JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

CHET BAKER チェット・ベイカー The Touch Of Your Lips

うたごころ

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最近、演奏するに当たって、心掛けていることがある。

ジャズの場合、おおよそ、イントロ〜テーマ〜ソロ〜テーマ〜エンディング

という構成、流れの中で、一つの曲を仕上げる訳だが、

 

1 テーマは、しっかり原曲の魅力を引き出して丹念に歌い上げること

   →勝手にディフォルメしたり、できるだけ過多な修飾はしない

2 ソロは、原曲のメロディを意識して、口ずさむように奏でること

   →手癖に任せていないか、ちゃんと歌い上げているか

 

この二つを、できるだけ念頭において、演奏に臨むようにしている。

そうすると、不思議に、インプロビゼーションの格調が高まる。

スタンダードは普通、コード進行に沿って演奏する訳だが、

これまで、即興のためのコード進行という程度の意識しかなかったものが、

上の2点を意識するようになってから、

あくまで、原曲の「うた」を歌い上げるためのコード進行という捉え方が、

できるようになった気がする。

 

そういう意味で、

チェット・ベイカーという人は、まさに「うた」心満載の、

非常に素晴らしい語り手である。

原曲に対するリスペクトと分析の確かさにより、

アドリブで、原曲の持つ魅力をサラリと敷衍していくさまは、

あまりに素晴らしいと言わざるを得ない。

その確かな技術を、このアルバムの中の一曲、

「バット・ノット・フォー・ミー」で検証してみよう。

 

まず、軽快なテンポに乗って、テーマをサラリと歌い上げ、

スキャットによるアドリブに入る。

このスキャットが、本当に凄い。まさに楽器の演奏を肉声化したものであり、

そのセンスとスイング感、溢れ出る機知に富んだフレーズに圧倒される。

このスキャットを完コピして自分でも口ずさめるようなるまで、

聴き込むとずいぶん、勉強になる気がする。

そしてだ、

ギターソロの後に再び、トランペットによるチェットのソロがあるが、

驚くことに、スキャットのアドリブとは全然異なるアプローチの歌い上げで、

非常に間を生かしたフレージングや

トランペットの柔らかい音色を上手く使った、極めてナチュラルな即興により、

「バット・ノット・フォー・ミー」が持つ原曲の魅力をさらに広げている。

 

チェット・ベイカーは、やはり、別格のミュージシャンだと思う。

単にヴォーカルも、歌える、上手いということではなく、

並みの解釈力ではない、音楽に対する深い理解と

天賦の感受性を備えた、稀有なミュージシャンの一人である。

 

このメンバーによるトリオはスティープル・チェイスに数枚残されているが、

ピアノ、ドラムが入らない分、一層、チェットの音楽の緻密さを直に、

感じることができる。

ダーク・レイニーやペテルセンも素晴らしい。そして渋い。

大好きなアルバムである。

 

CHET BAKER(tp/vo)

DOUG RANEY(g)

NIELS-HENNING ORSTED PEDERSEN(b)

 

1 I Waited For You
2 But Not For Me
3 Autumn In New York
4 Blue Room
5 The Touch Of Your Lips
6 Star Eyes

 


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