JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

JEFF PARKER ジェフ・パーカー Suite for Max Brown

ジェフ・パーカーというコラージュの美

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ああ、この気持ちのいい、既視感のある感じは何と表現したら良いのか。

 

この、子供の頃から大切なものをしまっている宝箱をひっくり返して、

一つ一つ手に取りながら、あれやこれやとノスタルジーに浸ったり、

ふと浮かぶアイデアや思いつきに、時の経つのを忘れたり、

自由で、断片的、そしてとても素直な気持ちにさせてくれる音楽は何なんだろう。

 

ポストロックを代表するグループ、トータスのギタリストとして有名な

ジェフ・パーカーの、母親であるマキシン・ブラウンに捧げたソロ・アルバム。

 

アナログ感の強い執拗なシーケンス、色褪せたサンプリング、

伝統的なブラスサウンド、ルーズなリズム、乾いた感じのギターリフ、

様々な音やリズムのコラージュが限りなく美しい。

ジョー・ ヘンダーソンの名作「Black Narcissus」のカヴァー曲「Gnarciss」や

コルトレーンAfter The Rain」の解釈も面白い。

 

今や、アメリカで最も期待されている時の人であるジェフ・パーカーは、

音楽のジャンルの垣根を超えた、自由で挑戦的な側面と、

逆に、ジャンル固有の伝統の素晴らしさへのリスペクトといった側面の

両方を、見事なバランスで融合せしめ、様々なジャンルのポテンシャルを

大きく広げることのできる稀有な才能とセンスを持ったアーティストである。

 

今後、ますます注目していきたいアーティストである。

 

Jeff Parker - guitar, Korg MS20, JP-08

Paul Bryan - bass guitar

Josh Johnson - alto saxophone

Nate Walcott - trumpet

Jamire Williams - drums 

ほか

 

1. Build a Nest (feat. Ruby Parker)

2. C'mon Now

3. Fusion Swirl

4. After the Rain

5. Metamorphoses

6. Gnarciss

7. Lydian Etc

8. Del Rio

9. 3 for L

10. Go Away

11. Max Brown

12. Blackman

 


After the Rain

Wayne Shorter ウェイン・ショーター Speak No Evil

「悪を言わざる」・・・ウェインのオカルト性

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このジャケットといい、タイトルといい、曲名といい、

何ともミステリアスなアルバムが、ウェインらしくて、個人的には一番好きだ。

 

ジャケットの右半分にボッーと浮かぶ亡霊写真のような女性は、

当時のショーターの妻であるアイリーンであることを、最近知った。

離婚する直前なのか、後なのかはよく知らないが、何故こんな使い方をするのか?

 

ショーターの音楽を形容する際によく使われる、

神秘性とか呪術性であるとか、黒魔術的だとかいう言葉通り、

人格的にも、かなりの奇矯性を備えた、いわゆる「変わり者」であることは、

信ぴょう性の高い、ウェインの半生を描いた書籍「フットプリンツ」に詳しい。

 

チックコリアが、ウェインを評して

「既存の枠組みにとらわれない考え方っていうのはウェインが発明したものだね。

そもそも”既存の枠組み”なんて、彼は見たこともないんじゃないかな」と、

コメントしている通り、

ウェインには、我々の普通の感覚とは異なる地平、視点から世界を捉える、

彼にしか見えない、彼にしか備わっていない特異なものの見方があるのだろう。

だからこそ、彼の奏でる音楽は、我々にとって常に新鮮で、魅惑的であり、

時に、我々を異次元に浮遊させてくれる麻薬のような中毒性を備えている。

 

このアルバムの素晴らしさは、一聴してもらえば、説明不要だと思うが、

例えば、ドラムがトニーでなくエルビン、ピアノがマッコイでなく、ハービーという、

マイルスとコルトレーンのバンドメンバーが、入れ子状態で起用されているところが、

非常に泥臭くねちっこい面もありながら、モーダルでサラッとした面もあるといった

両面性を備えているといった魅力を生んでいる。

 

そして、何よりウェインのソロの鬼カッコイイことと言ったら!

まずは、2曲目の「Fee-Fi-Fo-Fum」のウェインのソロを聴いてくだされ。

「ホゲッ ホゲッ ボッ ボッー ピリャー ホエホエボー・・・・」

たまりません。

 

Wayne Shorter (ts)
Freddie Hubbard (tp)
Herbie Hancock (pf)
Ron Carter (ba)
Elvin Jones (ds)

 

1.Witch Hunt
2.Fee-Fi-Fo-Fum
3.Dance Cadaverous
4.Speak No Evil
5.Infant Eyes
6.Wild Flower

1964,12,24 (Blue Note)

 


Wayne Shorter - Fee-Fi-Fo-Fum

Joshua Redman ジョシュア・レッドマン Roundagain

神々の戯れ

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個人的な趣味の話で、恐縮ですが、

基本、ジョシュア・レッドマンのテナーだけはあまり好きになれない。

まず、音色。

そして、鼻につく高音での装飾的なフレーズ。

そりゃ上手いのでしょうけど、全体的に、平板で、心に届かない、

そんな印象が変わらない。

 

しかし、以前、とても尊敬しているサックスプレーヤーが、

「ジョシュアの音楽は最高に素晴らしい。コピーするとよく分かる」と教えてくれた。

 

私にとって、聴かず嫌いの代表的プレイヤーであるジョシュア・レッドマンは、

依然として、苦手なタイプのミュージシャンであることに変わらないが、

「James Farm」のユニットが世に出た際には、

グループエキスプレッションとしての完成度の高さに、とても興奮した記憶がある。

時として、こういうエポックメイキングな作品をサラリと世に残していく

ジョシュアは、やはり、只者ではないイノベーターなのであろう。

 

この、アルバムは、まだ発売前で、Itunesで2曲だけしか聴けないが、

「Moodswing」以来、26年ぶりの同じメンバーによる邂逅の作品となっている。

恐る恐る、聴いてみたら、

さすがに、世界最高峰の超ヘビー級メンバーによる神々の戯れ!

時を経て熟成している!

何が凄いのかまだよく説明できないが、

「Father」と言う曲、やはり、なんともカッコいいのである。

早く全曲を聴いてみたいものだ。

 

Joshua Redman(sax)

Brad Mehldau(p)

Christian McBride(b)

Brian Blade(ds)

 

1. Undertow
2. Moe Honk
3. Silly Little Love Song
4. Right Back Round Again
5. Floppy Diss
6. Father
7. Your Part To Play

 


Redman Mehldau McBride Blade - "Father"

 

 

 

 

 

 

 

CHIARA CIVELLO キアラ・シヴェロ Last Quarter Moon

この人の声には・・・・・

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この人の声には、いつもやられてしまう。

もっともっと多くの人に聴いてもらいたいアーティスト、

イタリア生まれのシンガーソングライター、キアラ・シベロ。

 

トニー・ベネットが評価するだけのことはある。

少し疲れた、翳りのあるテイストを感じるハスキーボイスには、

独特の「色気」と「のびやかな粘り」がある。

この声質の魅力を、言葉で表現することは難しいが、

聴くたびに、私の心に浸透したり、撹乱したりと、絡んでくる。

 

私なりに、キアラ・シベロの魅力を分析して見ると、

・愁いを湛えた深みのある声質(こればかりはイアホンで実際に効いてほしい)

・作曲・アレンジにおけるRepetition(反復・繰返し)の美学

・イタリアの血、ブラジル音楽、ジャズの洗練された素養のマッチング

 

この作品は、彼女のデビューアルバムになるのだが、

サイド面も豪華でかなり気合が入っている。デビュー作にして最高傑作。

次作の「The Space Between」も素晴らしいが、

以降、アルバム作りよりも、どちらかというと、

ステファノ・ポラーニやアナ・カロリーナ、イヴァン・リンス等との共演など、

活動の場を広げ、様々な巨匠との共演に面白い軌跡を残している。

 

繰り返しになるが、もっともっと注目されてほしいアーティストである。

再来日も、ぜひ期待したい。

 

Chiara Civello (vocals, shaker, percussion);
Adam Rogers (guitar);
Mark Stewart (cello);
Alain Mallet (melodica, piano, Fender Rhodes piano);
Miguel Zenón (alto saxophone);
Larry Goldings (Hammond b-3 organ);
Rob Mounsey (keyboards);
Mike Mainieri (vibraphone);
James Genus, Ben Street (bass instrument);
Clarence Penn, Steve Gadd , Dan Rieser (drums);
Jamey Haddad (percussion, bells);
Alex Alvear (background vocals).

 

1, Here Is Everything.

2, The Wrong Goodbye.

3, Ora.

4, Caramel.

5, Parole Incerte.

6, Last Quarter Moon.

7, Nature Song.

8, In Questi Giorni.

9, Sambaroma.

10, Trouble.

11, Outono.

12, I Won't Run Away

 

YOU TUBEの動画では、このアルバムの曲ではないですが、

あのブラジルが誇るシコ・ブアルキとのデュオ動画を紹介します。


Chiara Civello - Io che amo solo te (Videoclip) ft. Chico Buarque

 

このアルバムからは、なんとも胸に迫る一曲を


Nature Song

 

 

 

PAUL BLEY ポール・ブレイ BALLADS

ポール・ブレイの名前を聞くだけで

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若い頃、ポール・ブレイの名前を聞くだけで、悶えていた。

名前も、イケメンの風貌も、くゆらすパイプも、アルバムジャケットの気持ち悪さも、

そして、極めてナルシスティックな演奏も、

すべてが、ポール・ブレイというファッション、モードになっていて、

もう、チョー格好良かった。ゾッコンであった。

 

好きなアルバムは、沢山あるのだが、

やはり一番好きなのは、1960年代後半のトリオ作品群。

何か、非常に冷めた、突き放したような、枯れた感じのサウンドが堪らない。

時代の前衛的な雰囲気を纏った、

クローサー」、「ランブリン」、「タッチング」、「イン・ハーレム」、

「ミスタージョイ」、「ブラッド」、「ヴチューオージ」といった作品群は、

アノトリオというフォーマットの地平を大きく切り拓いた。

当時のマイルス・デービスクインテットトニー・ウィリアムスやハンコックは

かなりブレイの音楽を研究したと言われている。

 

このアルバムの17分にも及ぶ、冒頭曲の「エンディング」は、特に素晴らしい。

三者がお互い、呼応しているようで、呼応してない感じの距離感。

うーんなんて説明したら良いのだろうか。

バリー・アルトシュルの切り裂くようなシンバルワーク、

ゲーリー・ピーコックの恐ろしくストイックで無骨なベースワーク、

それぞれが奏でる音が、それぞれ粒たち立って存在感があるのに、

決して混濁して騒々しくならず、絶妙なバランスでゴールに向かって疾走する

といった感覚。ブレイのトリオの中でも、珠玉の出来であると思う。

 

亡くなる何年か前に、松本市文化ホールで開かれたブレイのソロコンサートの終演後、

握手とサインに応じてくれたブレイは、絶えず笑みを浮かべていらしたが、

寡黙で、少し元気がなかった。

サインをもらうために渡した大好きなLP「ミスター・ジョイ」を見ると、

嬉しそうにウンウンと頷いていたブレイの表情が忘れられない。

 

Paul Bley(p)

Gary Peacock(B)  (1)

Mark Levinson(B) (2)(3)

Barry Altschul(Ds)

 

1. Ending

2. Circles

3. So Hard It Hurts

録音年:1966年7月、1967年3月31日/収録場所:ニューヨーク

 

Youtubeに「BALLADS」の曲がアップされていなかったため、

1967年7月28日に同じメンバーでニューヨークで録音された「Virtuosi」を紹介します。


Barry Altschul, Paul Bley, Gary Peacock – Virtuosi

 

 

 

Brad Mehldau ブラッド・メルドー Suite:April 2020

With コロナ ブラッド・メルドー 日常からの自省

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デジタル/ストリーミングでリリースされた、

ブラッド・メルドーのソロピアノ作品。

Youtubeでも全曲聴ける。

 

1分から3分の短い小品が15曲。

メルドーの日常における断片を切り取って、自身の心象をそのまま

綴ったような作品群である。

あるサイトによると、

新型コロナウイルスパンデミック下、オランダで家族とともに自粛生活を送ってい

た彼が、自分が今体験していることをもとに12の楽曲(Suite)を作りあげた」

とある。

そう言う意味で、少し難解かつ主張性の強い音楽かなぁと想像したが、

如何せん、一通り聴いて、最近のメルドーの作品の中では、とても素直で、

むしろ諦観の境地というか、非常に淡々としていて、心地よい時間の流れを感じる。

中には、何か不安や痛みといった感情を垣間見せるような、曲もあるが、

STAY HOMEだからこそ、経験できた、家族との日常の生活の大切さ、

心地よさが底流としてあるような気がして、マインドフルネスではないが、

非常に静かな自省により、ある意味リセットされたメルドーの本質が、

表現された素敵なアルバムに仕上がっている気がする。

 

12曲の自省の後は、

ニール・ヤングの”Don’t Let It Bring You Down”、

ビリー・ジョエルの”New York State Of Mind”、

ジェローム・カーンの"Look for the Silver Lining"

と、これからのwithコロナ社会における、彼なりの前向きな

メッセージが送られているような気がする。

 

癒されたひと時であった。

 

Suite:April 2020

1. I. waking up
2. II. stepping outside
3. III. keeping distance
4. IV. stopping, listening: hearing
5. V. remembering before all this
6. VI. uncertainty
7. VII. - the day moves by -
8. VIII. yearning
9. IX. waiting
10. X. in the kitchen
11. XI. family harmony
12. XII. lullaby
13. Don't Let It Bring You Down
14. New York State of Mind
15. Look for the Silver Lining

 


VIII. yearning

BILL EVANS ビル・エバンス Explorations

アノトリオの世界を堪能させてくれる一枚です。

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私の最初に買ったジャズのレコードが、下の写真のビル・エバンスのトリオ。

1969年にイタリアで録音されたライブアルバムで、

ベースはエディ・ゴメス、ドラムはマーティ・モレル。

当時、全く予備知識もなく、レコードショップに並ぶ数多のディスクの中から、

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「枯葉」と題されたアルバムジャケットが印象的で、選んだ一枚である。

何度も何度も繰り返し聴いて、飽きることがなかった。むしろ聴くたびに、

自分の意識が覚醒し、感性が豊かになっていくような喜びを感じた。

今だに、最もよく聴くアルバムの一つである。

 

エバンスとの出会いは、その後、当然、スコット・ラファロを擁した、

あの名高き、4部作へ行き着く。

まず、「ワルツ・フォー・デビー」のジャケットの魅力に所有欲が高まり、

そのライブ録音のリアル感に興奮した後、

次は、スタジオ録音の「ポートレート・イン・ジャズ」。

冒頭の「降っても晴れても」から始まる端正なインタープレイの連続に圧倒され、

その次に、購入したのが、この「エクスプロレーションズ」である。

そして、エバンスの美学を習得した私は、

「サンディ・アット・ザ・ビレッシバンガード」で、

このトリオの深淵さ、普遍性を確信するのである。

4部作を聞き通してみると、アルバムごとの性格やムードが異なり、

甲乙つけがたく、いずれも恐ろしく完成度が高い。聴く度に得るものがある。

この4部作については、もう既に言い尽くされているかもしれないが、

やはりこの作品群は、エバンス生涯を通じての快演であり、歴史的遺産であると思う。

 

その中からあえて、「エクスプロレーションズ」を選んだのは、

ひとえに、「ナーディス」という曲の演奏のためである。

この演奏の魅力をなかなか言葉に表現してうまくお伝えすることができないが、

エバンスは本当はタッチの強いピアニストで、

後期のエバンスを聴くとよく分かるのだが、音を敷き詰める感じのアプローチである。

でも、この頃のエバンスは、自分のピアノのダイナミズムという点より、

トリオフォーマットとしての全体の音楽性のあり方に重点を置き、意識を集中させ、

夢中になって、試行錯誤を繰り返していたと思う。

その成果が最も美しく昇華した象徴的な演奏が、この曲であると言いたい。

この曲は、特に最小限の音の選び・タッチなど、意図的に抑制的であるほか、

バッキング、間の空け方、三者のバランス、構成・展開の巧みさ、

その全てが非常に緻密に計算されている。

この硬質で、静かな語り口は、ダビンチが描いたモナリザのように、

いつまで永遠に端整で美しい。

 

Bill Evans (p)
Scott LaFaro (b)
Paul Motian (d)

1961年2月2日録音

 
1. Israel
2. Haunted Heart
3. Beautiful Love
4. Elsa
5. Nardis
6. How Deep Is the Ocean?
7. I Wish I Knew
8. Sweet and Lovely