空中から音を取り出す
NEA Jazz Masters Awards 2014 での受賞式のスピーチの中で、
「世界は今、退屈なものになりつつある。スクリーン上の二次元な世界であり、
この非現実に、人々は完全に慣れ親しんでしまっている。音楽に対して、
自分の考えを持っていない」
「(私たち※は)空中に浮遊している、その音楽を取り出し、いつでも演奏できる、
それがコンサートを開く目的だ」
と語っている。
※=スタンダーズトリオのメンバーのこと
確かに、そんな気もする。
我々は、与えられた二次元的な安楽な世界にどっぷり浸かって、慣らされ、
身体的に世界に向き合い、あるいは立ち向かう気力を削がれ、
極めて唯脳的で、受身で、孤独で、閉じた方向へのスパイラルが、
加速してきている気がする。
このヤコブ・ブロのニューメンバーによるトリオの演奏を聴いて、
まさに、「空中に浮遊している、音楽を取り出す」というキースの言葉を思い出した。
演者の剥き出しの生身が「世界」=「空中」と対峙し、交歓する中で、
新たに変化した自分=音楽を取り出しているという実感に溢れている。
そんな、本来、音楽の持つ力でもある、非常にエロティックな世界との関わり方を、
教えてくれているように思った。
ヤコブ・ブロの、ランドスケープになっているエレクトリックなギターの使い方、
アルヴェ・ヘンリクセンの、トランペットとは思えない多層な表情を持つ音色、
ホセ・ロッシの、控えめでありながら端正な、空間の切り取り方、
などなど、まだよく聴き込んではいないが、
ヤコブ・ブロの新生トリオは、また新たな語り口を見つけたようだ。
素晴らしいの一言に尽きる。
Jakob Bro(guitar)
Arve Henriksen(trumpet,piccolo trumpet)
Jorge Rossy(drums)
Recorded August / September 2020
1. RECONSTRUCTING A DREAM
2. TO STANKO
3. BEAUTIFUL DAY
4. MORNING SONG
5. HOUSEWORK
6. MUSIC FOR BLACK PIGEONS
7. SOUND FLOWER
8. SLARAFFENLAND
9. MORNING SONG (VAR.)