JAZZ遊戯三昧

オススメのジャズアルバムを紹介してます。

Chris Potter  クリス・ポッター Eagles Point

ジャケットが意味深! クリス・ポーターの新作を聴く

ポッター、メルドー、パティトゥッチ、ブレイドの名が記された

アルバムアートワークがまず意味深。

 

赤の下地の中央付近に、

細やかな無数の鳥の羽ばたくカラフルなシルエットに刻まれた

四人の赤字のクレジット。

地味なデザインでありながら、訴求力を感じる。

背景の赤地に赤字のクレジットは普通は、目立たないので、

あまり使わない組み合わせだが、

なんだか、このユニットの特徴を

端的に示しているような気がするのである。

 

全編、只管、「即興」が淡々と繰り広げられている。

楽曲の構成とか、極端な演出や盛り上がりなど、

奇を衒ったところが無く、

むしろ一聴して、平板にさえ感じるのだが、

そこがたまらなくいい!

 

ただ、四人がお互いの音を確かめながらインプロしている。

そんな印象がある。

何せこのメンバーである。

集まって、何を創造するのかは、どのように決まっていくのであろう。

そのプロセスこそ知りたいが、

聴いて感ずるところでは、

ポッターによる簡単なテーマ、構成提示だけで、

あとはも個々人の技量に任せた、

スポンティニアスな展開に任せたのではと予想するものである。

 

昨今、本当に良く練られ、考え抜かれた構成と

ジャズの新たな地平を突き走るような野心作も本当に多く出てきて、

ワクワクしているが、

このアルバムのように、

四人の円熟したインプロバイザーのインタープレイの成り行きに

身を任せるのも、なんともスリリングで嬉しい!

 

Chris Potter (ts, ss, b-cl)
Brad Mehldau (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)

 

1. Dream of Home
2. Cloud Message
3. Indigo Ildikó
4. Eagle's Point
5. Aria for Anna
6. Other Plans
7. Málaga Moon
8. Horizon Dance

9. All the things you are

 

Chris Potter (ts, ss, b-cl)
Brad Mehldau (p)
John Patitucci (b)
Brian Blade (ds)

 


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小曽根真 Trinfinity

小曽根真について考える

小曽根真は、
既に、かなり前から、
今や日本のジャズミュージシャンの
精神的な支柱となっている感がある。
彼のプレイの卓越さだけでなく、
いろんな面で配慮ができ、
そのポジティブで開かれた印象の人間性からも
絶大な信頼を得ているのであろう。

私自身、
小曽根真の実際の演奏に接したことは2度ほどしかないが、
まず、一番印象的なのは、
楽しそう、嬉しそうに弾いている姿である。
弾いている最中の視線も、
エバンスのように内省的な下向きではなく、
一緒に演奏するプレイヤーに時には微笑み、
時には挑戦的な視線が向けられている。
こうした印象は、非の打ちどころのない
緩急がついた、良く歌う正確なプレイと
相まって、観客にとっても、
何かほのぼのとした一体感を
与えるような効果がある気がする。
この前、壺阪健斗という素晴らしい若手の
ピアニストの演奏を聴いたが、
その舞台での仕草、様子は、
まるで小曽根真を見ているようだった。

私は「オリジナリティ」
という言葉を過度に信用はしていない。
池田満寿夫が指摘している様に、
芸術なんてものは、
ある意味、「模倣」に始まり、
「模倣」に終わるものだと思うからである。
模倣こそが芸術の本質というのは真理である。

だから誰かから、何かしら影響を受けていない
アーティストなんか、あり得ないし、
そんな人が仮にいたとしても、
極めて独創的だと手放しで
評価されるべきのものでない気がする。
一人の優れたアーティストの根底には、
必ずルーツとなる何かしら、
先人のスタイルの影響があるのである。

人間の思考や表現といったものは、
何かしら外部からの刺激を受け、
それを自分というフィルターを通じて、
表出されるものであるが、
音楽の場合、先人のプレイに刺激を受けて、
模倣したくなり、自分自身の表出の仕方を
試みていくわけである。
その表出の仕方に、
その人固有の「癖」と「表情」というものが
立ち現れてくるのが普通である。
そして、その「癖」や「表情」の
あり様そのものが、
その人の味として、個性として魅力を感じたり、
感情移入できるものなのではなかろうか。

そのように考えたとき、
小曽根真の「癖」や「表情」のあり様とは
どの様なものなのか、
少し思いを巡らしてみたくなった。

ところが、小曽根というフィルターを通すと
その性能が凄すぎて
過去の偉大なパーチュオーゾの音楽が、
そのまま高精細に、いやむしろさらに
磨き上げられて美しく再構成されて、

見事に表出されてしまっている気がするのである。

だから、小曽根の「癖」とか「表情」は何かと
問われると、非常に難しい質問になってしまうのである。

 

すでに、小曽根真も私同様、還暦を超えた。
実は、最近、若手を従えた、この
「Trinfinity」というアルバムを聴いて、
これまでの印象が、少し変わったのである。
言い表しにくいが、
音の表情がすこし、変容している。
相変わらず、正確無比な演奏で、
やっぱり変わらないなぁと思う曲もあるが、
冒頭の「ザ・パス」のアプローチ、
曲構成が実に素晴らしいし、
もどかしささえ感じるピアノの弾きっぷりが
新鮮である。
8曲目のバラード「インフィニティ」
なんかは、還暦を過ぎた者しか
出せないような凄みと共に、
枯淡さといおうか、諦観といおうか、
フラジャイルな面も感じられた。

こうした小曽根真のある意味「弱み」を帯びた表情が
格別に心に染み入ってくるようなタームに
なってきたような予感がして、
こんな振り返りをしてみたくなったのである。

 

1. ザ・パス
2. スナップショット
3. ザ・パーク・ホッパー
4. デヴィエーション
5. エチュダージ
6. モメンタリー・モーメント 1/10先行配信
7. ミスター・モンスター
8. インフィニティ
9. オリジン・オブ・ザ・スターズ

小曽根真:piano
小川晋平:bass
きたいくにと:drums
with
パキート・デリベラ:clarinet on 5
ダニー・マッキャスリン:tenor saxophone on 3, 4
佐々木梨子:alto saxophone on 3
二階堂貴文:percussion on 5

2023年8月25日&26日 

ニューヨーク、パワーステーション・バークリーNYCにて録音

 


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Jacob Collier ジェイコブ・コリアー Djesse Vol. 4

ジェイコブ・コリアーの「わかりすく、難しことをやる」

 

このジェイコブ・コリアーの

Djesseシリーズ最後の集大成的アルバムを聴いて、

久しぶりに若かりし頃の音楽的戦慄の感覚が蘇ってきた。

 

「戦慄」を辞書で引くと、「怖くて震えること。おののくこと」とある。

怖くはないので、少しニュアンスは違うが、

「身体が震える」とか「血がたぎる」とか「おののく」といった表現は

しっくりくる。

 

私にとっても洋楽の初体験であった、クイーンの第5作までの初期作品群や、

EL&Pの「恐怖の頭脳改革」、ツェッペリンの映画「永遠の詩」など、

十代の頃の音楽体験はあまりにも強烈で、まさに戦慄して聴いていた。

 

ジャズでは、そこまで十代のころ感じたような戦慄を与えてくれた

アルバムはないのかもしれない。

強いて挙げれば、

マイルスのライブ盤「マイ・ファニー・バレンタイン」

キースの「スタンダーズVOL.1」、ハンコックの「バタフライ」あたりか。

 

ジェイコブ・コリアーとの出会いは、最初から衝撃的で、

一時、かなりハマっていた時期があったが、

最近、少し鼻につくような感じで、飽きてきたとも言えるのだが、

このジェイコブ・コリアーの新作を聴いて、まずは、

「ああ、素直になったなぁ」

「ポップでわかりやすくていい感じ!」

という第一印象が、まずあり、とても好感が持て、聴き進むことができた。

しかし、聴き進むうちに、不思議なことに、

前述の若かりし頃の戦慄に近い感覚が蘇ってきたのである。

勿論、若かりし頃の戦慄の程度の強さには及ばないのだが、

もし、このアルバムを、若い頃に熟聴していたら

強烈に戦慄していたのではなかろうかと、想像してしまったのである。

 

それだけ、このアルバムは、広がりのある音楽の仕掛けが充満して、

玉手箱のような魅力に溢れ、わかりやすく、かつ完成度も高い。

わかりやすく、難しことをやる、ジェイコブは偉いと思うのである。

 

今更ながら、やはり、ジェイコブ・コリアーは凄いアーティストだと思う。

凄すぎて、リスナーは、滅多なことでは

驚かなくなってしまうのかもしれない。

これだけの創作物を、隅々まで浸りながら聴いてみれば、

その恐ろしいほどの沼に、溺れる事だろうと思うのである。

 

1. 100,000 Voices
2. She Put Sunshine
3. Little Blue (feat. Brandi Carlile)
4. WELLLL
5. Cinnamon Crush (feat. Lindsey Lomis)
6. Wherever I Go (feat. Lawrence & Michael McDonald)
7. Summer Rain (feat. Maddison Cunningham & Chris Thile)
8. A Rock Somewhere (feat. Anoushka Shankar & Varijashree Venugopal)
9. Mi Corazón (feat. Camilo)
10. Witness Me (feat. Shawn Mendes, Stormzy & Kirk Franklin)
11. Never Gonna Be Alone (feat. Lizzy McAlpine & John Mayer)
12. Bridge Over Troubled Water (feat. John Legend & Tori Kelly)
13. Over You (feat. aespa & Chris Marin)
14. Box Of Stars Pt. 1 (feat. Kirk Franklin, CHIKA, D Smoke, Sho Madjo, Yelle & Kanyi)
15. Box Of Stars Pt. 2 (feat. Metropole Orkest, Suzie Collier, Steve Vai & VOCES8)
16. World O World

 


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TOM OLLENDORFF  トム・オレンドルフ  A SONG FOR YOU

初体験!Tom Ollendorff 

 

遅ればせながら、

最近知ったギタリスト。

いやー最初の一曲目から、私好みの音色と、牧歌感の強い曲調に、

一瞬で心を捉えられた。

きっちり伝統を踏まえた上でのモダンなアプローチが、聴き易くて、

自然に、トリオでの対話に没入することができる。

 

また、このベースのチャップリンという人が、

とてもふくよかなベース音で素晴らしい。

このトリオに通底するグルーブをしっかり支えている。

 

英国の若きギタリストということらしい。

英国出身のアーティストって、そんなに頭に浮かんでこない。

コートニー・パイン、ジョン・マクラフリンエヴァン・パーカー

ジョン・テイラーとか・・・・、

どこか一癖も二癖もある面々であるが、

このトム・オレンドルフの音楽は、とても穏やかで、心地よい。

 

今後注目していきたいギタリストである。

 

Tom Ollendorff (g)
Conor Chaplin (b)
Marc Michel (ds)

1 A Song for You
2 Spring
3 Etude 1
4 Not in These Days
5 XY
6 Autumn in New York
7 Aare
8 Etude 3
9 These Days

RECORDED at Giant Wafer Studios, Wales,

December 2 & 3, 2019

 


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Lee Konitz リー・コニッツ very cool

まさにヴェリー・クール!

 

リー・コニッツも、時に無性に聴きたくなるプレイヤーである。

やはり唯一無二のトーンと節回しが、

何ともクールでカッコ良い。

 

どう形容したら良いのだろう。

内に含んだような少し篭り気味でありながら、滋味深く艶やかな音色が、

心に沁み込んでくる。

リー・コニッツの音を注意深く聴いてみると、

ブレスコントローなのか、細やかに揺れている感じが何とも独特で心地よいのだが、

ポール・デズモントとはまた違う、ふくよかな音色が、

クールなのだが暖かいのである。

そして、この音色で奏でられるホリゾンタルで、流暢なフレーズが

これまた、天下一品で、本当によく歌っている。

 

このアルバムは、大学生の時に1,500円の廉価版(LP盤)で購入して、

下宿で、寝る前によく聴いたものだ。

特に、A面の3曲。

1曲目と3曲目がテンポのある、流れるようなクールサウンドで、

2曲目が「星へのきざはし」というバラード曲という構成も、

変化があって好きだったなあ。

 

1950年代のクール・ジャズの特集をサブスクなんかで聴くと、

意外と知らない名演奏やアルバムがあることを知る。

とても、現代的で実験的なニュアンスを持っていると改めて思うし、

ビ・バップと共に、モダンジャズの革新性を支えた潮流なのである。

もっと研究してみたい。

 

Lee Konitz(as)

Don Ferrara(tp)

Sal Mosca(p)

Peter Ind(b)

Shadow Wilson(ds)

 

1 Sunflower
2 Stairway To The Stars
3 Movin' Around
4 Kary's Trance
5 Crazy She Calls Me
6 Billie's Bounce

 

Movin' Around リーのソロの最初の辺りの、つまずいた様なフレーズが好き!


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2023のベスト3

今年のベストは、マーク・ジュリアナ、パット・メセニー、ホーザ・パッソス&ルーラ・ガルヴァオン

 マーク・ジュリアナ「Mischief」

 パット・メセニー「Dream Box」

                    ホーザ・パッソス&ルーラ・ガルヴァオン

 

今年も、新譜を広く聴いたわけではなく、むしろ、

昔から所有していたり、名盤と言われながらも聴いていなかった

アルバムなどを中心に聴く機会が多い年であった

例えば、オスカー・ピーターソントリオとミルト・ジャクソン

1962年のverev盤「Very Tall」。

こんな良質なジャズを聴き逃していたとは!

それから、日本ジャズ界の若手の活躍に、改めて心震えた年でもあった。

平川初音が井上陽介と池田篤と組んでリリースしたアルバム、

「Wheel Of Time」には手放しで拍手を送りたいし、

12月10日に兜町で開かれた「JAZZ EMP@Tokyo Financial Street」は、

なんと無料のイベントであったが、

平川初音、松原慎之介、Taka Nawashiroの各ユニットの演奏が本当に素晴らしかった。

自分たちのやりたいことをやるというコンセプトのもと展開された音楽は、

エネルギッシュなだけでなく、高度な技術に裏付けされた、

非常にクリエイティブで構成力の優れたサウンドに満ち溢れ、

久々にライブの醍醐味を味わった。

特に、この催しで魅了されたのは、

御贔屓の平川初音のユニットは勿論のこと(奇をてらわない平倉のMCも大好き)、

Taka Nawashiroのユニットがすごかった!

全篇Takaのオリジナルだが、曲作りもうまいし、浮遊感のあるギターとともに、

グループエキスプレッションとして昇華していく様は圧巻であった

壺阪健斗のピアノも冴えに冴えていたし、高橋陸のベースも期待通り。

そして何より初めて聴いたドラムの小田切和寛のエレガントなドラムにも痺れた。

これだけ高レベルの熱い音楽が日本から生まれていることを、

もっともっと広く知らしめたいという気持ちになった。

美術界のパトロンというサポートは昔からよく聞くが、

若手ジャズミュージシャンのパトロン文化、即ち、若手育成に企業や愛好家が

私財を投じるという社会貢献が、日本にも定着していかねばならないのではと感じた。


さて、本題の今年度のベスト3は、

マーク・ジュリアナ「Mischief」

zawinul.hatenablog.com

パット・メセニー「Dream Box」

zawinul.hatenablog.com

ホーザ・パッソス&ルーラ・ガルヴァオン

zawinul.hatenablog.com

にしました。


マーク・ジュリアナは昨年度に引き続きセレクトしたが、

やはり圧倒的に凄いことをやってるなという感覚、

簡単には説明できない説得力が備わっている。

今回は、前作の「The sound of Listening」の実験的な側面というより、

ジャズというトラディショナルを真正面から受け止め、

余裕さえ感じられるアプローチに、心底やられたという感じである。

パット・メセニーは一言、私のノスタルジーである。

これをやられては完全にノックアウトである。

メセニーのソロアルバムなんだけど、

どうしてもライル・メイズ想起してしまう自分がいる。

そして、ホーザ・パッソス&ルーラ・ガルヴァオン。

これまで知らなかった名手ルーラ・ガルヴァオンのギターにのせて語られる

枯淡でフラジャイルなホーザの歌声がしみじみと心に沁みわたってきます。

 

Kurt Rosenwinkel & Geri Allen カート・ローゼンウィンケル、ジェリ・アレン Lovesome Thing

奥の深いカート 〜魅力尽きることなく〜

やはり、カートのギターは深いなあ〜

年末に、これまた心揺さぶられるアルバムに出会うことができた。

心囚われ、没入感半端ない、今年のベストアルバムの一つである。

 

録音されたのは2012年というから、10年以上も前の音源。

録音後、ジェリはスタジオ・アルバムの制作を熱望していたという。

願いは叶わず、5年後の2017年に60歳の若さで、

亡くなってしまったジェリ・アレン

 

ピアノはこう弾くんだという、他のピアニストとは一線を画した、

ジェリ・アレンの主張性の強い、独特で、鮮鋭なピアノタッチには、

いつも畏敬の念を抱いてきたが、

このカートとのデュオによるジェリのピアノは、なんというか、

非常に深遠で、ドリーミーで、

明らかに、カートに触発されて、夢心地で弾いている姿が思い浮かぶ。

 

優れたアーティスト、あるいは心酔しているアーティストと共演したときに、

喜びとイマジナリーが湧き出て、いつもとは違う自分のインプロビゼーション

導き出されていくような経験は、私にもあるが、

まさに、このアルバムには、二人のなんとも素晴らしい相互作用によって、

新たな次元の結晶を生み出すことに成功している。

ジェリが再度、アルバム制作を強く望んだこともよくわかる気がする。

 

冒頭のビリー・ストレいホーンのラブソングの美しいことといったら。

カートもいつものエキセントリックな側面は抑えられて、

より叙情的で悲しげなフレーズとタッチが、きらびやかなジェリのピアノと交歓して、

本当によく歌っているのである。

カートの深遠さを再確認することができた。

 

現代版、ジム・ホールビル・エバンスのインターモデュレーションと言いたい。

 

 

 

Kurt Rosenwinkel: Guitar

Geri: Allen: Piano

 

1. A Flower is a Lovesome Thing
2. Embraceable You
3. Introductions (Geri Allen)
4. Simple #2
5. Ruby My Dear
6. Introductions (Kurt Rosenwinkel)
7. Open-Handed Reach

 

二人の一期一会の奇跡をお聴きください。


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