JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Bill Evans & Jim Hall ビル・エバンス&ジム・ホール Undercurrent

二人だからこそ通用する語法の美学

f:id:zawinul:20200712220402j:plain


この二人の会話は、

長年、寄り添った夫婦の阿吽の呼吸といった感じというよりも、

互いに信頼し、敬いながらも、久しぶりの再会で、

緊張感と適度な距離感をもって、

カウンターに並んで座って会話を楽しむ

旧知の二人の間のやり取りとでも表現したらよいのであろうか。

集中して聴いていると、                            

二人の会話をカウンターの端で盗み聞きしている感覚に陥る

それだけ、この二人だからこそ通用する語法の美学に、

ある意味、嫉妬さえ感じる。

誰にも干渉できない緊密なインタープレイがここにある。

これは、私の持論であるが、「デュオ」という形式は、              

即興音楽のなかで、関係性が一対一ということもあり、              

レスポンスの瞬発性や研ぎ澄まされたバランス感覚が、生々しく露見されやすく、  

アーティストとしての真価が端的に問われる形式だと思うのです。

 

特に、ギターとピアノとのデュオについては、

対等なスタンスでインタープレイを繰り広げるのは、結構難しい作業であり、

どちらかがリードして進める形か、単純にソロと伴奏を交互に入れ替わるといった

アプローチがほとんどなのではないであろうか。

しかし、この作品は、明らかに両方が主役であり、常に相互作用的である。

互いに、瞬時に呼応して、紡ぎ出されていく即興の様は、

きまぐれで、安易なセッションのような風合いは微塵もなく、

まるで、あらかじめ譜面上で推敲されたと思われるほど、

端正で、奥ゆかしく、驚くほど息のぴったり合った、しかも挑発的な、

「奇跡」としか言いようのない出来なのである。

 

私にとって、聴くたびに新鮮で、没入感が強くなっていく作品であり、

このアルバムを聴いていない方には、是非、手に入れていただき、

BGM的で良いので、何度も何度も聴いてみてください。

きっと、このアルバムの深淵なる美学に、感じ入ることになるでしょう。

 

Guitar – Jim Hall
Piano – Bill Evans

 

1. My Funny Valentine
2. I Hear A Rhapsody
3. Dream Gypsy
4. Romain
5. Skating In Central Park
6. Darn That Dream

 


Bill Evans and Jim Hall Duo - Skating in Central Park

 

 

Tokyo Zawinul Bach 東京ザヴィヌルバッハ Reunion

今こそ 東京 Zawinul Bach   再会のとき

f:id:zawinul:20200710214427j:plain

 

冒頭曲の「TZ-1 Choral」を聴いて、涙した。

 

TZの「T」は東京。「Z」はZawinul の略。「Choral」は唱和の意。

あの東京ザヴィヌルバッハを率いる、鬼才、坪口昌恭が、

結成当初のメンバーである菊地成孔五十嵐一生に声をかけ実現した、

まさに再会というタイトル通りの、20周年記念ライブ。

この冒頭曲の由来を知る上で興味深い、坪口昌恭へのインタビュー記事があるので、

少し長いが引用すると、

 

「バンド名をどうするかということも話していたんです。僕は坪口だから、「tzboguchi」ってちょっとふざけて表記しているんですけど、そこから「TZ-1」のような記号みたいな名前がいいんじゃないかと菊地さんからのアイデアがあったんですよ。僕はもうちょっと色彩的な名前が欲しくて「tzboguchi」の宛字を考えていたら、「t」は「東京」、「z」は「ザヴィヌル」だよねって大笑いになって。要するに当て字で考えていったんです。「東京」は「東京で発信している」という意味がもちろんあります。「ザヴィヌル」は「ジョー・ザヴィヌル」です。その頃は、エレクトリック・マイルス再評価をやりたいよねというムードだったので、エレクトリック・マイルスの影の立役者はジョー・ザヴィヌルでしょ、みんな忘れてるけど彼がいたから「ビッチェズ・ブリュー」もできたんだという話になって。・・・」

 

「TZ-1 Choral」は坪口と菊池との即興的な掛け合いから始まり、

ベースとのユニゾンによる、邂逅のテーマが告げられると、

五十嵐や菊池が、絡み合いながら、夢見心地のChoralに編み上げていく。

再会にふさわしい、ノスタルジーと優しさに溢れたこのアルバムの

象徴的な作品である。

 

また、5曲目の「New Neuron」では、石若駿が参加しているが、

五十嵐のペットも往年の輝きを得たソロで応酬すると、

坪口自身も触発されて、ローズを弾きまくって、本当に演奏を楽しんでいる。

 

東京ザヴィヌルバッハの20年の軌跡は、日本の音楽界が誇るべき、

坪口という天才による編集工学の素晴らしき成果である。

今からでも遅くない、今聴いても、新鮮でエキセントリックな、

東京ザヴィヌルバッハの素晴らしい過去の作品群に、

今こそ、触れてもらいたい。

 

坪口昌恭:Pf, el.P, Synth. Vocoder, efx, MacBookAir

菊地成孔:sp.&tn.Saxophone, CD-J, Rap(N/K)

五十嵐一生:Trumpet, electronics(except track3)

織原良次:Fretless Bass(except track3)                                                                         

守 真人:Drums, Pad(except track3, 5)

石若 駿:Drum(s track5)

河波浩平:Voca(l track6)

Recorded at 代官山 晴れたら空に豆まいて

 

1. TZ-1 Choral

2. 12 Special Poison

3. Poly Gravity

4. Bitter Smiles

5. New Neuron

6. Drive Inn High

 


Tokyo Zawinul Bach・Reunion 『 20th Anniversary Live』 試聴動画

 

おまけに、ザビヌルの偉大さを知ることになる坪口さんの名アレンジ!


"Black Market" (composed by Joe Zawinul) by Masayasu Tzboguchi (Tokyo Zawinul Bach Selection)

 

 

 

 

 

SONNY CLARK ソニー・クラーク Cool Struttin'

パップという様式美で遊ぶ

f:id:zawinul:20200707214841j:plain

 

私は、パップのピアノといえば、バド・パウエルを除いては、

ソニー・クラークが最高にヒップで、完成されたピアニストだと思うのです。

 

聴けば聴くほど、耳コピすればするほど、

あーなんて、スタイリッシュで上品なタッチ、硬質なフレーズなんだろうと、

惚れ惚れしてしまうのです。

よく、ハンプトン・ホーズと比較されたりしますが、

ホーズファンには申し訳ないのですが、格が違うと思うのです。

簡単には真似できない、非常に繊細なタッチと知的なフレージングなのです。

 

よく、クラークは日本だけで人気があって、アメリカでは全く・・・とかいう

話をよく聞きますが、確かにセールス的にはそういう面もあったかもしれませんが、

数多のハード・バップのアルバムの参加アーティストを調べれば、

クラークが、いかに引っ張りだこであったかが分かります。

ベースのサム・ジョーンズも、一緒にやって最もインスパイヤされる

ピアニストとして、クラークを挙げています。

 

このアルバムは、ジャズリスナーにとっては、避けて通れない作品でしょうが、

どうも人気先行となっており、正当に評価されていないんじゃないかと思うのです。

クラークのピアノの美学を表現すると、

「非常にブラックなブルースフィーリングを、パップという都会的なイディオムで

 再構築し直した、この時代の最高水準にある、洗練された様式美」

とでも、表現できましょうか。

試しに、一度、クラークのソロの断片(フレーズ)を切り取って、抜き出し、

一つ一つ、丁寧に分析、吟味、あるいはサンプリングしてみてください。

一つの小宇宙がそこに見えるはずである。

 

マクリーンらしい、少しチューニングが外れたような色褪せた泣きのブローや、

アート・ファーマーの溌剌としたいかにもバップテイスト溢れるソロが華を添え、

何より、ポール・チェンバースとフィリージョーの鉄壁なサポートを受けた、

ソニー・クラークというハードバップピアニストの真骨頂と言える作品であると、

改めて思うのであります。

 

Art Farmer (tp)
Jackie McLean (as)

Sonny Clark (p)
Paul Chambers (b)
Philly Joe Jones (ds)

 

Recorded 1958.01

 

1  Cool Struttin’

2  Blue Minor

3  Sippin’ at Bells

4  Deep Night

 


Cool Struttin'

 

BENNY GREEN ベニー・グリーン Benny's Crib

全篇、フェンターローズの上質ジャズ

f:id:zawinul:20200704223924j:plain

 

ジャケットを見て、即ダウンロードしました。

フェンダー・ローズの写真!

ジャズピアニストだったら、やはり一度は弾いてみたくなるエレピ。

実際弾いてみると、よく分かるのですが、

まず鍵盤のタッチ。下まで打鍵するとカチコチいう心地よい感覚!

次に音色、これは製作年代やエフェクターの種類によってかなり変わってくるが、

特に、フェイザーとコーラスをバランスよくかけた音色の柔らかさと艶やかさは絶品。

私も、学生時代、24回ローンで憧れのローズ(かまぼこ型のマークⅠ)を、

中古で手に入れました。(今や手元にはありませんが・・・残念)

 

さて、このベニー・グリーンの新作は、

ローズの存在を前面に印象付けていることから、

これまでとは違った毛色なのかなぁと予想していたのですが、

見事期待(?)を裏切られました。

いつものベニー・グリーンで、奇を衒わず、スイングしてます!

 

フルートが入った3曲目の「Coral Keys 」、5曲目の「 Harold Land」が特に秀逸。

ローズのおしゃれで軽快なサウンドで、お楽しみください。

 

Benny Green (electric piano,1-11, piano, 2, 5),
David Wong (bass, 2, 3, 5, 7, 9 & 11),
Aaron Kimmel (drums, 2, 5, 7, 9, 11),
Anne Drummond (flute, alto flute, bass flute, 3, 5),
Veronica Swift (vocals, 11),
Josh Jones (congas, 3)

 

1. Tivoli
2. Central Park South
3. Coral Keys
4. My Girl Bill
5. Harold Land
6. Did We Try?
7. Seascape
8. My One And Only Love
9. Something In Common
10. For Tomorrow
11. Benny’S Crib

 

 

CHICK COREA チック・コリア Friends

チックのどうしても外せない一枚!

f:id:zawinul:20200702221553j:plain

数多あるチックの名品の中でも、

このアルバムだけは、何故か手に取ってしまう回数が多く、

いつ聴いても、楽しく、心地よく、リラックスできてしまう、

私にとって、とても大切な作品である。

 

確か、スイングジャーナル富樫雅彦への自宅でのインタビューで、

富樫が、このアルバムを自宅でよく聴いていると言うことで、

アルバムジャケットと一緒に写っている富樫の自宅の様子が、

とても印象的だったことを覚えている。

 

何と言ってもスティーブ・ガッドの参加が肝。

全体に、非常に軽快で、柔らかでかつタイトな、なんとも言えないノリを

醸成するのに貢献している。

チックもいつもより、くつろいだ、ジャジーなソロを取っている。

あと、ジョー・ファレルのフルートやサックスも相変わらずベストマッチ。

 

チック・コリアは時に、こういった、いつものチックと少し様相の異なる、

肩の力を抜いた、軽快でユニークなアルバムを

サラッと制作してしまうところが、非常に面白い。

例えば、「タップステッブ」というアルバムなどもそういう感じがする。

 

悪戯っぽい顔で、メンバーを挑発しながら、

フェンダーローズを軽々と弾きこなすチックは、

当たり前だけど、いつものチックと変わりはないのだが、

とにかく、このアルバムは、楽しそうなのである。

演っている本人やメンバー自身が楽しくて、楽しくてしょうがないという感じが

ビンビン伝わってきて、こっちまで嬉しくなってしまうような音楽!

 

まずは、冒頭のなんとも軽妙洒脱な演奏「The One Step 」を

ぜひ聴いてみてください。

 

Chick Corea(Piano)

Joe Farrell(sax, Fl)

Steve Gadd(Ds)

Eddie Gomez(Bass) 

 

1. The One Step

2. Waltse For Dave

3. Children's Song No.5

4. Samba Song

5. Friends

6. Sicily

7. Children's Song No.15

8. Cappucino

 


The one step - Chick Corea

 

 

市原ひかり SINGS & PLAYS

天性のジャズフィーリング!

f:id:zawinul:20200701214348j:plain

かねがね、市原ひかりは、ジャズフィーリングに溢れた人だなぁと、

いつも注目している日本が誇る若手アーティストの一人である。

サックスの中島朱葉の演奏を聴く時も同じように感じるのだが、

演奏が始まった途端、いつも上手いなぁ、楽しいなぁ、嬉しいなぁと、

思わず、顔がほころんで、笑みがもれてくるのである。

 

そして、今回のアルバムを聴いて、驚いた。

市原ひかりが歌っている!

知らなかったこんなに歌が上手いなんて。

それも、半端なく上手い!

発音も素晴らしく、ネイティブのボーカリストが歌っているよう。

そして、チェット・ベイカー同様、ペットもしっかり聴かせてくれる展開は、

一粒で、二度楽しい。

 

更に、更にピアノがジョシュ・ネルソン! なんと豪華!

なんて素晴らしい歌伴とピアノソロ! 上手いなぁ!

一粒で三度美味しい。

 

感嘆符ばかりのコメントになってしまったが、

これほど素晴らしいボーカルアルバムが、さらっと出てしまう、

日本のジャズ界も、捨てたもんじゃない。

 

繰り返して言う。

ハイブリッドで、楽しくて、粋で、自由で、素晴らしいアルバム!

ぜひ、多くの人に聴いていただきたい。

 

 

市原ひかり(vocal, trumpet, flugelhorn)

ジョシュ・ネルソン(piano)

ロブ・ソーセン(bass)

 

01 マイ・ファニー・ヴァレンタイン

02 マイ・シャイニング・アワー

03 ハウ・マイ・ハート・シングス

04 ビバップ・リヴズ

05 ビーイン・グリーン

06 嘘は罪

07 バット・ビューティフル

08 アイム・オールド・ファッションド

09 ライク・サムワン・イン・ラヴ

10 ウィル・ビー・トゥゲザー・アゲイン

 


市原ひかり「シングス&プレイズ 」- MV

 

MILES DAVIS マイルス・デービス Circle In The Round & Directions

マイルス自身お気に入りの未発表録音集で概観するマイルスの音楽の変遷

f:id:zawinul:20200630221136j:plain Circle In The Round

f:id:zawinul:20200630221249j:plain Directions

 

「サークル・イン・ザ・ラウンド」と言う、

マイルスの引退中の1979年に発表された未発表曲アルバムの中に、

「スプラッシュ」というナンバーがあるが、時たま無性に聴きたくなる。

キリマンジャロの娘」と「イン・ア・サイレントウェイ」の間に録音されたもので、

ショーター、ハンコック、トニー・ウィリアムスという旧のメンバーに、

チック・コリア、デイブ・ホランドが新たに加わっている。

何と言っても、ハンコックとコリアのジャズ・ロック的掛け合いが鬼カッコイイ!

 

マイルスの沈黙期に発売された、この2枚の未発表録音集は、

単なる寄せ集め、所詮は実験的なもので、選に漏れた演奏群なのであろうか?

私は、もっとこの二枚のアルバムの価値を積極的に捉えたい。

マイルスの音楽の変遷を概観的に理解する上で、

非常に参考になる編集作品であると。

それは、未発表になってしまったことが、信じられないくらいの

クオリティが高い曲ばかりであるという点だけではなく、

50年代から70年代にかけて、疾走してきたマイルスの

探究心溢れる革新的な軌跡を、ある意味、ストーリー性ある音楽絵巻として、

再構成、再編成し、時間的なタームの中でマイルの魅力を捉え直そうとした

試みも含めて、もっと評価されるべきだと思うからだ。

 

マイルス自身も選曲に関わり、作品の仕上がりには満足していたらしい。

マイルスの音楽に対するこだわりが反映した、編纂事業とも言えるのだ。

 

改めて、二枚のアルバムを、年代を追って順に聴いていくと、

それぞれの時代におけるエボックメイキングな成功に安住することなく、

常に、時代の雰囲気を先取りし、新たな表現のあり方を追求、挑戦していった

マイルスの功績の素晴らしさを、思い知ることになる。

 

Circle In The Round

[Disc 1]

01TWO BASS HIT

02LOVE FOR SALE

03BLUES NO.2
04CIRCLE IN THE ROUND
 
[Disc 2]
1 TEO'S BAG
2 SIDE CAR 1
3 SIDE CAR 2
4 SPLASH
05SANCTUARY
06GUINNEVERE
 
 
Directions
Disc 1

1. Song Of Our Country
2. 'Round Midnight
3. So Near, So Far
4. Limbo
5. Water On The Pond
6. Fun
7. Directions, No.1
8. Directions, No.2

Disc 2
1. Ascent
2. Duran
3. Konda
4. Willie Nelson

 


Miles Davis: Splash (Circle In The Round 1979)