嫌いする人も少なからずいるが、

キーボードを志す者にとって、やはりその才能とセンスは憧れであり、

敬意を表さずにはいられない存在である。

なんてったってアイドルなのです。

 

 

THRUST

1. Palm Greas

2. Actual Proof

3. Butterfly

4. Spank-A-Lee

 

 

Herbie Hancock (Fender Rhodes piano, Clavinet, synthesizer);

Bennie Maupin (soprano & tenor saxophones, saxello, alto flute, bass clarinet);

Paul Jackson (electric bass);

Mike Clarke (drums);

Bill Summers (percussion).

1974 CBS, Inc./Manufactured by Columbia Records/CBS Inc.

 

Grégoire Maret グレゴア・マレ Americana

アメリカを旅するロード・ムービー・サウンド
 

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今週の厳選 1枚は、グレゴア・マレの最新作、「アメリカーナ」。
タイトルからして、アメリカの原風景を感じさせるテーマ性の強いサウンド
想像され、2008年東京ジャズのサブ・イベントであるTokyo Jazz Circuitでも
来日したローマン・コリン、そしてビル・フリーゼルが加わって、どんなサウンド
生まれるか、ワクワクして聴いた。
 
ただ、一聴して感じた印象は、「少し意外」
・・・であった。
「原曲のメロディーを大切にした、素朴で癖のない淡々とした展開。
 でも、奇を衒わないが故に、余計、心に響いてくる、この心地よさは一体?」
といった感じ。
特に印象深かったのは、1曲目「Brothers in Arms」、6曲目Wichita Lineman」、
そして、ラストの「Still」。
多分、この手の音楽は、聴くたびに、その色合いや印象が変化し、
わたしの心に深く沈着していくような予感がする。
 
グレゴア・マレの音色や奏法は、いつ聴いても、自然体で癖のない、
ある意味、朴訥とも言えるスタイルが、彼の大きな特徴と言えるのだが、
今作は、その特徴が、コリンと一緒に創り上げた大らかで郷愁感のあるサウンド
非常によくフィットしている。
久しぶりに、真摯で真面目な、これから大切にしていきたい気がするアルバムに
出逢った気がする。
 

Americana

2.Small Town
3.Rain, Rain
4.San Luis Obispo
5.Back Home
6.Wichita Lineman
7.The Sail
8.Re: Stacks
9.Still

 

Grégoire Maret (harmonica),

Romain Collin (piano, Moog Taurus, pump organ & additional effects),

Bill Frisell (electric guitar, acoustic guitar & banjo),

Clarence Penn (drums)

 


Brothers in Arms

 

SONNY ROLLINS ソニー・ロリンズ SAXOPHONE COLOSSUS

天衣無縫

 

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私にとってのジャズ界のアイドルは、けっきょく、なんやかんやいっても、

このロリンズとハービー・ハンコックの二人になるのである。

大好きなのである。いつも完全にやられてしまうのである。

最初の一音からノックアウトされ、体に沁みわたっていくのである。

 

例えば、このアルバムの二曲目の「You Don’t Know What Love Is」。

作曲者には申し訳ないが、この他愛のない曲が、ロリンズという回路を通るだけで、

なぜ、こんなに、朗々として、そして、また、

なぜ、こんなに、切ないのだろうか。

トミフラのピアノソロが終わってからの、ロリンズの短いソロから

テーマに戻るところなんか、いつ聴いても鳥肌が立つ。

 

今回の紹介だけは、もう少しくどくど、ひつこく言わせてもらいたい。

おじさんの面倒臭い講釈を、我慢して聞いてくだされ。

ジャズの最も特徴的なエレメントを、「即興」とした場合、

ジャズ史上、最も偉大な即興パフォーマーはロリンズであると言い切りたい。

確かに、ロリンズやコルトレーン以降、その影響を受け、

テクニカルな面を随分進化させたパフォーマーがいるかもしれないが、

ロリンズのパフォーマンスというものは、まさに「天衣無縫」。

「天衣無縫」とは、「詩歌などが、技巧をこらしたあともなく、いかにも自然で、

しかも完全で美しいこと」という意。

鍛錬に鍛錬を、精進に精進を重ねた一人の天才だからこそ遺せた軌跡。

その豊かで大らかな音色、抜群のリズムセンス、神業のアーティキュレーション

どれをとっても圧倒的でありながら、いかにも自然で、そして完全に美しいのだ。

 

そうそう、

川島哲朗さんのノリに乗った演奏に接するときも同じような気持ちになるなぁ。

 

1 SAINT THOMAS   6:42
2 YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS   6:24
3 STRODE RODE   5:11
4 MORITAT   9:57
5 BLUE 7   11:12


SONNY ROLLINS(ts)

TOMMY FLANAGAN(p)

DOUG WATKINS(b)

MAX ROACH (ds)

Hackensack,New Jersey,June 22,1956.
Original sessions recorded by Rudy Van Gelder and produced by Bob Weinstock.

 


Sonny Rollins Quartet - You Don't Know What Love Is

 

GLENN ZALESKI グレン・ザレスキー Fellowship

久々に惚れたピアニスト グレン・ザレスキー

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昨今、音楽もitunesを始めサブスクのおかげで、
ジャズの場合、旧作から最新作まで、
世に出ているアルバムのほとんどを、自分のライブラリーに追加することができる。 
そのせいか、少し試聴して、いいなと思ったものは気軽にダウンロードして、
ひとまず、ライブラリーに追加していくといったパターンが増えてきた。
アルバム一枚一枚を聴きこんで、徐々に惚れていくということが少なくなっている。
 
このアルバムは、最初に試聴した時から、グッとハートを掴まれ、
一気に通して聴きこんでしまった、最近では珍しいアルバムである。
 今や、若手を代表するピアニストのアーロン・パークスや
ジェラルド・クレイトンより3歳から4歳くらい、若い年齢になるが、
この二人に匹敵する、いや凌駕するほどの力量と可能性を秘めた
素晴らしいピアニストであると思う。
 
特筆すべき第一は、「ピアノタッチ」。
このタッチはYOUTUBEを見てもらうとわかると思うが、
非常に力を抜いて軽く鍵盤を、どちらかというとぎこちなく、
撫でるように弾いていながら、非常に深く、硬質な味わいのあるトーンを
生み出している。
 
特筆すべき二つ目は、「考え抜かれた構成力」。
多分、トリオフォーマットとして、何度もメンバー間で推敲されているのだろう。
スポンティニアスな即興ではなく、綿密かつ慎重に計算された即興と言える。
「ストイックな作法に裏打ちされた、優雅な遊び」とでも表現したらいいのか、
とにかく、聴くたびに、考え抜かれた仕組みが新たに浮かび上がってくる。
 
最後に、サイドを勤める、ペースのデズロン・ダグラスの素晴らしさ。
ベースラインだけ集中して聴くと、その良さがよく分かるのだが、
ベースラインの確かさと音色の美しさ、力強さに心打たれる。
ザレスキーとの相性も抜群である。
 
グレン・ザレスキー。
どちらかというと、地味な印象から、まだまだ知名度は低いと思うが、
もっともっと多くの人にその魅力を知ってもらい、知名度が上がって、
私自身、まだ生を聴いていないので、ぜひ、再来日してほしい。

          Piano – Glenn Zaleski      

          Bass – Dezron Douglas

          Drums – Craig Weinrib

          2017年2月24日

 


Glenn Zaleski Trio - "Fellowship"