JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Joey Alexander ジョーイ・アレクサンダー Warna

作曲された即興

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正直、苦手なタイプのピアノではある。

固いのである。真面目過ぎるのである。

今回、彼の新作を聴いて改めて思った次第である。

 

2015年、なんと12歳(日本で言えぱ小学6年生!)の時に発表した

デビュー・アルバムを聴いて、その卓越した演奏に「ほんとかよ」とため息をついた。

よく、テクニックが飛び抜けた十代のミュージシャンによく使われる

「神童」というキャッチフレーズが、ジョーイ・アレクサンダーの場合、

逆に陳腐に思われるほどの、極めて抑制の効いた、

完成度の高い大人の音楽であったことに、

驚きを禁じ得なかったことをよく覚えている。

 

今回は、17歳になった彼のオリジナル作品がほとんどを占めており、

彼の音楽的な志向、好み、姿勢が如実に出た作品だと思う。

それだけに、ワクワクして聴いてみたのだが、

予想通り、やはり「ジョーイは、まだ、こういう真面目な音楽の志向なのかぁ」

と、少し残念な気持ちになったのは、確かである。

まだ17歳、しょうがないかもしれないが、あまりにも生真面目な音楽である。

 

しかし、しかしなんです。

やってることは、恐ろしく素晴らしい。なかなか真似できない。

計算された構成美、そして即興の完成度は、一流の域である。そして、

所々に、局所局所に、おそるべくセンスの良いフレーズや間の取り方で、

思わず唸ってしまう時はあるのだが、

ここに、さらに、ゆらぎ、ルーズさ、唐突さ、もどかしさといった要素が

少し加わるだけで、極上のそれこそ超一流の音楽が完成すると思われるのである。

 

安易な即興に溺れるのてなく、

作曲という緻密な作業に裏付けられた音楽を

展開しようとするアーティストこそが、

新しい地平を切り開いていくと確信している私にとって、

ジョーイ・アレキサンダーは期待の星なのである。

だって、まだ17歳。

早くピアノトリオというフォーマットから離れて、

ジョーイらしい緻密なアンサンブルが楽しめる音楽を展開していって欲しいと、

切に願うのである。

 

Joey Alexander - piano
Larry Grenadier - bass
Kendrick Scott - drums
Luisito Quintero - percussion (1, 4)
Anne Drummond - flute (11, 12)

 

1. Warna (Joey Alexander)
2. Mosaic (of Beauty) (Joey Alexander)
3. Lonely Streets (Joey Alexander)
4. Downtime (Joey Alexander)
5. Affirmation I (Joey Alexander)
6. Inner Urge (Joe Henderson)
7. We Here (Joey Alexander)
8. Tis Our Prayer (Joey Alexander)
9. Fragile (Gordon Sumner)
10. Our Story (Joey Alexander)
11. Affirmation III (Joey Alexander)
12. The Light (Joey Alexander)

 


Joey Alexander - Warna

 

SONNY ROLLINS ソニー・ロリンズ There Will Never Be Another You

ニューヨーク近代美術館のロリンズ

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ロリンズはニューヨーク近代美術館で二枚のライブ録音を残している。

1枚目は、1965年のカルテット演奏。

2枚目は、20年後の1985年のソロによる演奏。

 

70年代以降のロリンズは、どちらかというと苦手なのだが、

1985年のMoMAでのライブは、ソロというアプローチで、

往年のロリンズ節をたっぷり聴かせてくれて、大いに嬉しかった記憶がある。

 

しかし、私にとって、この1965年のライブ盤こそが、

ロリンズを心底好きになったきっかけになった思い出深いアルバムである。

 

内容的には、最後の表題曲など、16分の長尺で、延々と続くテナーとドラムの

やりとりが続き、やっと、フェイドアウトするかと思ってホッとしていたら、

なかなか終わらず、そこから5分近く、ロリンズのウタウダしたエンディングで、

閉口するところがあったり、

ステージを所狭しと歩き回るロリンズに、収録マイクが届かず、

遠くから小音量で聴こえてくる音しか拾えていないなど、

ライブ音源としての完成度は極めて低いのだが、

私にとって、まさにそのことが、逆にロリンズというパフォーマーの大きさ、

魅力を増幅させてくれた。

簡単には吹き終わらない、嫌がらせのような演奏は、

ある意味、ロリンズの奔放で豪快な魅力を象徴しているのだが、

それとは裏腹に、アドリブを極めた孤高のロリンズ特有の不安、孤独感といった

翳りを見るようで、とても切なくなってくるのである。

 

「豪快にスイングする中にある翳り」が、

ロリンズ中毒になった一番の原因である。

 

Sonny Rollins(ts)

Tommy Flanagan(p)

Bob Cranshaw(b)

Billy Higgins, Mickey Roker(ds)

1965年6月17日 ニューヨーク近代美術館

 

1 On Green Dolphin Street
2 Three Little Words
3 Mademoiselle De Paris
4 To A Wild Rose
5 There Will Never Be Another

 


On Green Dolphin Street (Live At The Museum Of Modern Art, New York, 1965)

 

 

Louise Woolley ルーイッジ・ウーレイ Rascunhos

 

ブラジルの才媛 ルーイッジ・ウーレイ

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今回、紹介するのは、

ブラジル出身の女性ピアノ奏者/コンポーザー、ルーイッジ・ウーレイ。

初めて、聴くアーティストだったが、

「ブラジル音楽を基盤とした、多様かつ理知的なコンポジション

「抑制の効いたタッチが秀逸なピアノ」

という二つの側面において、引き込まれた。

私好みのブラジリアンジャズである。

 

特に、ウーレイのピアノ!

軽やかなタッチ、弾ききらない、非常に計算されたソロ。

淡々としていて、出しゃばらず、なんとも素敵。

アンサンブル重視の音楽における即興の奥ゆかしさとも言うべきか。

 

また、リヴィア・ネストロフスキのスキャットも効果的で、

全体が、透明感のあるクールなサウンドに仕上がっている。

 

アルバムタイトルの「Rascunhos」は、ポルトガル語で、

「下書き」とか「草稿」といった意味。

音楽においても、スケッチは重要だ。

今回は、草稿段階という意味で、一連の習作と言って良い。

今後どのように、発展進化していくのかが、楽しみなアーティストの一人である。

 

Louise Woolley – piano
Bruno Migotto – double bass
Daniel De Paula – drums
Jota P. – saxophone
Diego Garbin – trumpet, flugelhorn
Danilo Silva – guitar
Lívia Nestrovski – vocals

 

1.Rascunho No. 1
2.Rascunho No. 3
3.Rascunho No. 6
4.Rascunho No. 4
5.Rascunho No. 9
6.Rascunho No. 7
7.Rascunho No. 2
8.Primeiro Dan

 


Louise Woolley - 'Rascunho 4'

 

 

Kenny Kirkland ケニー・カークランド  Kenny Kirkland

ケニー・カークランドみたいに弾けたなら

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ケニー・カークランドの初リーダーアルバムである。

学生時代、最も憧れたピアニスト。

そして好きなミュージシャンのピアニストはいつもケニーが務めていた。

 

マイケル・ブレッカー、ミロスラフ・ビトウス、日野皓正、ケニー・ギャレット、

エルビン・ジョーンズ、そしてマルサリス兄弟などなど。

当時、サイドマンとして、引っ張りだこだった。

大西順子も興に乗ると、ケニーの常套フレーズが出てくる。

当時は非常に影響力が大きかったピアニストである。

 

モーダルでスピード感ある流麗なアドリブ、

でもちゃんとよく唄って、半端なくスイングするケニーの演奏は、

聴いているだけで、全身に心地よい興奮が湧き上がり、喜びに包まれる。

今聴いても、ケニーのソロは矢張り別格である。

ピアノの化身である。

 

「ピアノの化身」と形容されるピアニストに「ミシェル・ペトリチアーニ」がいるが、

もう一人、ケニー・カークランドを加えていただきたい。

さらに「ピアノの化身」三羽ガラスに、マッコイ・タイナーを加えても良い。

「ピアノの化身」と形容するのは、アドリブに焦点を当てた時、圧倒的だという意味。

とにかく、徹底的に弾きまくるし、それがこの上なく嵌っていることを意味する。

それはライブ映像を見ればよくわかる。

 

ケニーの後継者は、ジョーイ・カルデラッツォであるが、

ブランフォード・マルサリスマイケル・ブレッカーが、

ジョーイを長年起用し続けたのも、

ケニーのピアノのテイストをいかに好んでいたかの証であろう。

 

この初リーダーアルバムは、選曲、メンバー構成共に多彩で、

非常に意欲的な作品であり、当時のメインストリームジャズを堪能できる。

何度、繰り返し聴いたことか。

 

あと、オマケですが、次の譜面のついた動画も良かったらご覧ください。

ウィントン・マルサリスピーター・アースキンのリーダーアルバムにおける

ケニー・カークランドのピアノソロが採譜してあります。

なんとカッコいいこと!

 

  • Kenny Kirkland - piano (all but 3 & 5), keyboards (track 5, 11)
  • Branford Marsalis- tenor saxophone (1, 10), soprano saxophone (2, 4, 9)
  • Jeff "Tain" Watts- drums (1-4, 6, 7, 9)
  • Steve Berrios - drums (8, 10)
  • Don Alias - percussion (5, 11, 8)
  • Jerry Gonzales - percussion (8, 10)
  • Roderick Ward - alto saxophone (7)
  • Andy Gonzalez - bass (8, 10)
  • Charnett Moffett- bass (1, 4, 7)
  • Christian McBride- bass (6)
  1. "Mr. J. C." - 8:07
  2. "Midnight Silence" - 3:32
  3. "El Rey" - 1:35
  4. "Steepian Faith" - 6:03
  5. "Celia" - 6:49
  6. "Chance" - 6:01
  7. "When Will The Blues Leave"  - 5:39
  8. "Ana Maria" - 8:36
  9. "Revelations" - 7:48
  10. "Criss Cross" - 5:19
  11. "Blasphemy" - 3:04
  12. Steepian Faith - Kenny Kirkland ( Kenny Kirkland )


    Kenny Kirkland - Black codes | Piano solo transcription(ウィントン・マルサリス)


    Kenny Kirkland and Michael Brecker solos transcription by Paolo Principi.(ピーター・アースキン)

     

スタヴ・ゴールドベルグ Stav Goldberg Songs

無名のSSW

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ここ数年、サブスク のitunes上を彷徨って
名前も聞いたことのない、
ただ、一聴して、「これは!」と思うアルバムを
探すのが一つの楽しみになっている。
 
ネットで検索しても、日本語の紹介もほとんどなく、
露出が少ない若手のアーティストでも、
itunesにはちゃんと登録してあることがよくある。
そして、そうした若手のアーティストの情報は、Youtubeで補強できる。
 
このイスラエル出身のシンガーソングライターのスタヴ・ゴールドベルグ
そうして出会った一人。
Youtubeで検索すると、ピアノトリオでの演奏をいくつか聴くことができる。
もともとジャズピアニストとして活躍していることが、よくわかる。
ただ、ピアノトリオの演奏は、正直、心揺さぶられるまではいかず、
少しガッカリした。
だが、このアルバムは、一聴して心奪われる何かがあったのである。
スタヴ・ゴールドベルグの感性が、
シンガーソングライターに徹することによって花開いた感じがする。
 
女性ボーカルやコーラス、フェンダーローズを上手く取り入れた
少し物憂げで、さらりとしたテイストのサウンドは、
浮遊感を伴って、とても心地よく、いつまでも聴いていたい感じがする。
 
itunesで一度試聴してみてはいかがですか。
 
 
Stav Goldberg – Lyrics, composition, arrangement, vocals, piano, musical production. Aviv Peck – background vocals
Sarai Zak Levi - Background vocals
Rony Iwrin - percussion
Avri Borochov – contrabass


Flower – Stav Goldberg & Aviv Pec

Charles Lloyd チャールス・ロイド The Call

チャールス・ロイドの思い出

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何年前なのかは、はっきり思い出せないが、かなり前のこと。

名古屋パルコにあるクラブ・クアトロで

生のチャールス・ロイドを観た。

メンバーは、ヨアヒム・キューンとダニエル・ユメールと、

ベースは忘れてしまったが、ワンホーンカルテットの演奏。

しかも、確か、これも正確には覚えていないけれど、

ゲーリー・ビーコックとラルフ・タウナー(?記憶が疑わしい)のデュオとの

カップリングライブだった気がするのである。

今から思えば、なんと贅沢なライブだったんだろう。

 

ゲーリー・ピーッコック狙いで観に行ったライブであったが、

ロイドのオーラに完全にノックアウトされて、

ゲーリーの演奏の記憶が飛んでしまっている。

 

なんという神々しさ。

なんという音の広がり。

ロイドが祈祷師のように、サックスを上下にフリフリしながら、

流れ出てくる音に、軽いトランスを覚えたことを今でも覚えている。

ピアノが、ヨアヒム・キューンということもあって、

いつも以上に、前衛的で、アグレッシブなロイドではあったが、

矢張り、ジャズは生で聴かなくてはわからないという事を痛感したライブであった。

 

それ以来、ロイドのECMの一連の作品を聴いてきた。

基本、ロイド自体の演奏スタンスは変わらないのだが、

サイドマンの変遷が、それぞれ特徴があって、どれも魅力的である。

個人的には、ピアノがボボ・ステンソンの時のカルテットが一番、好きで、

特にこの「The Call」は、ロイドとボボの相性が抜群で、ロイドのブローが

絶好調である。ロイドカルテットの入門編としても良いと思う。

 

3曲目の「Dwija」という曲は、「Love Ship」と同一の曲であると思うが、

夢の中をゆっくり、ゆっくり彷徨うようなバラードが秀逸。

次のYOUTUBE動画は、60年代のキースとディジョネットと一緒に演っている

「Love Ship」だが、これもまた素晴らしい動画なのでアップしておきます。

 

Charles Lloyd(Ts)

Bobo Stenson(P)

Anders Jormin(B)

Billy Hart(Ds)

Recorded July 1993

 

1. Nocturne

2. Song

3. Dwija

4. Glimpse

5. Imke

6. Amarma

7. Figure In Blue, Memories Of Duke

8. The Blessing

9. Brother On The Rooftop

 


Charles Lloyd-Keith Jarrett 1968

キースが初々しい!

 

Ben Wendel ベン・ウェンデル High Heart

ツインキーボードが効いています。

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もう、こういうバリバリの、今を時めくニューエイジ音楽を聴く勇気も

だんだん薄れてきていることは確かである。

 

ただ、まだまだ、諦めてはいけない。

この大胆な編成による、実験的な挑戦は、しっかり押さえておかなくてはと思い、

itunesで先行リリースされたものを、ダウンロードしたのは、9月下旬。

最近やっと、全曲聴き終えた。

若い時に聴いていたら、さそがし、興奮して、

のめり込んでいただろうなぁと思われ、素晴らしくスケールのデカい、

これまであまり触れたことのない、

新しいジャズのアプローチを十分に感じさせてくれた。

 

特徴と魅力を分析してみる。

 

まず、初めて聴く、マイケル・マヨと言うボーカルの全面的な導入。

こうしたポイスを大胆に取り入れた作品というのは、

余程グラウンドがしっかりしていないと、地に足がついたジャズにならない。

しかし、PMGやチック・コリアの諸作品と同様、

グラウンドが錚々たるメンバーによる硬質で完成度が高く、

ボーカルによって、サウンド全体の広がりと奥行きがさらに深くなっている。

 

次に、ツインキーボードによる音の厚みとスピード感の醸成。

私は、シャイ・マエストロのピアノはどちらかと言うとあまり好きではない。

レイジーさが希薄で、クラシカル、テクニカルな匂いが強い感じがして、

敬遠するタイプのピアニストだ。

しかし、このグループでのエクスプレッションにおいては、

それが、非常にマッチして、サウンド全体の厚みを増し、

さらに、高揚感、浮遊感そして、スピード感をより演出させるのに成功している。

正直、大好きなジェラルド・クレイトンと、

今一つのシャイ・マエストロのどちらが、

どのフレーズを弾いているのかさえ、よくわからない。

それぞれのピアニストの個性という次元を超えて、

グループサウンドに新しい構築物として溶け込んでしまっている感じがする。

 

そして最後に、安定のウェンデルのソロ。

こちらは、不動である。これまでと変わらず達者である。

 

ウェンデルの野心的かつ、大胆な挑戦に拍手を送りたい。

 

Ben Wendel – saxophone, bassoon, EFX
Shai Maestro – piano, Fender Rhodes
Gerald Clayton – piano, Fender Rhodes
Joe Sanders – double bass
Nate Wood – drums
Michael Mayo – voice, EFX

 

1. High Heart
2. Burning Bright
3. Kindly
4. Less
5. Drawn Away
6. Fearsome
7. Darling
8. Traveler
9.Lullaby (日本盤ボーナス曲)
2020年作品

 


Ben Wendel High Heart: Burning Bright