JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Antonio Sanchez アントニオ・サンチェス Three Times Three

Matt BrewerとJoe Lovanoの魅力

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このアルバムは発売当時、

メンバーの人選、構成力、選曲のセンス、

どれをとっても、聴く前から興奮していたのを、思い出す。

 

フロントの個性をいかに、引き出すかということにポイントをおいて、

聴いてみると、これまで気づかなかった、リズムサポートの妙のようなものに

改めて気づかされる面白さがあった。

 

このアルバムには、アントニオ・サンチェスの嗜好や方向性、こだわりが、

ストレートに表現されていて、その意気込みを感じるのは当たり前なのだが、

フロントのサポートとして、ベースを誰にするかという人選において、

サンチェスの慧眼に敬服するのである。

 

メルドーには、マット・ブリューワー

ジョンスコには、クリスチャン・マクブライド

ジョー・ロバーノには、ジョン・パティトゥッチ

 

合わせる前からでもなんとなく、想像できたかもしれないけれど、

実は、一緒に演ってみないことには、分からない未知の領分が、

サンチェスにとっても、ワクワクする人選であったと思う。

組み合わせの妙。一つひとつが魅力ある素材の編集工学。

 

中でも、今回聴き返してみて、新たな発見であったのは、

・マット・ブリューワーのベースの魅力

・ジョー・ロバーノとジョン・パティトゥッチとの相性の良さ

の2点である。

 

まず、マット・ブリューワー。

メルドーといえば、ラリー・グレナディアがまず思い起こされるが、

マットの何か、無骨で太く、奥まったような定位のベースが、

メルドーの茫洋で捉え所のないメロディをガチッと掴み込んでいるような感覚は、

ラリー・グレナディアの時のドライブ感とは異なるものを生み出している。

簡単にいうと、非常に「より嵌っている」という感覚、気持ちの良さである。

ぜひ、このトリオでの、作品のリリースを願うばかりである。

 

次に、ジョー・ロバーノ。

ジョン・パティトゥッチのリーダー作「Remembrance」(2009年)でも

トリオ形式での、ロバーノとの相性の良さは、経験済みであったが、

その時のドラムは、ブライアン・ブレイド

今回のこのトリオにおけるジョン・パティトゥッチは、

実にはじけていて、ドライブ感のあるベースで、ロバーノを煽っている。

相性ぴったり。素晴らしい。

「ジョー・ロヴァーノはあなたにとってどんな存在なのでしょう」

というサンチェスに対してのインタビュー記事で、

 

 「ジョーとは数回しか共演したことがなかったけど、彼の音やアプローチに心酔してきた。ずっと好きだったんだ。よりオープンで自発的な音楽をこのトリオに求めていたから…本当に素晴らしい結果だね」

と答えている。

 

うんうんとうなづきながら、至高の三者三様の饗宴に酔いしれる一夜でありました。

 

■CD1

Brad Mehldau(p), Matt Brewer(b), Antonio Sanchez(ds),
Recorded in New York on 27 October 2013

1. Nar-this (Nardis - Miles Davis)
2. Constellations (A. Sanchez)
3. Big Dream (A. Sanchez)

 

■CD 2
T-1 - 3
John Scofield(g), Christian McBride(b), Antonio Sanchez(ds)
Recorded in New York on 4 December 2013

1. Fall (Wayne Shorter)
2. Nooks And Crannies (A. Sanchez)
3. Rooney And Vinski (A. Sanchez)

 

T-4 - 6
Joe Lovano(ts), John Patitucci(b), Antonio Sanchez(ds)
Recorded in New York on 16 December 2013

4. Leviathan (A. Sanchez)
5. Firenze (A. Sanchez)
6. I Mean You (Thelonious Monk)

 

メンバーは、サンチェスとマット・ブリューワー以外は異なるが、

冒頭曲Nar-this(ナーディス)の再演。

カクンカクンとキレの良い、マットのベース!


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kenny garrett  ケニー・ギャレット sounds from the ancestors

先祖からの音群

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アルバムタイトルを直訳すると、

「先祖からの音群」になる。

アルバムジャケットを観察しても、

音楽のミューズが、ケニーに息を吹き込んだものが、

彼のサックスを通じて、溢れ出してくると言ったイメージ。

 

いよいよ、ケニー・ギャレットというアーティストは、

単なるアルトサックス奏者としての枠を超えて、

オーガナイザーとしての歩みを着実に進めている気がする。

あらゆるビート音楽に敬意を表して、

極めて多彩なサウンドをオーガナイズしようとする彼の心意気に感服。

聴き終わって、何か爽快感のようなものさえ感じる。筋が通っているというか。

真っ当で、ハッピーで、創造力に溢れた作品です。

 

また、ロイ・ハーグローブに捧げた2曲目の「Hargrove」、

さらに、アート・ブレイキとトニー・アレンに捧げた4曲目の「For Art’s Sake」は、

彼の嗜好、ルーツを知る上でも興味深い。

特に、「Hargrove」の軽快なリズムに乗って執拗に奏でられるリフレインは、

いかにロイ・ハーグローブが、同時代のミュージシャンにとって、

象徴的で、影響力のあった存在であったかを、教えてくれるような気がします。

 

特に、素晴らしいと思ったのは、「It’s Time to Come Home」。

これこそ、ケニー・ギャレットという人の奥深さを感じるテイストのサウンドを、

冒頭とエンディングに持ってきたセンスがなんとも、素晴らしい。

 

そして、タイトル曲「Sounds from the Ancestors」。

ケニー自身の気を衒わないピアノソロから始まりながら、

少し懐かしささえ感じる、アフロな豊穣の世界に聞き手を誘(いざな)い、

また、ケニーのピアノソロで幕を閉じるという、素直なケニーの世界。

 

変にいじっていない、だけど多彩で深淵といった感覚。

ケニー・ギャレットの魅力を再認識した一枚です。

 

Kenny Garrett – alto saxophone (all tracks),

                            vocals (2), electric piano (2, 3, 4, 6), piano intro/outro (7)

Vernell Brown, Jr. – piano (all tracks except 3)

Corcoran Holt – bass (all tracks)

Ronald Bruner – drums (all tracks)

Rudy Bird – percussion (all tracks), snare (6)

1. It’s Time to Come Home
2. Hargrove
3. When the Days Were Different
4. For Art’s Sake
5. What Was That?
6. Soldiers of the Fields / Soldats des Champs
7. Sounds from the Ancestors
8. It’s Time to Come Home

 

冒頭とエンディングを飾る曲「It’s Time to Come Home」


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Barry Harris  バリー・ハリス plays tadd dameron

形式美の凄み

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バリー・ハリスである。

形式美の権化のような人である。

バリー・ハリスメソッドの洗練さは、強靭で、揺るぎない。

 

「こういう風にしか弾いたらあかんのっ!」

という頑固で、厳しい、ハリスのメソッドを習得しておくことは、

新しい次代のジャズを切り拓くミュージシャンにとっても、

「スタイル」を確立することの難しさと重要さ、

そして、音楽への真摯なアプローチの仕方や方法論を学ぶ上でも、

きっと大いに勉強になると思うのである。

 

「スタイル」=形式なんてものは、どうでも良くて、

要は「ハート」、「歌心」なんだよ、という人もいるが、

どちらも大切なのである。

一定の形式を究める、「形(かた)」をひたすら洗練させていく所業は、

全ての一流の芸能の共通して辿らなければならない道なのである。

 

頑固に、徹底的に、

パウエルのバップイディオムを理論的に構築し、編纂し、教育し、

実際のプレイにおいても、体現したバリー・ハリスは、

やはりかなり、エライと思うのである。

 

この1970年代に入って、録音された、

タッド・ダメロンの名曲を歌い上げたハリスのアルバムを、

学生時代、本当に繰り返し、繰り返し、よく聴いた。

今、改めて聴いても、新鮮だし、

むしろ昔聴いた時よりも、凄みを感じる。

淡々とした演奏の中に、

ハリスの形式美に捧げた

恍惚と愉悦の心音が聞こえてくるようだ。

素晴らしい!

 

Barry Harris ( p )

Gene Taylor ( b )

Leroy Williams ( ds )

Recorded New York City, 4th June 1975

 

1. HOT HOUSE
2. SOULTRANE
3. THE CHASE
4. LADYBIRD
5. CASBAH
6. IF YOU COULD SEE ME NOW
7. THE TADD WALK
8. OUR DELIGHT

 

それにしても、タッド・ダメロンの曲の素晴らしいことよ!


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Nate Smith ネイト・スミス Kinfolk 2: See the Birds

開放される気分

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2017年にリリースされた、

「Kinfolk: Postcards From Everywhere」の続編と言うことであるが、

前作は聴いていない。

聴いていないというより、ダウンロードするのを止めたような気がする。

当時、あまりに多彩で焦点が絞れきれないと言う印象をもったからだと思う。

 

もともと、デイブ・ホランドのグループなどに参加していた時から、

存在は知ってはいたのだが、それ程、強烈なインパクトを受けた記憶もなかった。

ホランドの「Critical Mass」という渋い、大好きなアルバムや、

クリス・ポッターの傑作「underground」にも、参加をしているのであるが、

正直、ネイト・スミス自体に、それほど強烈なインパクトを感じた覚えはなかった。

 

今回、たまたまitunesの新作を調べていて、

ジャケットがとても印象的で、試聴してみたのであるが、

最近ではめずらしく、思わず最後まで、聴き通してしまった。

何か、気持ちが開放されていくようで、

まるで、日常の生活リズムに、華というかワクワクした気持ちを添えるような、

爽快感を感じた。

結構、楽曲的には、多彩でチャレンジングだとは思うのだけれども、

実に、スムースで、軽やかなビートに心が解放されていく気分なのである。

ネイト・スミスのビートの魔術に、改めて気づかされたように思う。

 

我々世代には、馴染みがないサウンドかも知れないが、

頑なな心にも、すんなり入ってくるということは、

やはり、何かが違うのであろう。

とにかく、何か開放される気分なのである。

体を、ゆっくりスイングしながら、楽しむことができる

幸せな気分にさせてくれる傑作である。

 

Nate Smith, drums, keyboards, percussion
Brad Allen Williams, guitar
Fima Ephron, bass
Jaleel Shaw, saxophone
Jon Cowherd, piano, Fender Rhodes, Hammond B-3 organ
Guest personnel:
Brittany Howard, vocals on “Fly (for Mike)”
Amma Whatt, vocals on “I Burn For You”
Joel Ross, vibraphone on “Altitude” and “See The Birds”
Kokayi, vocals on “Square Wheel” and “Band Room Freestyle”
Michael Mayo, vocals on “Square Wheel”, “Altitude” and “See The Birds”
Regina Carter, violin on “Collision”
Stokley, vocals on “Don’t Let Me Get Away”
Vernon Reid, guitar on “Rambo: The Vigilante” 

 

1. Altitude feat. Joel Ross & Michael Mayo

2. Square Wheel feat. Kokayi & Michael Mayo

3. Band Room Freestyle feat. Kokayi

4. Street Lamp

5. Don’t Let Me Get Away feat. Stokley

6. Collision feat. Regina Carter

7. Meditation: Prelude

8. Rambo: The Vigilante feat. Vernon Reid

9. I Burn for You feat. Amma Whatt

10. See the Birds feat. Joel Ross & Michael Mayo

11. Fly (For Mike) feat. Brittany Howard

 


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John Scofield ジョン・スコフィールド Who's Who

ジョン・スコ節は昔から変わらない

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学生時代、マニアックなギタリスト達の羨望の的であった、ジョン・スコ。

当時、変態フレーズ、アウトフレーズの代名詞の様に言われていた、

ジョン・スコも、今となっては、もはや定番になってしまった。

 

昔、ホントに何度も聴いたこのアルバムを改めて聴いた感想を要約すると、

 ・ジョン・スコは基本、昔も今も変わらないなぁ

 ・これが1979年のリリースとは!今なお、新鮮で斬新、お洒落。

 

特に、アンソニー・ジャクソンとスティーブ・ジョーダンとのコンビネーションは、

今聴いても、クールでキュート。シビれる。

レイジーで、ブルージーなジョン・スコのギターを、

二人のセンシティブでタイトなリズムセクションが、引き立てている構図。

 

特に、表題曲の「Who's Who? 」のカッコイイことと言ったら!

アンソニー・ジャクソンのグルーブ感溢れるベース・フレーズに乗って、

気持ち良く滑っていく、ジョン・スコの流暢なブルースフレーズ。

シンプルなフュージョンではあるかも知れないが、至極の世界である。

 

初期ジョン・スコの中で一番好きなアルバムです。

ケニー・カークランドも相変わらず・・・・(ニンマリ)。

 

John Scofield(G)

Kenny Kirkland(P on 1-2, 4-6),

Anthony Jackson(B on 1-2, 4-5),

Steve Jordan(Ds on 1-2, 4-5),

Sammy Figueroa(Per on 1-2, 4-5),

Billy Hart(Ds on 3, 6),

Eddie Gomez(B on 3, 6),

David Liebman(Ss, Ts on 3, 6)

Released 1979. 

 

1. Looks Like Meringue

2. Cassidae

3. The Beatles

4. Spoons

5. Who's Who?

6. How The West Was Won

 

表題曲のWho's Who?  

Anthony JacksonとSteve Jordanのプロの妙技にご注目を!


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Jon Secada & Gonzalo Rubalcaba ジョン・セダカ&ゴンサロ・ルバルカバ Solos

孤と孤の対峙 Solos

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明らかに、アルバムジャケットの構図は、

トニー・ベネットビル・エバンスのあの名作デュオ・アルバムを意識している。

 

恥ずかしながら、このジョン・セダカというミュージシャンを、

これまで全く知らなかった。

グラミー賞を2回獲得し、2.000万枚のアルバムのセールスを記録していると言う

キューバ出身のシンガーソングライターなのだそうだ。

ジョン・セダカの歌声を聴いた時、非常にキューバ音楽のフレーバーで、

ねちっこいような声に、最初は、少しの抵抗を感じたのであるが、

聴き込むにつれ、不思議にこのアクの強さが、癖になり、身に沁みてきたのである。

 

それは、何よりジョン・セダカの歌声が、ゴンサロとの緊張感あるやり取りにより、

引き立っていることは言うまでもない。

まさに、タイトル「Solos」が表しているように、

それぞれが、自立し、完成された「個」と「個」の、

妥協なき「せめぎ合い」であり、「交歓」であり、「信頼」である。

 

トニー・ベネットビル・エバンスのデュオ作品を意識したとは思われるが、

トニー・ベネットーとエバンスの場合、

お互いの完成された音楽性に、歩み寄る感覚がある様な気がするのに対して、

この作品の対峙は、もっと対等な立場で、「孤」と「孤」が遠慮せず、

自己主張してぶつかり合ったような、凄まじさと緊張感を感じる。

 

ゴンサロのピアノは、いつも畏れ多くて、あまり聴かない方ではあるのだが、

非常に硬質で、正確無比なフィンガリングとリズムに裏つげられた叙情性は、

この作品にも、遺憾無く発揮されている。

誠に素晴らしいピアニズムである。改めて評価したい。

 

二度と再演できない、二人の一回性の交歓の軌跡。

久しぶりに、ピアノとボーカルのデュオの素晴らしさを、

思う存分楽しむことができた。

今年聴いたアルバムの中で、今のところ、一番衝撃を受けた作品である。

 

Jon Secada(vo)

Gonzalo Rubalcaba(p)

 

01.  Rosa Mustia
02. Contigo en la Distancia
03. Soy Tan Feliz
04. Me Faltabas Tú
05. Tú Me Acostumbraste
06. Dime Que Me Amas
07. Longina
08. Delirio
09. La Tarde
10. Hasta Mañana Vida Mía

 

あまりの素晴らしさに、言葉を失った冒頭曲「Rosa Mustia」


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MILT JACKSON  ミルト・ジャクソン Opus De Jazz

思う存分ミルト・ジャクソン

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ミルト・ジャクソンを聴きたくなると、
やはりこのアルバムに手が伸びる。
 
誠に真っ当で、お洒落で、小粋なアンサンブルである。
何しろ、人選が的を得ていて成功している。
限りなくブリリアントなミルトと
修行僧のようなハンク・ジョーンズの対比に、
流麗なメロディーメーカー、フランク・ウェスが華を添える。
 
1曲目なんか、
これでもかと言うほど、各人、ソロを取っている。
何回ソロを回すねん!とツッコミたくなるほど、思う存分ソロをとっている。
でも、そのソロが押し並べて、秀逸で、少しも飽きがこない。
 
ハンク・ジョーンズというピアニストは、
ホントにすごいピアニストだと思うのである。
外連味のない、真っ当なピアノに徹する彼のブロフェッショナルな姿勢を
プロのミュージシャンたちは、もっと見習わなければいけないと思う。
当たり前のようにサラーっと弾いて、確かに地味ではあるが、
伝統工芸職人の無駄のない鮮やかな手技と言ったら良いであろうか、
よく聴くと、やはりすごいピアノなのである。
こうしたスタイルを一生貫き通した、ハンク・ジョーンズの軌跡は、
ジャズ界の宝、伝説と言ってもよいと思うのである。
 
この作品のミルトのプレイは、いつ聴いても、ファンキーで、
音もブリリアントで、つい、聴き惚れてしまう。
個人的な思入れかも知れないが、
ミルトのヴィブラフォンは、50年代の音とフレーズが、
やはり一番、しっとりしていて、間の取り方にも余裕があって、初々しい。
 
「オパス・デ・ジャズ」と言うタイトル通り、
「ジャズとはこうあるべき!」を、
そして、ジャズの醍醐味を、皮膚感覚で感じさてくれる、
素晴らしいアルバムなのである。
 
Frank Wess(fl)
Eddie Jones(b)
1955 10 28 RVG
 
1.Opus De Funk
2.Opus Pocus
3,You Leave Me Breathless
4.Opus And Interlude