天衣無縫
私にとってのジャズ界のアイドルは、けっきょく、なんやかんやいっても、
このロリンズとハービー・ハンコックの二人になるのである。
大好きなのである。いつも完全にやられてしまうのである。
最初の一音からノックアウトされ、体に沁みわたっていくのである。
例えば、このアルバムの二曲目の「You Don’t Know What Love Is」。
作曲者には申し訳ないが、この他愛のない曲が、ロリンズという回路を通るだけで、
なぜ、こんなに、朗々として、そして、また、
なぜ、こんなに、切ないのだろうか。
トミフラのピアノソロが終わってからの、ロリンズの短いソロから
テーマに戻るところなんか、いつ聴いても鳥肌が立つ。
今回の紹介だけは、もう少しくどくど、ひつこく言わせてもらいたい。
おじさんの面倒臭い講釈を、我慢して聞いてくだされ。
ジャズの最も特徴的なエレメントを、「即興」とした場合、
ジャズ史上、最も偉大な即興パフォーマーはロリンズであると言い切りたい。
確かに、ロリンズやコルトレーン以降、その影響を受け、
テクニカルな面を随分進化させたパフォーマーがいるかもしれないが、
ロリンズのパフォーマンスというものは、まさに「天衣無縫」。
「天衣無縫」とは、「詩歌などが、技巧をこらしたあともなく、いかにも自然で、
しかも完全で美しいこと」という意。
鍛錬に鍛錬を、精進に精進を重ねた一人の天才だからこそ遺せた軌跡。
その豊かで大らかな音色、抜群のリズムセンス、神業のアーティキュレーション、
どれをとっても圧倒的でありながら、いかにも自然で、そして完全に美しいのだ。
そうそう、
川島哲朗さんのノリに乗った演奏に接するときも同じような気持ちになるなぁ。
1 SAINT THOMAS 6:42
2 YOU DON’T KNOW WHAT LOVE IS 6:24
3 STRODE RODE 5:11
4 MORITAT 9:57
5 BLUE 7 11:12
SONNY ROLLINS(ts)
DOUG WATKINS(b)
MAX ROACH (ds)
Hackensack,New Jersey,June 22,1956.
Original sessions recorded by Rudy Van Gelder and produced by Bob Weinstock.
Sonny Rollins Quartet - You Don't Know What Love Is