JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Charles Mingus チャールス・ミンガス Changes One / Changes Two

元気の出る音楽

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チャールス・ミンガスの音楽を、

時々、無性に聴きたくなる。

そして、ミンガスを聴くと、元気になれる。

心が暖かくなる。

 

このアルバムも、学生時代に中古の掘り出し物として、

安価で手に入れた思い出深い、レコード。

確か、2枚セットで1,500円だったと思う。

そして、買って良かったと、つくづく思ったレコード。

多感な時期に聴いたレコードの例に漏れず、

何度も何度も繰り返し聴いたアルパムである。

 

何が良いかって、

全編を通じて繰り広げられる、熱くドラマチックで、ゴージャスな曲展開。

ストーリー性があるのは、ミンガス音楽の特徴であるが、

この二枚組は、ミンガスの軌跡をコンパクトに概観できるような気がするのである。

突っ走り、いきがって先を急いで、頑なな性格で、転んだり、躓いたりしながらも、

前を向いて、仲間に励まされながら、独自のジャズを切り開いていった、

ミンガスの音楽人生そのものを、追体験できる気がする。

 

ドン・ビューレンとジョージ・アダムスのコンピも絶好調で、

70年代のミンガスユニットの顔ともいえる、

生き生きとした演奏が繰り広げられている。

よく、ミンガスの音楽は「怒り」を象徴しているというが、

私としては、

「Orange Was The Color Of Her Dress, Then Blue Silk」や

Duke Ellington's Sound Of Love 」などの、

なんともハートウォーミングでシルキーなサウンドの方に、

ミンガスの本質を感じるのである。

確かに「怒り」があってこその「優しさ」なのかもしれないが・・・

 

Jack Walrath (tp)
George Adams (ts),(vo) on Chenges One 03.
Don Pullen (pf)
Charles Mingus (b)
Dannie Richmond (ds)

On Chenges Two 04.:
Jackie Paris (vo)
Marcus Belgrave (tp)
Sy Johnson (arr.)

Recorded at Atlantic Recording Studios, NYC
on 27, 28 & 30, 1974


Changes One:
01. Remember Rockefeller At Attica (Charles Mingus)
02. Sue's Changes (Charles Mingus)
03. Devil Blues (Charles Mingus/George Adams/Gatemouth Brown)
04. Duke Ellington's Sound Of Love (Charles Mingus)

Changes Two:
01. Free Cell Back F, 'Tis Nazi U.S.A. (Charles Mingus)
02. Orange Was The Color Of Her Dress, Then Blue Silk (Charles Mingus)
03. Black Bats And Poles (Charles Mingus)
04. Duke Ellington's Sound Of Love (Charles Mingus)
05. For Harry Carney (Sy Johnson)

 


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JOE BARBIERI ジョー・バルビエリ Tratto Da Una Storia Vera

あー この幸福感!

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南米音楽に弱い私。

それも、イタリア系のアーティストのものに、感応しやすい。

 

この、ジョー・バルビエリ、キアラ・シヴェロとのデュオシングルで、

知ってはいたが、結構、日本でも人気があり、

多くの作品も世に出ている事は、知らなかった。

ジョー・バルビエリ自身が尊敬する、チェット・ベイカーの歌物レパートリーを

とりあげた「CHET LIVES!」を発表したり、無印良品のレーベルから、

復刻品が出るなど、多彩な活動をしているシンカーソングライターなのである。

 

ピアノのステファノ・ボラーニとか、ボーカルのキアラ・シヴェロもそうだが、

イタリア系という事で、少し濃厚で甘い、ある意味癖の強い感じが、

自分の心にやけにフィットしてきて、とろけていくようで、好きなのである。

 

このアルバムは、ストリングスの使い方の旨さ、

ポップス的な要素を重視した分かりやすさ、

そして、何より彼の甘い声も素晴らしく、

全編通して、多彩で、聴きやすく、うっとりするような流れを持った、

傑作に仕上がっていると思う。

 

なんと言っても、1曲目のファブリッツィオ・ボッソをフューチャーした、

「La Giusta Distanza」の素晴らしさ!

天気の良い新緑の日に、この音楽をかけていると、

幸福感に包まれるのである。

 

ジョー・バルビエリ(vo, g, org, el.p, perc)

ジャキス・モレレンバウム(cello)

ファブリッツィオ・ボッソ(tp)

マウロ・オットリーニ(tb)

アルベルト・マルシコ(org)

カルメンコンソリ(vo)

トスカ(vo)

セルジョ・カンマリエーレ(vo)

ダヴァブジ クラリネット四重奏団

 

01. La Giusta Distanza (con Fabrizio Bosso)
02. Promemoria (con Mauro Ottolini)
03. Previsioni Del Tempo
04. Niente Di Grave (con Jaques Morelenbaum)
05. Lazzari Felici
06. Vedi Napoli E Poi Canta (con Alberto Marsico)
07. In Buone Mani (con Carmen Consoli)
08. Alla Fine 
09. Tu, Io E Domani (con Fabrizio Bosso, Luca Bulgarelli, Sergio Cammariere)
10. Manifesto (con Quartetto Davabugi)
11. Mentre Ridi

 

動画は、2曲目の「Promemoria」


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John Abercrombie  ジョン・アバークロンビー 39 Steps

軽音楽部の思い出

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4年の大学生活は、あっという間であった。

憧れの下宿生活、

軽音楽部でたむろし、ジャズ喫茶のバイトに明け暮れる毎日。

聴くもの、食べるもの、都会の匂い、原付バイク、何もかもが新鮮で、

一つ一つが、カラフルな色合いで輝いて見えた時もあれば、

何もかもに幻滅し、自己嫌悪のループにハマるブルーな時もあった。

ただ、今思い起こすと、とても大切で濃密な時間であったことは間違いない。

 

私が所属していた軽音楽部は、ジャズやフュージョンが主流で、

楽器の腕に自信がある者や、音楽にこだわりを持った輩が集まるクラブで、

少々面倒くさい感じというか、かげりのあるサークルでもあったような気がする。

私は、キーボードプレーヤーとして、複数のコンボに参加し、

自分のリーダーバンドも作ったし、部の看板でもあった、

ビックバンドにも所属していた。

 

部員は、圧倒的にギタリストが多く、

当時はジョン・スコやマイク・スターン、メセニーのコピーパンドが多かった。

そんな中、2年先輩のギターのN島先輩が私をメンバーに誘ってくれた。

N先輩のバンドでは、なんとジョン・アバの「アーケイド」を取り上げ、

演奏していたことを、よく覚えている。

当時、アルバムに参加していたリッチー・バイラークが非常に勢いのある頃で、

私も、バイラークのピアノを一所懸命コピーした。

もちろん、満足のいく演奏には程遠かったが、

あのECMの曲を演っているという、自負と興奮があった。

 

「アーケイド」の頃のバイラークと一緒に活動していたジョン・アバの諸作を

聴くと、当時の甘酸っぱい思い出が蘇ってくる。

そして、この頃のジョン・アバは溌剌として、頑張っていたなぁと思うのである。

 

そして、自分も就職して、結婚して、子供も成長したわけだが、

このジョン・アバカルテットの演奏「39 Steps」も、

明らかに変化していた。

大人の・淡い・成熟した音楽になっていた。

何より、コープランドが参加して、「ジョン・アバにはこの人しかいない」と

思うほどのピッタリ感!

ずっと浸っていたい、クセになる音場を創り出している。

 

今は亡き、ジョン・アバ。

このアルバムを聴くと、不思議にも、いつでも、若かりし自分と、今の自分が

時空を超えて混じり合うような感覚を覚えさせてくれるのである。

 

ノスタルジーと安堵感とやるせなさと・・・

 

John Abercrombie (g)
Marc Copland (p)
Drew Gress (double b)
Joey Baron (ds)

Rec. April 2013, NY

 

1. Vertigo (Abercrombie) 
2. LST (Copland) 
3. Bacharach (Abercrombie) 
4. Greenstreet (Abercrombie) 
5. As It Stands (Abercrombie) 
6. Spellbound (Copland) 
7. Another Ralph’s (Abercrombie) 
8. Shadow Of A Doubt (Abercrombie / Copland / Gress / Baron) 
9. 39 Steps (Abercrombie) 
10. Melancholy Baby (Ernie Burnett / George A. Norton)

 

同メンバーによる貴重な素晴らしいライブ映像です!


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Rita Payés & Elisabeth Roma リタ・パイエス & エリザベス・ローマ Como la Piel

妖しい母娘の音楽

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前作、「imagina」から気になっていた、リタ・バイエスの音楽。

ギターとトロンボーンを操り、その歌声もどこか神秘的。

前作でも、母親のエリザべス・ローマのギターを大きくフューチャーしており、

その年老いた(?)ようなエリザベスの風貌からは想像できない、

格調高く正当な実に素晴らしいスパニッシュ・ギターが、

娘の少しアンニュイな歌声や、なかなか味のあるトロンボーンの音色と絡み、

シンプルでありながら、奥行きのある音楽を創り出していた。

 

今回も、同じ路線であろうと、ワクワクしながら、通して聴いてみたのだが、

この、まだ若いアーティストの懐の深さに驚いた。

アプローチが多様で、冒険的になっているだけでなく、

さらに、少し不気味な執拗さというか、妖艶で怪しい側面も垣間見るようで、

非常に興奮した。

 

一曲目の「Nunca Vas a Comprender」の

ほのぼのとしたテイストに騙されてはいけない。(でも大好き!)

どんどん毒味を増し、妖しく、手に負えない女性的な暗さのようなものが、

立ち現れてくる。

そこがとてもスリリングでもある。

 

個人的には、8曲目の「Un tros d'ahir」という曲が心に染みた。

倦怠と明るさが同居しており、トロンボーンの音色が、空に溶け込んでいくようだ。

 

Rita Payés – vocal, trombone, guitar

Elisabeth Roma – guitar

Horacio Fumero – contrabass
Juan Berbín – percussion, drums
Eudald Payés – trumpet
Pol Batlle – electric guitar

 

1 Nunca vas a comprender
2 Doce de coco
3 Quién lo diría
4 El Marabino
5 Loca mente
6 Jorge do fusa
7 Eu desespero
8 Un tros d'ahir
9 Caricias / Esta montaña de enfrente
10 No digo que no (vaca y pollo)
11 La Rosa
 

 

 

 

 

Joni Mitchell  ジョニ・ミッチェル Both Sides Now(2000)

次元の違う説得力

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フルボリュームで、

オーケストラをバックにジョニ・ミッチェルが歌う、

このアルバムを聴くと、

やはり、いつもやられてしまう。

次元の違う説得力。

 

歳を重ねた、独特の枯れた声の妖艶さは、好き嫌いがあるかもしれないが、

この精巧なアレンジの効いたメンドゥーサのオーケストラに、

ジョニの歌がジワッーと浸透するように溶け込んで、

なんてゴージャスで、味わい深いんだろう。

 

自作曲は2曲しか取り上げていない。

ベタなスタンダードを、このような形で取り上げるのには、

ジョニにとっても、相当な準備と野心、決意が必要だったと思うし、

集大成というよりは、むしろ、冒険であったと思うのだが、

選曲、オーケストレーションとのバランス、ソリストの配置など、

とても繊細で絶妙な気遣いに溢れており、成功作だと思うのである。

 

ハンコックやショーターのソロもジョニと同じく時を重ねて、

しんみり心に迫ってくる。

なかなか気軽な気持ちで、ターンテーブルに乗せる代物ではないが、

聴き始めたら最後、彼女のキャリアから滲み出す存在感と説得力に

抗えず、どっぷりハマってしまうことはしょうがない。

ジョニは世紀の歌手だと思います。

 

Joni Mitchell — vocals

Vince Mendoza (arr, cond)with Orchestra

Mark Isham — trumpet, solo
John Anderson — oboe
Julie Andrews — bassoon
Nick Bucknall — clarinet
Stan Sulzmann — clarinet, flute
Philip Todd — clarinet, flute and alto flute
Jamie Talbot — clarinet, flute, alto flute and alto saxophone
Andrew Findon — flute
Dave Arch — piano
Vaughan Armon — violin
Kate Wilkinson — viola
Dave Daniels — cello
Philip Eastop — horn
John Barclay — trumpet
Pete Beachill — trombone
Wayne Shorter — soprano and tenor saxophone
Owen Slade — tuba
Richard Henry — bass trombone
Peter Erskine — drums
Chris Laurence — double bass
Frank Ricotti — percussion
Herbie Hancock — piano
Skaila Kanga — harp

01、You're My Thrill   
02、At Last   
03、Comes Love   
04、You've Changed
05、Answer Me, My Love
06、A Case of You
07、Don't Go to Strangers   
08、Sometimes I'm Happy   
09、Don't Worry 'Bout Me
10、Stormy Weather   
11、I Wish I Were In Love Again   
12、Both Sides Now

 


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Jakob Bro  ヤコブ・ブロ  Uma Elmo

空中から音を取り出す

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キース・ジャレットが、

NEA Jazz Masters Awards 2014 での受賞式のスピーチの中で、

 

「世界は今、退屈なものになりつつある。スクリーン上の二次元な世界であり、

 この非現実に、人々は完全に慣れ親しんでしまっている。音楽に対して、

 自分の考えを持っていない」

「(私たち※は)空中に浮遊している、その音楽を取り出し、いつでも演奏できる、

 それがコンサートを開く目的だ」

と語っている。

 ※=スタンダーズトリオのメンバーのこと

 

確かに、そんな気もする。

我々は、与えられた二次元的な安楽な世界にどっぷり浸かって、慣らされ、

身体的に世界に向き合い、あるいは立ち向かう気力を削がれ、

極めて唯脳的で、受身で、孤独で、閉じた方向へのスパイラルが、

加速してきている気がする。

 

このヤコブ・ブロのニューメンバーによるトリオの演奏を聴いて、

まさに、「空中に浮遊している、音楽を取り出す」というキースの言葉を思い出した。

演者の剥き出しの生身が「世界」=「空中」と対峙し、交歓する中で、

新たに変化した自分=音楽を取り出しているという実感に溢れている。

そんな、本来、音楽の持つ力でもある、非常にエロティックな世界との関わり方を、

教えてくれているように思った。

 

ヤコブ・ブロの、ランドスケープになっているエレクトリックなギターの使い方、

アルヴェ・ヘンリクセンの、トランペットとは思えない多層な表情を持つ音色、

ホセ・ロッシの、控えめでありながら端正な、空間の切り取り方、

などなど、まだよく聴き込んではいないが、

ヤコブ・ブロの新生トリオは、また新たな語り口を見つけたようだ。

素晴らしいの一言に尽きる。

 

Jakob Bro(guitar)
Arve Henriksen(trumpet,piccolo trumpet)
Jorge Rossy(drums)

Recorded August / September 2020

 

1. RECONSTRUCTING A DREAM
2. TO STANKO
3. BEAUTIFUL DAY
4. MORNING SONG
5. HOUSEWORK
6. MUSIC FOR BLACK PIGEONS
7. SOUND FLOWER
8. SLARAFFENLAND
9. MORNING SONG (VAR.)

 


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Bill Evans,Jim Hall  ビル・エバンス,ジムホール Intermodulation

人生で一番聴いたアルバム

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私がジャズを聴き始めて、2枚目に買ったアルバム。

見開きの和紙ライクな白いLPジャケットが素敵で、そこに描かれた、

水墨画のような二人の姿が象徴するように、

地味ながら、二人のインタープレイが紡ぎ出す、枯淡な味わいは、

聴けば聴くほど、滲み出てくるようなアルバムである。

 

「アンダーカレント」は勿論、歴史的に素晴らしいアルバムであるが、

ある意味、予見しない二人の出会いが奇跡的にスパークした感があるのに対して、

この二作目は、時を経て再開した、二人の信頼関係にあふれた相互作用が、

より深いレベルで交歓し合い、一つの硬質な結晶体に昇華している点において、

前作を上回った即興と言っても言い過ぎでは無い。

 

何度、繰り返し聴いたことか。

多分、全てのアルバムの中で、人生で一番聴いたと思う。

飽くことなく、毎日毎日ターンテーブルに載せていたのは、

一枚一枚を丁寧に大切に聴いていた貧乏学生の所以たるところではあるが、

それ以上に、この二人の緊密な秘密めいたやりとりの魅力に

取り憑かれてしまったのだろう。

今でも、二人のソロを殆ど口ずさむことができる。

 

そして今、改めて聴いても、その新鮮さを失わない。

ピアノとギターという楽器による対話が、

これほど交歓する喜びを現し、それでいて、各々が独立して美しくもある、

そんな魅力ある対話ができれば、人生幸せというものである。

演奏者としての孤独の悲しさを自覚したもの同士だからこそ、為せる技。

 

デュオ作品における最高峰の軌跡をぜひ、ご堪能ください。

 

Piano – Bill Evans
Guitar – Jim Hall

Recorded April & May 1966

 

1. I’ve Got You Under My Skin
2. My Man’s Gone Now
3. Turn Out The Stars
4. Angel Face
5. Jazz Samba
6. All Across The City

 

<動画紹介>

いきなりジム・ホールのソロに始まり、エバンスのソロに引き継がれて、

最後にエバンスのテーマで終わるという、なんともオツな構成の

冒頭曲の「I’ve Got You Under My Skin」

https://www.youtube.com/watch?v=ylzweSpaFDg