JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Brad Mehldau  ブラッド・メルドー The Art Of The Trio Vol.1

ただ事でないピアノ

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このThe Art Of The TrioシリーズはVol.1〜5の5部作になっているが、

エバンスのリバーサイド4部作のように、

メルドーを語る上で外せない初期メルドーの傑作アルバム群である。

発売当時、度肝を抜かれたものである。

 

今更ではあるが、ただ事ではないピアノなのである。

ピアノという楽器のダイナミクスとジャズイディオムの伝統を知り尽くし、

クラシカルな技法も消化して、ジャズピアノの新たな地平を

果敢に切り開いていくような斬新さに溢れている。

テーマの取り方や物語性、正確無比なフィンガリングとリズム、左手の多用、

反復性の魅力など、どれもこれまでに聴いたことのないアプローチで、

選曲のセンスも素晴らしい。

 

ハンコック、コリア、ジャレットのジャズピアノ三巨匠が長らく君臨するジャズ界に、

新たな息吹をもたらす、新鋭アーテイストがやっと誕生したという感動があった。

もうあれから20年以上も経ったのだなあ、と感慨深くなるとともに、

今聴いても、やはり気持ちが昂る。

 

端的にいうと、圧倒的な「説得力」なのかも知れない。

語法、語彙が半端ないレベルで、

有無を言わせず聴かせてしまう力を持つ、稀有なアーティストの一人である。

 

個人的には、ライブ盤のVol.2が一番興奮する。

 

Brad Mehldau (p)
Larry Grenadier (b)
Jorge Rossy (ds) 

 

[1] Blame It On Youth
[2] I Didn't Know What Time It Was
[3] Ron's Place
[4] Blackbird
[5] Lament For Linus
[6] Mignon's Song
[7] I Fall In Love Too Easily
[8] Lucid
[9] Nobody Else But Me

 


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Scott Kinsey and Mer Sal スコット・キンゼイ&メル・サル Adjustments  

ザビヌル遺伝子

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2022年の最初に紹介するのは、

スコット・キンゼイの新作。

それもシンガーソング・ライターのメル・サルとの共演作ということで、

果たして、どんなテイストのザビヌルミュージックが聴けるか、

年初めからワクワクして聴いた。

 

私同様、ジョー・ザビヌルを愛してやまないというか、

フリークな人の代表格といえば、

このスコット・キンゼイ。

日本では、東京ザビヌルバッハの坪口昌恭

スコット・キンゼイらしからぬ、歌物のアルバムなど予想していなかったが、

比較的、食し易く軽い感じのザビヌルテイストを上手く盛り込みながら、

メル・サルの気を衒わないストレートなボーカルが小気味良い。

冒頭の曲で、大好きなスコット・ヘンダーソンのギターにも思わずニンマリ。

 

スティーリー・ダンの「Time Out of Mind」や

ビーチ・ボーイズの「Feel Flows」なども取り上げているところも懐が深い。

こういうポビュラリティの獲得こそ、

実はザビヌルが追求したものではとも思う。

 

ザビヌルはジャズというフレームを大切にしながらも、

その枠を拡大、超えていくための様々アイデアを持ち、果敢に挑戦し続けた

稀有なミュージシャンである。

その精神を受け継いだ、愛弟子のスコット・キンゼイの冒険心と誠実さには、

改めて敬意を表したい。

 

Scott Kinsey – keyboards, Trilian bass (7,10), background vocals (10), vocals (11)
Mer Sal – vocals, electric bass (1,3), synth pedal bass (9)

Scott Henderson – guitar (1)
Pedro Martins – guitar (2)
Oz Noy – guitar (5)
Josh Smith – guitar (6)
Nir Felder – guitar (8)
Alex Machacek – guitar (12)
Tim Lefebvre – bass (2,4,9)
Hadrien Feraud – bass (5,12)
Jimmy Haslip – bass (6), background vocals (10)
Junior Braguinha – bass (8)
Michael Janisch – bass (11)
Gergo Borlai – drums (1,5,9)
Danny Carey – drums (2), tabla (10), background vocals (10)
Gary Novak – drums (3,4,6,7,8,10,11,12), background vocals (10)
Brad Dutz – percussion (4,6,7,8)
Steve Tavaglione – saxophone (6), EWI (7)
Walt Fowler – trumpet (6)
Sharanam Anandama – dulcimer, vocals (10)
Julio Salimbeni – background vocals (10)
Liza Salimbeni – background vocals (10)
Vivian Chen – background vocals (10)
Tim Dawson – background vocals (10)
Sumitra Nanjundan – background vocals (12)

 

  1. Tiny Circles
  2. Seroquel
  3. Bleeding Tears
  4. Innocent Victim
  5. This Shell
  6. Time Out of Mind
  7. Crying Smile
  8. Feel Flows
  9. Heart of Glass
  10. Fifty Circles Around the Sun
  11. Down to You/Jungle Book
  12. Don’t Let Go


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2021のBEST3

今年のベストは、ルバルカバ、ロイド、ロバーノ

 

 

Jon Secada & Gonzalo Rubalcaba ジョン・セダカ&ゴンサロ・ルバルカバ Solos

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Charles Lloyd & the Marvels チャールス・ロイド&ザ・マーヴェルス Tone Poem

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順位付けはしない。

今年は、あまり新譜を積極的に聴かなかったせいで、

サイトへの取上げ枚数も少ない中で、

衝撃感もあり、心から心酔できるものを厳選した。

 

まず、ジョン・セダカとゴンサロ・ルバルカバのデュオ作品。

一番衝撃を受けたアルバムとして、

また、ルバルカバの力量を再認識した一枚として、選んだ。

この二人のライブ映像があるのだが、

譜面もなしに、このクオリティ。

この音楽を仕上げるのにどのくらいの時間をかけたのであろうか。

これが、基本、即興だとしたら、両者とも恐るべき才能である。

 

次に、チャールス・ロイド。

久々に、愉快な気持ちで、音楽を楽しむ素晴らしさに浸れた一枚。

ロイドって、こういうメンフィス系の音楽風土や、

オーネット・コールマンの自由さを、根底に持っているように思うのである。

こんなに楽しげなロイドは他にないかも知れない。

恐るべし83歳の仙人!

 

最後に、ジョー・ロバーノ。

ロバーノとECMは相性がいいのか悪いのかは、

よくわからないが、

このマリリン・クリスペルのトリオとの相性は、素晴らしい。

ロバーノのテナーの深淵さを十二分に引き出すことに成功していると思うのである。

 

動画は、

冒頭のジョン・セダカとゴンサロ・ルバルカバのライブ映像。

ライブで、このクオリティ。背筋が凍る。

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Gerald Clayton ジェラルド・クレイトン Bond: The Paris Sessions

完備。ピアニストの最高峰

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2011年のジェラルド・クレイトン2作目のリーダーアルバム。

私は、このアルバムが大好きで、本当によく聴く。

 

ジェラルド・クレイトンは、

テクニック、リズム、音づかい、ダイナミクス、歌ごころ、ハーモニー、構成力、

どれをとっても非の打ちどころがなく、バランス感覚の優れた、

現代最高峰のピアニストであると思う。

 

デビューアルバムの「two-shade」は、

いささか、鼻持ちならない、これみよがしの感はあったものの、

このアルバムは、全編を通じて、比較的落ち着いた語り口でありながら、

内なるパッションがそこ彼処に見え隠れして、味わい深い。

そして、ピアノ トリオというフォーマットの魅力を最大限に引き出している。

 

オリジナル曲も創意溢れていて素晴らしいが、ソロで奏でられる、

スタンダードの「Nobody Else But Me 」を是非、聴いて欲しい。

彼がいかに、伝統を勉強し、吸収し尽くしているかが、よくわかる演奏である。

ロピアノをここまで、コンセプチュアルにちゃんと弾ける人というのは、

そんなにいない。

特に左手の使い方が素晴らしく、対位法的なメソッドを導入しながら、

ロディアスに奏でる様は、まず真似できない。

こんなに美しい「Nobody Else But Me 」を聴いたことがない。

曲の途中で微かに聴こえる、彼のハミングさえ、嬉しくなってくる。

 

繰り返し言うが、非の打ちどころがないピアニストである。

若手の中では、アーロン・バークス、グレン・ザレスキーと並んで、

ご贔屓のピアニストです。

 

Gerald Clayton: piano
Joe Sanders: bass
Justin Brown: drums 

 

1 If I Were A Bell 7:48
2 Bond: The Cast 3:45
3 Bootleg Bruise 5:07
4 Major Hope 6:14
5 Bond: Fress Squeeze 4:02
6 Snake Bite 3:51
7 Sun Glimpse 6:34
8 Which Persons? 1:21
9 3D 6:39
10 Nobody Else But Me 4:37
11 All The Things You Are 3:43
12 Bond: The Release 3:45
13 Shout And Cry 3:30
14 Round Come Round 4:51
15 Hank 4:50 

 

スタンダード曲「Nobody Else But Me」の解釈が途轍もなく渋い。


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Chaca Khan チャカ・カーン/Like A Sugar       Khruangbin クルアンビン /NPR Music Tiny Desk Concert Moonchild ムーン・チャイルド/NPR Music Tiny Desk Concert

番外編 思わず聴き惚れた音楽選

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しあわせなことに、現在の私たちは、

気軽に、簡単に、様々な音楽に触れる環境の中にある。

そのことが、却って不幸だと、昔を懐かしむ方もいるが、

溢れる数多の音楽の中から、自分の直感と好奇心を持って、

これぞという音楽に出会えた時の喜びは、変わらず大きい。

今回は、ジャズとは少し離れるかも知れないが、

また、制作年が古いものもあるが、

今年、思わず聴き惚れた音楽を、3つ紹介したいと思う。

 

Chaca Khan チャカ・カーン/Like A Sugar

もう、体を揺するしかない。

チャカ・カーンという稀有な素材を、恐ろしく上手く活用した成功例。

ダンスとのコラポによる単純なPVかも知れないが、あまりにも秀逸。

もう、カッコ良すぎて、ひっくり返ってしまった。


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Khruangbin  クルアンビン /NPR Music Tiny Desk Concert 

大好きな、NPR Music Tiny Desk Concertの映像から2本を紹介する。

まず最初は、クルアンビン。

リズム、ギターサウンド、シンプルなユニット構成、

どれをとっても、非常にこだわり感の強い、クセのある音楽だが、

聴くたびに、この世界に、ハマっていってしまう。


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Moonchild  ムーン・チャイルド/NPR Music Tiny Desk Concert

NPR Music Tiny Desk Concertの映像の2本目、ムーンチャイルド。

なんて、お洒落な音楽。

身も心も溶けてしまいそうな浮遊感と心地良さ。

天上の音楽!


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Ibrahim Maalouf イブラヒム・マーロフ First Noel & Andrea Motis アンドレア・モティス Colors & Shadows 

素敵なクリスマスに!

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あなたのクリスマスを彩るであろう、

素敵なアルバムを、2枚、同時にご紹介します。

 

一枚目は、まさにクリスマスソングを扱った、

イブラヒム・マーロフのニュー・アルバム、「ファースト・ノエル」。

マーロフにとって縁の深い教会で、聖歌隊と共に録音されたこの作品は、

まるで、祈りを捧げるように、丹念に、厳かに、奏でられる

マーロフの柔らかな音色が、聖歌隊のスペイシーな歌声とともに、

昇華していくような、優しさに満ちている。

 

今まで、あったようでなかった、トランペットと聖歌隊とのコラボという

アプローチが新鮮であり、それを華美にすることなく、

淡々と控えめに綴っているところが、なんとも好ましい。

クリスマスの日のBGMとして最適な一枚であると思います。

 

そして、二枚目は、

お酒も入って、いよいよご機嫌になってきたら、流して欲しい一枚、

アンドレア・モティスのニュー・アルバム「カラーズ&シャドウズ」。

こちらは、私の大好きなWDRビックバンドとの共演アルバム。

クリスマスとは直接、関係はないのだが、

クリスマスにこそ味わって欲しい、ゴージャスで、キュートな、蕩けてしまう

ブラジリアンサウンド

何より、アンサンブルの楽しさに溢れている。

着実に、アンドレア・モティスのボーカルが進化していることも聴きどころ。

 

この二枚と以前紹介した、

ノラ・ジョーンズの「アイ・ドリーム・オブ・クリスマス」

で、素敵なクリスマスを!

 

First Noel 

Ibrahim Maalouf – trumpet
Frank Woeste – piano
François Delporte – guitar

  1. Have Yourself a Merry Little Christmas
  2. Mon beau sapin
  3. Holly Jolly Christmas
  4. Il est ne le divin enfant
  5. O Holy Night
  6. Petit Papa Noel
  7. Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!
  8. The First Noel
  9. Ave Maria (Charles Gounod)
  10. Santa Claus Is Coming To Town
  11. Winter Wonderland
  12. Silent Night
  13. Jingle Bells
  14. It s Beginning to Look a Lot Like Christmas
  15. Hark! The Herald Angels Sing
  16. I ll Be Home for Christmas
  17. White Christmas
  18. Ave Maria (Franz Schubert)
  19. All I Want for Christmas Is You
  20. What a Wonderful World
  21. Light a Candle in the Chapel
  22. Adeste Fideles
  23. God Rest Ye Merry, Gentlemen
  24. We Wish You a Merry Christmas
  25. Shubho Lhaw Qolo
  26. Noel for Nael
  27. Christmas 2009
  28. The Last Christmas Eve

 

 

Colors & Shadows 

Andrea Motis & Wdr Big Band

 

    1. I Didn´t Tell Them Why
    2. Tabacaria
    3. Senor Blues
    4 .Brisa
    5. Sense Pressa
    6. Iracema
    7. Sombra De La
    8. Save The Orangutan
    9. If You Give hem More
   10. Motis Operandi 

 


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CHET BAKER チェット・ベイカー The Touch Of Your Lips

うたごころ

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最近、演奏するに当たって、心掛けていることがある。

ジャズの場合、おおよそ、イントロ〜テーマ〜ソロ〜テーマ〜エンディング

という構成、流れの中で、一つの曲を仕上げる訳だが、

 

1 テーマは、しっかり原曲の魅力を引き出して丹念に歌い上げること

   →勝手にディフォルメしたり、できるだけ過多な修飾はしない

2 ソロは、原曲のメロディを意識して、口ずさむように奏でること

   →手癖に任せていないか、ちゃんと歌い上げているか

 

この二つを、できるだけ念頭において、演奏に臨むようにしている。

そうすると、不思議に、インプロビゼーションの格調が高まる。

スタンダードは普通、コード進行に沿って演奏する訳だが、

これまで、即興のためのコード進行という程度の意識しかなかったものが、

上の2点を意識するようになってから、

あくまで、原曲の「うた」を歌い上げるためのコード進行という捉え方が、

できるようになった気がする。

 

そういう意味で、

チェット・ベイカーという人は、まさに「うた」心満載の、

非常に素晴らしい語り手である。

原曲に対するリスペクトと分析の確かさにより、

アドリブで、原曲の持つ魅力をサラリと敷衍していくさまは、

あまりに素晴らしいと言わざるを得ない。

その確かな技術を、このアルバムの中の一曲、

「バット・ノット・フォー・ミー」で検証してみよう。

 

まず、軽快なテンポに乗って、テーマをサラリと歌い上げ、

スキャットによるアドリブに入る。

このスキャットが、本当に凄い。まさに楽器の演奏を肉声化したものであり、

そのセンスとスイング感、溢れ出る機知に富んだフレーズに圧倒される。

このスキャットを完コピして自分でも口ずさめるようなるまで、

聴き込むとずいぶん、勉強になる気がする。

そしてだ、

ギターソロの後に再び、トランペットによるチェットのソロがあるが、

驚くことに、スキャットのアドリブとは全然異なるアプローチの歌い上げで、

非常に間を生かしたフレージングや

トランペットの柔らかい音色を上手く使った、極めてナチュラルな即興により、

「バット・ノット・フォー・ミー」が持つ原曲の魅力をさらに広げている。

 

チェット・ベイカーは、やはり、別格のミュージシャンだと思う。

単にヴォーカルも、歌える、上手いということではなく、

並みの解釈力ではない、音楽に対する深い理解と

天賦の感受性を備えた、稀有なミュージシャンの一人である。

 

このメンバーによるトリオはスティープル・チェイスに数枚残されているが、

ピアノ、ドラムが入らない分、一層、チェットの音楽の緻密さを直に、

感じることができる。

ダーク・レイニーやペテルセンも素晴らしい。そして渋い。

大好きなアルバムである。

 

CHET BAKER(tp/vo)

DOUG RANEY(g)

NIELS-HENNING ORSTED PEDERSEN(b)

 

1 I Waited For You
2 But Not For Me
3 Autumn In New York
4 Blue Room
5 The Touch Of Your Lips
6 Star Eyes

 


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